ダブルトリガー/001
世界って、広い。
僕は3年前に両親をなくして、意地悪な後見人によって修道院に放り込まれていた。
まぁどうせ大した財産なんか無かったし寧ろ後見人の野郎と縁が切れただけで良かったと思ってる。
修道院の生活も悪くない。
面倒くさがりな僕にとっては世間から切り離されたこの異空間はかなり楽な世界だった。
周りは未亡人のおばちゃんばっかり。
若いのは僕みたいな訳あり9割と本当に信仰心の厚すぎる子が1割ってとこ。
訳ありは、僕も含めて信仰心なんか全然無いから勝手なことし放題で。
向かいの部屋だったセリンはまた子供出来ちゃったかも、とか良く言ってた。
その前に病気うつされてた時も思ったけどホントあの子馬鹿だったなぁ。
後先考えないでヤりまくってるからこうなるんだ。
もっとしっかり人生を計算すべきだと僕はその時は本当にそう思っていた。
だけど、本当に計算しきれてたら、今僕はきっとこんなところにはいないんだろうなぁ。
と、隣で煙草をふかしてる男を横目に見ながら思う。
「・・・ミツロウ、僕の近くで煙草吸わないでったら」
僕があからさまに嫌な顔をすると、東の人間の特徴である黒い目が意地悪く笑った。
「お前まで吾妻みたいなこと言うなよ」
言いながらも吸いかけの煙草は灰皿の上に押しつぶしてくれたけど。
にやにや笑いながら、今まで煙草を吸ってた手を僕の方に伸ばしてくる。
「ちょっと、もうすぐアヅマが帰ってくるって」
「大丈夫大丈夫、すぐ終わるからよォ。だりあ、可愛いぜ・・・♪」
「うわ、馬鹿・・・っ」
圧し掛かってくるミツロウを必死で押し返しながら僕は今アヅマが帰って来ないことを祈った。
そういえば修道院にいたときよりも、今のほうが格段に祈ることが多いな。
神様信仰心薄くてごめん、でも今だけは僕の祈りを聞いてくれ。
「ミツロウ!!!こんなことしててアヅマにばれたらどうするのさ!!!」
「俺達が相思相愛ってコト?ばれたらばれた時じゃねェ?」
しゃあしゃあと言ってのけるこの男の精神が信じられない。
なんで僕はこんなモラルの欠片も無い男が好きなんだろう。
流石に17歳でアヅマを作っただけのことはある。
だけどアヅマは18歳、僕は17歳なんだ。
一つ年下の母親なんか絶対嫌に決まっている。
ていうかもし僕の父親が、僕より一つ年下の母親なんか連れて来た日には自ら進んで出家してやっただろう。
「可愛いだりあ、愛してるぞ」
「・・・っ馬鹿!!」
これだけで嬉しくなっちゃう僕も、あのセリンに負けないくらいの馬鹿だ。
アヅマにばれないようになんとか持続させている仲だから・・・本当は僕だってもっと色々したいけど。
だけど・・・。
「ミツロウ、やだってば・・・ァ・・・やめ・・・」
服の中に手が入る。
腹が立つほど程器用な指先が優しく僕の体の上を走り回って。
嗚呼、そういや最後にエッチしたのいつだっけ?
