マツタケ御殿
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| むかし昔、 伊賀郡美濃波多村中村(いがぐんみのはたむらなかむら)には、それはそれは鼻の利く男がおったそうな。その男の名は桔梗之助と言い、貧しい農家の生まれだったそうな。 美濃波多村中村の山と山の谷筋の水田(みずた)が桔梗之助の農地で、おいしいお米はとれなかったが、いつも鼻を利かし野山の草花を愛でて、毎日を明るく暮らしておったそうな。 ある日、桔梗之助が農作業を終えて、道端の花々に声をか掛けながら帰っておった。すると娘が泣いているではないか。 「娘ご、どうされたのじゃ」 「私、母の形見のお守りを落としてしまいましたの。探したのですがみあたらなくて・・困って・・」と涙ぐむのでした。 「それって、どんな色?いやいや、なんか匂いがしていないかね?」と桔梗之助が娘に聞くと、娘は不思議そうに、 「あっ、私がずっと着物のたもとに入れておいたので、匂い袋の匂いがついていると思います。」といって娘は桔梗之助に匂い袋を差し出した。すると、桔梗之助は匂い袋を嗅ぎながら 「クンクンククーン・・」と歩き出して行った。 「あった!これかい?」 その声に娘はすぐ桔梗之助の側にかけより 「あっ、これです!ありがとうございます」と何度もお礼を言いながら帰って行った。 |
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| それから、しばらくたったある秋の日、桔梗之助は近くの山へ出かけて行った。 「あー、うまそうな匂いじゃ。おれにはこれが一番のごちそうさ!」 桔梗之助は松茸を籠一杯にとり、家路へと急いでおった。すると・・ 「おーい、そこの男、待てー」と侍が追ってくるではないか。 「おら何もしてないぞ、どうしよう・・」 そうこうしている間に侍が追いついて来た。 「ハアー、ハアー、そ・な・た・ハアー・・何を籠に入れておるのじゃ?」 「へー、松茸でございますだ・・」 侍はやっと息を整え、 「これは、どうするのだ?」 「へー、これは松茸と言うきのこですだ。赤松のそばに生えておりますだ。焼いて食べるとおいしいでー」と桔梗之助はしどろもどろにこたえておった。 「どのように焼くかやってみなさい」と侍が言うと、桔梗之助は家から七輪をもって来て松茸を焼き出した。すると辺り一面、松茸のなんともいえない良い匂いで包まれた。その時、侍の一行が追いついて来た。 桔梗之助は何がなんだかわからなく、おどおどしていると、 「この方はな、藤堂家のお殿様じゃ。殿様にこの匂いのことを聞かれ、わしがそなたを追っかけて来たのじゃ」 「ははー」と桔梗之助はひれふした。 「そち、余に早く焼いてくれ」とお殿様、 「ははー」と桔梗之助は慌てて、松茸を焼き始めた。 |
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| 「食べごろでございますだ」と言うが早いか、追っかけてきた侍が 「殿、わたしめがお毒見を」と言って、食べてしまった。 「シコシコ、うーん。シコシコ、うーん」と侍は天を仰ぎ目を白黒。 「これ、いかがいたした?」とお殿様。侍ははっと我に帰り 「お殿様、これはすばらしいきのこ、松茸でございます。毒見はだいじょうぶですのでどうぞ食してくださりませ」 「そうか、よし、どーれ・・シコシコ、うーん。シコシコ、うーん。まさにうまい。もっと焼け、もっと焼け」 でも、桔梗之助は貧しく、そんなにたくさんの炭や醤油があるはずもなく、 「お殿様、もうしわけねーですが・・もう焼く炭を全部使っちまったですだ。すまねーことだけども、もうできませんですだあ」と悲しそうに言った。 「そうか、それは悪かった。良く馳走してくれたな。では褒美をとらす」と言って、さっきの侍に命じた。すると侍は小判を桔梗之助の手に握らせ、 「また、松茸をとって城まで届けてくれないか」と言ってお城に入るための木札をそっとくれた。 それからは、毎年秋に桔梗之助の農地、水田のそばの山でとれた松茸をお城に届け、たくさんの褒美をもらった。 桔梗之助は、やがて大きなお屋敷を建て、母の形見を探してやった、あの可愛い娘を嫁にもらい、楽しく幸せに暮らしたそうな。 |