お殿様の恩返し
| ある日、富士講田池に藤堂のお殿さまが鴨狩りに来られました。 最近お家騒動で、少しお疲れ気味。一人だけ家来を連れて、そっとお城を抜け出して来られました。池のそばに立つと、鴨が泳いでいるのが見えます。すると、近くから何か声が聞こえてきます。繁みに目をやると、 「これ、早くしなさい。早くしないと、あのお殿さまがあなたたちを矢で射て食べてしまうわよ」と母鴨。 「えっ、でも、この前お殿さまは、ぼくたちをなでてくれたよ。やさしいよ」と子鴨は口々に言います。 「それは、あなたたちが小さいからよ」 「そうかなあ、ぼくたち、あのお殿さま、そんなに悪い人には見えないけどなあー」 「さあさあ、はやくはやく」 お殿さまはびっくり。お供の家来と顔を見合わせながら、くすっと・・・ 「そうか。余は、今日からこの池の鴨は獲らないことにするぞ」と誓いました。 このことがあってから、お殿さまはいつもの家来を連れて、たびたび富士講田池を訪れるようになりました。 |
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| ある日、今度は、木々の中から、何か聞こえてきます。 「ねえ、松の木さんって、しあわせね。一年中、緑で、とても美しいわ」 「ええ、おかげさまで寒い冬も、緑でいられるのよ。ね、きれいでしょう?」 「わたしなんか、木にまとわりつくだけで人間にすぐ切りとられてしまうの。さびしいわ」と蔓(かずら)がつまらなそうにいったその時、 ドブーン、ガアーガアー お殿さまが蔓と松の木の話に気をとられ、足をすべらせて、池に落ちてしまいました。 |
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| 「まあ大変、お殿さまをお助けしなくては」 松の木や鴨たちも、それぞれに叫んでおります。蔓はお殿さまに目をやると、すぐ近くの松の木に自分の身体をひとまきし、「 えいっ」 と力をふりしぼり、お殿さまめがけ池に飛び込みました。 お供の家来もあわてて 「殿、その蔓をおつかみくだされ。おちついてくださりませ」と、大声をあげながら池の中へ入って行きました。蔓は、自分でお殿さまにからみつき、 「お殿さま、私がお助けします。早くつかまってください」と言うが早いか、お殿さまの身体をひとまきしました。 「かたじけない、蔓、たのむぞ」 蔓を供の家来がたぐりよせ、お殿様を無事助ける事が出来ました。お殿さまは、身体に巻いた蔓をはずしながら、 「蔓、でかしたぞ。何かほうびをとらす。なんでもいってみろ」 「えっ?何でも良いのですか?では・・私、いつもあこがれている松の木になりたいと思います。松の木にしていただけないでしょうか」 はたと困ったお殿さま。それではと、国じゅうから祈祷師を集め、蔓のまわりで三日三晩お祈りをしました。 するとどうでしょう。みんなの心がひとつになり、なんと、蔓が松の木になったではありませんか。 お殿さまも、蔓も、松の木も、かも鴨たちも、皆大変よろこびました。 今も、富士講田池近くの木々のなかに、くねくねとした松が、まっすぐの松によりそいながら、うれしそうに話している姿が見られます。 「ねえ、私ってきれい?」 「ええ、きれいよ。でもわたしだって」と。 |
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