「あァん・・・やめて・・・」
「素直じゃねぇなぁ」
「んぅ・・・あ、ァ・・・」
そうだ、10日前だっけ。
そんなに空いてるんじゃこんなに感じちゃっても仕方ないけど・・・ないけど・・・。
「気持ちいいだろ?腰が揺れてるぜ」
「嘘・・・うそ、あぁ・・・あ、はぁぁぁ・・・」
僕が感じ始めたのを良いことにミツロウが僕の服を胸の上まで捲り上げた。
黒いワンピースになってる修道着だから捲り上げられちゃったら服なんか着てないも同然。
下着を取るのももどかしく、そっちも上にずり上げてミツロウは唇を寄せてくる。
「やだ!やだったらァ・・・ぁん・・・あっあっ・・・」
舌先でペロペロと乳首を捏ねられ気持ちとは裏腹に僕はミツロウの背中にしっかりとしがみついていた。
どうしようもなく気持ちいい。
このまま流されてどろどろになるほどヤれたらいいんだろうなー・・・なんて。
なんて考えた矢先に部屋のドアがアヅマによって開けられた。
勿論、物凄く怒ったように乱暴に。
「何やってやがる!!!」
嗚呼・・・開口一番、それだし。
そしてつかつかと僕達の目の前まで来ると、いきなりミツロウに掴み掛かった。
「手前ェまだ遊び足りないのかよ!!!!だりあにまで手ェ出すなんて見損なったぞ!!!!」
「あ、アヅマ・・・」
やば、なんか勘違いしてるっぽい。
「アヅマ、違うんだよ。ミツロウは・・・その、なんていうか・・・」
「庇わなくていいぞ、こんな最低野郎は。流石に17で俺を作っただけあって女と見れば見境い無い奴だからな」
確かに・・・そこんとこは僕も言い返せない。
ほんと17でアヅマを作っただけあって手は早いしエッチ大好きだし。
「まさか『娘のように』可愛がってるだりあにまで手ェ出してやがるとは思わなかったけどな!」
ギロっとミツロウを睨んでアヅマが手を振り上げた。
殴るつもりだと感じた瞬間、僕はその腕に縋りつきこう叫んでいた。
「止めてよアヅマ!僕とミツロウは愛し合ってるんだから!!!!!」
嗚呼本当に僕は馬鹿だ。
人生ってもっとしっかり計算しながら順風満帆に流れていくのだと思っていた。
必死で隠してきたこの恋がこんなところで露見してしまうなんて。
「あーあ、バラしちまいやがった」
全然「あーあ」なんて思っていない風でミツロウは目を細めた。
物凄く満足げな表情。
何を考えているのかは手に取るように分かる。
「まあ、これでアヅマ公認になったことだしよ。これからはおおっぴらに色々出来ンな!」
そういってゲラゲラ笑う。
ほんと、僕はなんでこんな男が好きなんだろう。
「さぁてと、俺の強制淫行の疑いは晴れただろ?そろそろ離れろよ、吾妻。俺ァ息子と言えど男に触られてンのは嫌いでなァ」
言いながらアヅマの手を解き、代わりに僕を抱き寄せる。
普段なら絶対出来ないことだ。
公認になっちゃったとは言え、なんだかアヅマの前で抱っこされるのは妙に気恥ずかしくて。
居心地はあんまりよくなかった。
「・・・だりあ、本当なのか?こいつにそう言えって言われてるんじゃないのか?」
呆然としながらアヅマは僕を見た。
僕は小さく首を横に振った。
ミツロウはどうしようもない軽い人間だと思うけど、僕の真剣な気持ちには真剣に応えてくれる。
そして僕は真剣にどうしようもないほど彼が好きだ。
「・・・」
「アヅマ・・・隠してて、ごめんね。でも・・・アヅマより一つ年下の僕がミツロウのこと好きって言ったらアヅマが嫌がるだろうと思って・・・」
だってもし僕がミツロウの子供生んじゃったりなんかしたら、それはアヅマの兄弟ってコトになってしまう。
一つ年下の女が母親ってだけでも引きそうだっていうのに。
「ごめんね、僕のこと怒った?」
「・・・いや・・・」
「アヅマ?」
