誰もがそれを肯定できる可能性を秘めているわけだ。
それほどまで罪作りで慈悲深い奴なのですよ。
時というものは!




0007/造られた存在





「ねぇ、貴方誰なの」
研究室の中の一室に通されは漸くそれを聞いた。
目の前の男が何も言わないから、仕方なく聞いた。
本当はの所在も聞きたかったけれど答えるとは思えなかった。
「誰、とお前が聞くのかい?でも大丈夫すぐに思い出せるから」
男の声は敵意も含んでおらず寧ろ友好的で優しさが溢れている。
一体攫ってきておいて如何いうつもりなのだろう。
、お前に会って欲しい者があるんだ」
「!・・・何で、あたしの名前・・・」
「何故、って・・・。嗚呼、そんなことも忘れてしまったんだね。大丈夫すぐに思い出させてあげるよ」
少し悲しそうな顔でをソファに座らせる。
目の前の男は忘れたというが自身には面識の記憶はない。
そんなに記憶力が良い方ではないし、あまり人とは関わらない方なので忘れてしまったのかもしれないが随分親しそうだ。
こんなに親しそうな人の名前はおろか顔まで忘れてしまうものであろうか。
しかし目の前の男は全く知らぬ顔と言う訳でもない。
よくよく見れば何処かで見た顔だ。
だが一体何処だったか。
男はドアの外で誰かと言葉を交わし、戻ってきた。
そしての隣に座る。
「・・・(うわ・・・)」
口にこそ出さなかったが図々しくも隣に座られは戦慄する。
何だこの馴れ馴れしさは。
「今からお前に会ってもらうのはお前の婚約者が召喚した凄い魔法生物だよ」
「・・・婚約者?」
誰それ。
そんな言葉を辛うじて飲み込む。
いや、言ってやっても良かったのかもしれない。
「・・・(この人人間違いしてるんじゃ・・・)」
と言う名前の別の人物と間違えているのでは。
それならば自身にこの男との面識がないのも、婚約者とか言うのも頷ける。
「ねぇ、貴方人間違いしてるんじゃない?確かにあたしはって名前だけど貴方の事も知らないし婚約者なんていないよ」
「はは、そんな筈はない。大丈夫そいつに会えば全部思い出すさ」
「・・・」
何処からその自信が湧いてくるのだろう。
恐らく何を見たって思い出しはしない。
だけど、この男を知っているような気がするのは否めない。
何処でだったか、何でだったか。
もしかしたらこの男、雑誌や本に載るほどの凄い魔導師なのかもしれない。
だってこの総合研究所に一室持っているくらいだから。
そうだそういうのでちらりと見たのかも。
それなら思い出せない理由も分かるけれど、向こうが自分を知っている理由がわからない。
好みではないがそこそこの顔で、今気付いたが髪の色が自分と同じだ。
あれ?良く見れば目も。
千差万別ある世の中で珍しいことだなと思う。
「如何したんだい、。何か思い出したのかな?」
じっと見つめられているにも関わらず男はにっこりと、不快そうな気色は一切見せずに笑った。
「思い出すも何もあたし貴方のこと知らないわ」
「やれやれ、時渡りもなかなか不便な魔法だな」
「時渡り・・・?」
それってこの前ここの時間学者が開発したとか言う・・・。
もしかしてその開発者?
じゃあこの男はやっぱり新聞で見たのだろうか。
はまだその記事を読んだことが無いけれど、何処かに映っているのを目の端ででも捕らえて覚えていたのだろうか。
だけど。
何だかそういうのではない気がする。
もっと身近な・・・。
思い出せそうで思い出せない。
そんな焦れったい気分がぐいぐいせりあがってくる。
いっそ奇声を発して暴れたい程のもどかしい気分が。
そんな時だった。
ドアをノックする音。
嗚呼その誰かが来たのだろう。
「・・・入りなさい」
静かに男が言うと、黒いローブの魔導師が一人の少年を連れてきた。
緑の髪が印象的な何処にでもいそうな少年。
しかし先ほど魔法生物と言われていた。
人型をとる魔法生物ということはよっぽど凄い魔法生物なのだろう。
「さて・・・」
男が少年に近づいた。
腕を拘束されているらしく手は後ろに回されており、黒いローブの男がその戒めの一端を持っているようであった。
それを引き継ぐ形で男が鎖を手に取り、黒いローブの男に出て行くように指示をする。
黒いローブの男が出て行った後でようやく男はを見た。
「では、。お前の記憶を呼び戻すとしようか」
「よ、呼び戻すって・・・」
何が始まるのだ。
目の前の少年は諦めきったような顔でを見た。
「・・・ごめん」
「え・・・っ?」
開口一番謝られるとは思いも寄らなかったけれど。
「だけど、君たちの血も悪いんだよ。まさかこんな血統があるなんてこの世界に来たときは思いも寄らなかった」
「血・・・?血統って・・・」
誰の事を言っているのだろうか。
自分?それともこの男?
君たちの血統って言った。
一体・・・。
緑色の髪の少年はを見ている。
を彷彿とさせる不思議ないろの目で。
少年の場合は流動する緑だ。
ぞくり、との体を何かが駆け巡る。
寒い。
何だか目が霞む。
余り寝ていない所為か、それともこの寒さの所為か。
意識を手放しかける瞬間にはもう一度男と少年を見た。
自分では睨みつけたつもりだった。
その際目に入ってきた男の顔に、稲妻に打たれたかのような気分になる。
嗚呼。
ようやく思い出した。
男の顔は時折鏡に映る自分の顔に良く似ていたのである。
「あ、あ・・・・・・・兄様・・・」
倒れる間際のの小さな声を聞いて、男は満足そうに笑った。



