異世界より愛を込めて。
唯、願う。





0011/おわらないせかい







しかし結局のところ事態は何も解決してはいなかった。
派手すぎる兄妹喧嘩の末、話は振り出しに戻っただけである。
時間の修復は終わってはおらず、の記憶もクルトの存在するものに書き換えられたまま。
一つ変わったことといえばクルトがの関係を認めたことくらいであろうか。
そもそもにはわからないことがある。
「・・・兄様、さっきあたしが消滅するって言ったけど・・・如何して?」
「・・・時間の記憶さ・・・この世界の時間枠にある情報では僕の父親と母親の間に生まれた子供は一人だけという情報しかない。二人いたらどちらかが消滅する事になる」
「なんでそれがなんだよ」
憮然とした声ではクルトに詰め寄る。
確かには元々この世界に存在しており、クルトよりはその存在がはっきりしている。
「・・・僕がこの世界に存在するために色々時間を触ったんだ。元々時間の記憶は「父親と母親の間に生まれたのは娘でという名前で・・・」という風なもっとはっきりしたものだったしな」
「でもクルトはそれを「地位親と母親の間に生まれたのは一人の子供」という曖昧なところまで持っていったのさ」
「・・・じゃあ、そこが「二人の子供」になれば・・・」
「そう、も僕も存在できる。・・・でも何故かダメなんだ。どの未来も結局には繋がっていない」
「・・・どうして、判るの」
ぞくりと身を震わせながらは聞いた。
兄ではなく自分が消えるその理由。
しかしクルトもセレビィもトラウゴットも首を横に振る。
「何故か、判らないんだ。でも僕が知ってる」
「・・・知ってる?」
「僕の見た未来は確かに不確定だけど、これから先も君が生きたことを知らない。こうして君が今存在してるのが不思議で仕方ないんだ」
それに・・・とセレビィがを見る。
「そろそろファイヤーも戻らなきゃいけないし・・・」
「ハァ!?何で!?」
「・・・との契約が切れるから」
「契約・・・って」
あの召喚したときに交わされたんだか交わされなかったんだかとかいうやつか。
そういえば結局それは何だったのだろうか。
の夢に僕が干渉して結ばせた契約だったからね。僕やディアルガ、パルキアをクルトから解放したら切れる約束なんだ」
「・・・なんだ、そりゃ」
それでは良い様に使われただけではないか。
はセレビィの胸倉を掴み上げ、壁に押し付ける。
「テメェ!勝手なこと言ってんじゃねぇ!!」
それじゃあ自分は何のために。
何のために、戦った。
との関係を断つ為か?
この世界から帰る為か?
当初の目的はそうだったであろう。
だけど、今ここに来て、そんなつもりで戦った訳じゃないことははっきりと判っている。
、止めて・・・!」
「離せ!!一発くらい殴らせろ!」
腕に取りすがって止めると、それを呆然と見つめるクルト。
それを見るトラウゴットの視線が暗い。
何故、厄災は自分に降りかかって来なかったのだろう。
時を侵食した罪を被るのが、何故この少女だったのだろう。
後悔するには遅すぎたのだけれど。
「でも・・・との契約は・・・切れてしまうの?」
小さな声で問うに、セレビィは頷いた。
「うん、もうすぐね。だって僕らはもう誰の束縛も受けていないから」
視線をディアルガに向けてもパルキアに向けても頷かれてしまった。
嗚呼そうか。
もうは還ってしまうのか。
異世界にたった一匹だけ存在する
そのたった一匹が認めてくれた自分という存在。
世界を捨ててまで自分と共にこの世界に残ってくれると言ってくれた、そんな彼が。
「・・・セレビィ、お願いがあるの。ううん、ディアルガ、パルキア貴方達にも!」
「何?」
「あたしをそっちの世界に連れて行って」
の言葉にセレビィは目を見開き、俯いていたトラウゴットは顔を上げた。
クルトももきょとんとした表情を浮かべている。
「出来るでしょう?時間と空間を操る魔物なんだから!」
叫ぶような声にディアルガとパルキアも流石に顔を見合わせた。
「出来なくも無いが、どんな影響が出るか判らぬ」
「これ以上時を破壊する事は許されぬ」
「時のイレギュラーなら兄様が発生したときにも生まれたんでしょう?その所為でこんなことになった」
「その通り」
は少し考える素振りで、言葉を選びながら口を開く。
「だから、その瞬間にあたしを移動させて。この世界で兄様が造られた瞬間にあたしを向こうの世界に造り出して。それなら時のイレギュラーはどっちの世界にも起こったことになる」
「・・・」
「・・・」
確かに、その通りではある。
ただそれは理論上というだけのことであり、本当にそれで済むのだか判ったものではない。
これ以上時と空間を侵すことはディアルガとパルキアが望む由も無い。
・・・が。
「・・・仕方が無かろう。我等は負けた」
「・・・その願い聞き届けてやろう」
やれやれと二匹が溜め息を吐く。
しかしそれにクルトが異議を出した。
「ま、待て!!そんなことをしたらがこの世界からいなくなってしまう!!文字通り消滅じゃないか!」
が選ぶ道が結局消滅だ何て。
それを防ぐために尽力していたというのに。
「・・・兄様・・・」
「行くな、。行かないでくれ。僕とたった一人の血縁者のお前がいなくなったら僕は一人になってしまう・・・!」
造られた存在の自分が存在する証にも似た血縁というその関係。
それを維持するために、クルトはを囲い込んでおきたかった。
利用している気は無い。
クルトの記憶にあるは優しくていつでもクルトの支えになっていた。
愛していたのだ、妹として。
「兄様、大丈夫。あたしが異世界に行ってもあたしと兄様はずっと血を分けた兄妹だよ」
そっと微笑むにクルトは体を強張らせる。
その微笑みはクルトを思う気持ちがありありと込められてはいるが、既に意志は固まったという気持ちも滲んでいた。
止める事はきっと出来やしない。
苦しく言葉を飲み込み、視線をそらせる事しか出来ない。
「但し、その男が発生した時間と同じくしてお前をあちらの世界に造り出すとなると時間を遡る事になる」
「行っておくが遡れるのは娘、お前だけだ。ファイヤーがここに存在しお前と過ごした時間は全て消失する」
「何・・・?」
ディアルガとパルキアの宣言には表情を凍りつかせた。
「それじゃ俺は何になるんだ?」
「何にもならん。ただもとの世界に戻るだけだ。ここにきたことは無かった事になってな」
「記憶も全て消える。娘の事は覚えてはおけない」

