| こわれた夢物語 U | |
| <あれから1ヶ月位経ったかな?> 犬はうつろな目を女主人の大きな背中に移しながら <また、あんなことがあったら、今度こそ食うぞ>と誓っているのでした。 ---------カラン・カラン-------- 「こんにちわ。あら、可愛いいワンちゃん。ごきげんいかが」 <ふん、うさんくさい派手な婆さんだな。でもこの前のこともあるし、しっぽでも振ってみるか> 「まあ、おりこうさん、あなた賢い犬を飼っていらっしゃるわね」と女主人に向かってお婆さんのお客は言いました。 「いえいえ、役たたずですよ。うちのシェフがね、拾って来たものですから・・・」と無愛想に言って返しました。お客が席につくと女主人は、ドドーウとテーブルに近づきメニューを差し出し、うなるような低い声で注文を聞きました。 「何にしましょうか?」 |
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| お客は、メニューを見ながら犬をチラッと見ました。 <これこれ!この視線だ。この前のステーキの時もそうだった。よし、にこっとしてやれ!> 犬は精一杯の愛想を身体中で表しました。 「では・・・トンカツを二つとサラダを一つ、スープはコーンにしてね」 <え?ほんと?・・・やったあ!> 犬は、お婆さんのお客に向かってしっぽをちぎれんばかりに振って見せるのでした。女主人は、犬のことなど気にもせず、 「トンカツ2、サラダ1、コーンスープ1」 と厨房に声を掛けました。中からは、フライパンの音がするだけです。 しばらくすると、揚げたてのトンカツとサラダ、スープが出来上がってきました。女主人がテーブルにならべるとお婆さんのお客は、 「こんなにたくさん食べられないからワンちゃん食べてね」と一枚のトンカツを犬の前に持って来ました。 犬はこの感激に目が潤んで来ました。 <やっとこの日がきた。今日はこのチャンスをのがさないぞ。絶対食べるぞ!> 女主人を見上げると、こわそうな顔をしてこちらを見ています。犬は反射的にトンカツをくわえ、外に飛び出しました。でもすぐに立ち止まると <とりあえず一口だけは食うぞ!・・・うおお、おいしい、サクサク衣と中の肉のやわらかさ・・・これがトンカツか・・・> 犬は一口だけ食べるとまた走り出しました。走りながら <この前ステーキをカラスにとられたショーウインドーだな、もうだまされないぞ> 足早に通り過ぎながら早く残りが食べたくなりました。 <そろそろ、ここら辺でゆっくり食べるか> と思った時、みすぼらしい犬がトンカツをくわえているではありませんか。 <え?これってショーウインドーじゃないよな。もうあの店は通りすぎたもんな> じーと見ると、はっきりトンカツの衣まで見えました。 <よし!本当の犬だ。この犬には勝てるぞ> 犬は、ワンと吠えてみすぼらしい犬をおどかしました。その途端、口にくわえていたトンカツが落ちてしまいました。そこに猫が走って来て、トンカツをさっとくわえて持って行ってしまいました。 <あ、またやられた。でも今度こそアイツを・・・・あれ?アイツ、トンカツをくわえていないぞ・・・これってどういうこと?> 犬は家具屋の大きな鏡の前で不思議そうに手足をあげ、首を傾げています。まるで前のショーウインドーの時と同じです。でも今日の方がはっきり本物と同じに見えています。 <あ、そういえばうちの女主人が毎朝顔を写しているあれかな?> 犬は猫にトンカツを取られたことより鏡に興味を持ちました。じーと見ていると鏡の中から神様が現れて来ました。 |
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| 『犬よ、トンカツを取られ気の毒じゃが、あれを見よ、あの猫は子猫を産み、今にも死にそうだったのじゃ。犬よ、良いことをしてくれたのー』
路地の方を見ると子猫と親猫がおいしそうにトンカツを食べています。犬は、それを見て <はい、神様> と振り向いたら、神様の姿は消えていました。 <まあ、いいさ、トンカツ一口食べたもんな。猫さん、がんばって子育てしろよ> そう言って犬は格好良くお店に帰って行きました。 |