引き裂かれた空間は暫らくを租借するかのように閉じ込めていたけれど、やがて銀色が蠢く世界へと彼を案内した。
とは言えはほぼ前後不覚であり半ば気絶したかのような状態だったのであまりよく覚えてはいないのだけれど。
「・・・起きたかい」
「・・・」
男の声に視線を移動すれば、そこには一人の男が立っていた。
まあまあ背の高い、優しそうな雰囲気の男が。
一瞬、の体がざわりと揺らめいた。
この男か、と自分を付け狙っていたのは。
「テメェか、俺ら付け狙ってやがったのは・・・!」
おかげでと離れ離れだ。
しかし男は首を横に振る。
「違う・・・と口で言っても君は信じないだろうね」
「・・・」
「だけどここでは証明する術もなくてね。私の仲間を見れば信じてくれるかな?」
言って後ろを指差した。
仲間がいるのか。
余り数が多かったら分が悪いかもしれない。
人間になら負けるつもりはないが、束になって昨日の夜みたいな魔法とかいうやつを使われたらあるいは・・・。
目の前の男に警戒しつつ振り返れば、そこには二人の男が立っていた。
「!?」
その姿に声も出ないほどは驚く。
「・・・・・・お、お前等・・・」
そんなの姿を僅かに面白そうに見て。
「久しぶりだな、ファイヤー」
「サンダーとフリーザーの件は聞いたぞ」
「ディ、ディアルガにパルキア・・・!?お、お前等・・・ななな何で・・・」
名と顔はそれなりに売れた仲だ。
お互いに伝説と呼ばれ滅多に人間の前にも現れない。
この二匹に加え今自分がいるこの空間はなんとも珍しく、また異様でさえ思えるほど。
「何故と言うなら」
「後ろの男に聞くが良かろう」
いちいち二人で言うから判りにくいが、はとりあえず後ろを見た。
男は穏やかに笑い。
「信じてもらえたかな?」
「・・・」
流石に元の世界での仲間を見れば信じざるを得ないだろう。
敵では、ないらしい。
そうか、空間を引き裂いたのはパルキアの技の亜空切断だったのか。
「何で、この二匹がいるんだ」
「話すと長いんだけどねぇ・・・。嗚呼、そうだ私はトラウゴット。から話を聞いていてくれたら自己紹介が省けていいんだけど、どうかな?」