「「それでも共に来るというのか」」

が自分の事を忘れてしまう。
この世界での何もかもが無かった事に・・・。
しかしの気持ちは既に決まっていた。
「・・・構わない。あたしはと共に行きます」
「ま、待てよ!!!お前の事を忘れちまったら俺はお前を如何するか判んねぇぞ!」
「構わないよ。それに・・・その瞬間に戻ればきっとの兄様達も無事でいられる。あたしの兄様だけ助かっての兄様が死んだままなんで不公平すぎる!」
はっと、は固まった。
まさかそんなことまで考えていたとは。
フリーザーとサンダー。
もう会う事も無いだろうと思っていたけれど。
「・・・だから、そうさせて」
「・・・」
そんなの気持ちにももう何もいえなかった。
目の前の少女を愛しいとは思う。
だけど兄達も大切だった。
欲張ると良いことは無いかもしれない。
昔からそう決まっている。
だけど・・・選べやしなかった。
「決まったか」
「では、行くとしようか」
ディアルガとパルキアに促され、はそっとクルトとトラウゴットに視線を移す。
「先生、兄様を宜しくお願いします。いつか、あちらの世界とこちらの世界を繋ぐ道を見つけてください。・・・是非、二人で。兄様、兄様の出生は確かに不思議なものかもしれないけれど・・・兄様は確かに存在してるよ。愛しい人を見つけた瞬間にきっと判ると思う」
にっこりと笑い背を向けた。
「・・・ではしばらく眠っていると良い」
「時間の旅は人間には大よそ計り知れぬものだからな」
そっとディアルガがに手を翳すと、の体がぐらりと崩れた。
それをパルキアが抱きとめて空間を引き裂く。
「ファイヤー、セレビィ。お前たちも」
「ん、・・・」
「・・・」
ゆっくりと二匹がそれにならう。
クルトもトラウゴットも、言葉は発さなかった。
ただただ、悲しい視線を向けて。
を見送る事しか出来なかった。



夢を、見た。
悪い、夢・・・だ。
そうだ、目覚めれば現実という概念に引き戻されてこんなことは忘れられる筈。
早く目覚めなければ。
早く、はやく。
この世界は暗くて明るい。
生命と死が溢れかえっている。
ここにいる事が生命を冒涜しているかのような、そんな空間。
そうだ、ここにあった空間から彼を召喚したのだっけ。
彼は何処にいるんだろう。
嗚呼傍に彼がいないだなんて。
悪い夢だ。