僕が恐る恐る覗き込むとアヅマは急にがばっと顔を上げた。
「いいや、だりあ。怒りはしてない」
そう言うなりアヅマはばっと僕を抱きしめた。
「えっ、えっ・・・」
「はは・・・おい、父さん。俺は今日アンタの息子だって確信したよ」
僕にではなく、僕の真後ろにいるであろうミツロウに話しかけるアヅマ。
「ほぅ?今まで疑ってやがったのか」
「嗚呼。アンタみたいなエロ遺伝子引き継いでるつもりは無かったんだけどな」
アヅマの声色が妙にざわつき、僕を抱きしめる腕に力がこもるのが分かる。
おかしくなっちゃったみたいにアヅマは小刻みに震えて、笑った。
「ははっ・・・ははは、娘に手ェ出す父さんの息子だよ、俺は。俺もだりあが好きだ。妹のように思ってきたこいつが好きなんだ」
「あ、アヅマ・・・」
「なぁだりあ、父さんなんか止めとけよ。俺はもっと誠実だしまだ若いから未来もある」
「え、そ・・・そんなこと急に言われても・・・」
じっと目を見つめられ、真剣に言われた。
その表情がすごくミツロウに似てて、不覚にもドキドキしてしまう。
さっきアヅマは遺伝子を引き継いでいるつもりなんか無かったって言った。
でも顔はすごく良く似てる。
他人から見ればこの二人はばっちり間違いなく親子に見える。
そんなアヅマに見つめられると若いミツロウに迫られているみたいで嬉しいような恥ずかしいような複雑な感じがした。
だけど、アヅマに肩をしっかりと捕まれ動けないでいる僕を引き戻す力があった。
ミツロウだ。
「バァカ、だりあは俺に惚れてンだよ。お前みてェな青臭い童貞相手にするわけねーだろうが」
「ひゃっ!」
物凄い力でぐいっとひっぱられ、支えを失った僕の体がミツロウの方へ倒れこんだ。
「言ったな、父さん。言っとくが体力はアンタより上だぞ」
「テクもなんもねェガキが何言ってやがる。女悦ばす方法も知らねェクセによ」
ちょっとちょっと、僕ほったらかして何の話してるのさ。
なんだか雲行き怪しいんだけど・・・。
「・・・何ならだりあに比べてもらうか?アァ?」
「何・・・?」
「そのご自慢の体力、だりあに通用するか試してみろって言ってンだよ」
「ちょっ・・・何ソレ、僕・・・っ」
僕の意志を余りにも無視してなされている会話に抗議しようとしたけれど。
「よし、望むところだ!!」
僕は望んでないし!!!!!
勝手に話進めないで!!!!!
「ちょっとアヅマ!!!ミツロウも!!!!僕はまだやるなんて一言も・・・!」
この親子、ほんといつも人の話聞かない。
そういうとこもそっくり。
「一回だけ一回だけ。な?だりあ。いいだろ」
「良くないよ!ミツロウは何とも思わない訳!?」
僕の言葉に言い出した張本人はにーっと笑い、軽く僕の頬に唇を寄せた。
そして低い声で小さく耳元で言う。
「正直に言うとな、お前が悦がってるトコを客観的に見てみてぇんだ」
・・・最低。
そんな理由で僕を他の男に抱かせようとするのか。
僕はちらりとアヅマを見た。
まだ僕が了承しないから手を出してくるわけでもないけれど、表情を見れば何を考えているのか分かっちゃう。
あれはミツロウの何か期待してるときの表情と同じ。
少し目を細めてじっとそれを見て、そしてそれが必ず現実になることを知ってるんだ。
見れば見るほどミツロウに良く似てる。
それに興味が無いといえば、ちょっと嘘になるんだけど。
「・・・・・・・・・ミツロウ、ほんとのほんとに一回だけ?」
僕は意を決してミツロウを振り返る。
にやにや笑ったまま頷いた。
「・・・じゃあ、いいよ」
もう、どうにでもなっちゃえって気分で僕は了承した。
どうせ一回だけなんだ・・・。
それにちょこっと興味もあるし。
僕が了承したのを見て取って、アヅマの手がゆっくり僕に伸びてきた。