早く目覚めなければ。

早く、はや、く・・・。





覚醒は突然だった。
見覚えの無い風景に一瞬戸惑う。
頭が痛い。
悪夢の目覚めで気分も悪い。
「・・・そう、だ・・・・・・」
見回せば廃屋にも似た部屋の中。
そこにはぐったりとした人間が三人。
・・・!」
慌てて鎖に手をかける。
その鎖の構造を見てぎょっとする。
これは自分の世界で使われている魔法の拘束具だ。
があの鎖は全く切れなかったといっていたが、確かにこの拘束具は魔力を込める以外に外す方法は無い。
時間の干渉は一体如何いう風に決着したのだろう。
結局イレギュラーは発生したままなのだろうか。
「・・・」
しかし考えてもには判らない。
三匹の鎖を全て外してやり、廃屋の窓から外を見る。
異世界は思ったよりも自分の世界に似ているようだ。
茶色い大地、遠くに広がる緑の森、山。
まだ見えぬ海は何処に広がっているのだろう。
少し後ろで空気が動いたのがわかった。
青い髪の男が力なく立ち上がろうとしている。
「・・・女、お前は・・・誰だ」
「・・・あたしは。貴方達を助けに来たの」
「・・・・・・助けに?」
訝しげな視線でを見つめる。
確かに鎖は外されていたが、自分達でどうやっても壊せなかったこの鎖を外す事が出来るなんておかしい。
「お前は、私たちをここに捕らえた奴と関係を持っているだろう?何故鎖を外せた」
「・・・何故って言われても・・・」
困った。
まさかそんな風に疑われるとは。
からの助力も期待出来ないのに。
「偶然貴方たちを見つけたって言うのじゃ・・・納得できない?」
「出来るわけが無いだろう」
「・・・だよねぇ」
嗚呼、いきなり壁にぶちあたっちゃったな。
は苦笑しながら如何しようかと考えた。
最悪全員で逃げられちゃうかもな・・・。
だけど地の果てだって追いかけていく自信はある。
・・・ここで殺されなければ。
「お前が私たちをここに閉じ込めたのか?」
「違うよ」
「じゃあ誰が閉じ込めたのだ」
「知らない」
「・・・正直に言え」
「知らないってば」
「知らぬ存ぜぬで通せると思っているのか!」
ぶあっと冷気が辺りを包んだ。
嗚呼これがフリーザーね・・・とは少し微笑む。
色合いで判ってはいたけれど、本当に氷の鳥なんだ。
「答えよ!!」
ああ、如何しよう。
なんてが少し困った表情を浮かべていると、後ろで赤い色が揺れた。
あ・・・、と思った瞬間には、その青髪の男の腕を掴んで。
「フリーザー、止めろって。そいつは俺の女」
「・・・何?」
「俺が死に掛けてるって知って助けに来てくれたんだよな、
「・・・!」
にやっと笑うに、は目を見開いた。
その視線は出会ったときとはまるで違う。
そう、あの別れの間際のような優しい赤。
「何で・・・あたしが・・・わかるの?」
「さぁ?俺にも判んねぇ。でも全部覚えてるぜ。何でだろうな」
肩を竦めて笑うに、は震える足で駆け寄った。
全て諦めたつもりだったのに。
愛も思いでも関係も、何もかも。
「・・・、来いよ。世界を教えてやる」
「・・・!」
だけど今は何でもいい。
ただただ嬉しくて愛しくて。





「・・・セレビィ、いらぬ世話をしたろう?」
「だって僕も二人にお世話になったし?まあお礼ってことで、ちょっとね」
「ふ、全く。何か影響が出ても知らぬぞ」
「とか言いながら二人ともも嬉しそうだよ」
けらけら笑いながらセレビィは空へと飛び立った。
「しばらく時間旅行は止めとくよ!それより久しぶりのこの世界満喫する。じゃあ、二人ともまたそのうちにね」
言いながら飛び去る後姿に、二匹も緩やかな息を吐く。
時間も空間も世界の全てを満たしており、その全てがディアルガとパルキアであり、またその一つ一つも然り。
パルキアは亜空間に身を戻し、ディアルガもそれと共に世界から去った。






「・・・クルト、私はこの本を棄却しようと考えていた・・・。だが、もう少し研究する事にするよ」
全ての根源になった本を手にトラウゴットがぽつりと言った。
「あの子の最後の言葉を、もう少し追求したい」
「・・・ああ、僕も、手伝うよ」
ぼんやりと視線を落としながらクルトも呟く。
あの後世界は少しだけ変わった。
全ての記録からが消え、代わりにクルトが増えていた。
誰もの事を覚えているものはおらず、彼女の生きた証はトラウゴットとクルトの記憶の中だけに残った。
「いつかが生まれたこの世界に帰ってこれるように・・・尽力しようと思う」
「・・・そうだな」
いずれ世界の垣根がなくなったとき、もう一度兄妹として出会いたい。
きっと全員で幸せになれる道が見つかるはずだ。
流れる時間の中、世界はいつも何処かに存在していて。
それはずっと終わる事が無い。


異世界より愛を込めて

二人が幸せであればと、唯願う








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えーっと、ここまで読んでいただきありがとうございました。
この話は一旦コレにて決着とし、あとは2,3話エピローグ的な話を残すのみとなりました。(まだこの二人の初めての夜も書いてないことだしね!/笑)
うーん、ここまで思ったとおりに話が進んだ事は初めてで自分でもビックリしております。
書きたい事を好きなだけかかせて頂けて本当に嬉しいです。
連載を終わらせた事も、夢小説を始めてからは初めてのことです。
ご都合主義をいかんなく発揮してしまった上に、時間関係のことを書いてしまったのでタイムパラドックスも多々生じているかとは思います;;
そこのところは目を瞑って頂けるとありがたいです。
殆ど一気に書き上げた感が否めませんが、皆様ありがとうございました。