それは、本当に偶然のことだった。
昔からそれは禁域で手を出すことは倫理にも反する行為だと判っていた。
だけど、知ってしまったら知らなかった昨日へは戻れない。
学術総合研究所図書館の奥の奥。
誰にも見つからないようにひっそりとしまわれていたそれをトラウゴットが発見した事に発端はある。
その本は殆どがでたらめばかり、誰が書いたかも判らないが思いあがりと勘違いの産物としか言えない様な魔道書だった。
だけど。
古くなっていたのか本の装丁が捲れたところに、それは記載されていた。
本は古くとも活字印刷されていたが、そこに記載されたのは明らかに手書きの文字。
多少乱雑で、急いでかいたのではないかと思われる内容。
だけどその内容は驚くべきもので、今でも実践しようと思えば出来るものだった。
中でも目を引いたのが時渡りの魔法。
時渡りを魔法として生成する、もしくはそれを他の魔法生物の力により実行する脅威の魔法が記されていたのである。
流石に最初は何を馬鹿な、と思った。
しかし読み進めて行く間に幸か不幸かかなりの召喚学に長けたトラウゴットは魔法生物を召喚する事は可能ではないかと思い始めたのである。
空間座標を決定する公式が従来の元は全く違い、もしかしたら魔界以外との世界を繋げるかも知れないと。
失敗すれば失敗したで構わない。
試す価値はきっとある。
時間に触れることは禁域とされているけれど魔法生物を呼び出すくらいならば・・・。
「・・・そこで、私はそれを呼び出すことにしたんだ」
「何でそこで呼び出すことにしたんだよ。ヤベェことになるの目に見えてるだろうが!!」
これだから人間は。
良くエンテイやらグラードンやらが人間はすぐにルールを無視したがって困るといっていたが正しくそうだ。
「まあ呼び出して直ぐに帰ってもらえばいいと思ったんだ。でも・・・」
まさか成功するとは思わなかったけれど、成功すればいいと何処かで思っていた。
魔法陣の生成に時間が掛かったのもあったし、召喚学者としてこれが成功すれば大きな名誉になるとも思っていた。
だから魔法陣の上にちょこんと小さな魔物が座っていた時は可笑しくなるのではないかと思うほど興奮したのである。
魔界以外の世界と世界が繋がった。
その事実は大きくこの世を発展させ、召喚学は新たなる歴史を綴り始めたのだと、そう思った。
「・・・しかし、あの魔法陣はまだ未完成だったようで」
トラウゴットの声のトーンが落ちる。
「時間を操る魔物を召喚する魔法陣だからね。時空間に変な影響を与えてしまったらしいんだ」
「・・・影響・・・?」
「向こうの世界への時間干渉。そしてこっちでもありえない事が起こった」
表情を険しくするトラウゴットとそれを無表情で見ているディアルガとパルキアにが目を向けると。
「サンダーとフリーザーが死んだ理由がそこにある」
「時間干渉によりお前等の未来が変わってしまった」
「・・・何?」
の顔色が変わる。
「何処かの未来でお前等が人間に捕まる事になってしまった」
「しかしそんな人間は未来に存在しないから、お前等は捕らえられたままに時間だけが過ぎた」
何だろう、その矛盾を孕んだ説明は。
意味不明の内容には苛立った表情を浮かべる。
しかし二匹はそれを物ともせず。
「普通は時間をかけて未来は変わる。だが時間干渉が突然起きた為に」
「お前たちは不自然な形で時間に囚われた。結果・・・」

「「サンダーとフリーザーが死んだ」」

「黙れ!!!」
だんっと床を叩く
二匹は言いたいことは言い終えたらしくぴたりと口を閉ざす。
ではこういうことか。
目の前の男のたった一つの愚行の所為で二匹が死んだと。
「君はすまないと思っているから、時間を修復するつもりだったんだ。だけど・・・」
ありえない事が、こちらでも起こった。
「一人、時間干渉で生まれるはずじゃなかった人物が造られてしまったんだ」
気付けば自分の頭にある一人の親友の記憶。
今までそんな記憶がなかったことも知っているのに、しかしそのものの記憶もちゃんとあるのだ。
周りはそれに気付かず普通に過ごしているが、当事者の自分は知っている。
それが今まで記憶になかった事を。
「その人物は、私の親友であり・・・の・・・兄だ」
「・・・兄?あいつに兄弟がいたのか?」
その割りにはの口から出てきたことが無いけれど。
「・・・元々はいなかったさ。時間干渉で生まれた事になってしまった。しかも私の一番の親友としてね」
驚き戦き、そして困った。
「彼は何故か私のやってきたことを全て知っていて・・・ああ、いや、何故かと言えば彼との共同研究になってしまっていたわけだが」
「・・・」
「兎に角、あの魔法生物を自分の物として世間に発表してしまったわけだ。時渡りの魔法として」
成る程、あの新聞記事に書かれていたことがは非常に気になっていた。
が宿を取っている時、ちらりと目に入ってきたあの記事には記載されていた文。

『時渡りはこの度ほぼ100%の成功率となり、その魔法をセレビィと呼ぶことになった。これは開発した魔導師が最近発表したもので―――』

「セレビィっつぅ名前が出てたときから変だとは思ってたけどな・・・。で、あのチビ何処にいるんだよ」
「・・・彼に連れて行かれたままだ」
ちっと舌打ちする。
全く何をややこしいことにしてくれたのだ。
この際もう誰が犯人だかわからないがそれに巻き込まれたということは事実。
そしてサンダーとフリーザーが死んでしまった事も事実。
「・・・私は時間を修復するつもりだ。・・・しかしそれにはセレビィの力が要る」
「っかー面倒くせー!!!おいディアルガお前も時間司るポケモンだろうが。さくっと何とかしろよ」
「・・・無理だ。我は一個の時間にして全ての時間。全が個、個が全であるように時間は我自身。動かすのは時間以外の存在による影響でしか無理だ」
「意味判んねぇ」
兎に角無理だという事は伝わったけれど。
「・・・ところでよぅ、そのの兄ちゃんとかいう奴。セレビィ使って何する気なんだ」
目的が遂行されればセレビィを解放するかもしれない。
しかし強大な力を手にした人間が果たしてそれを放棄する日など来るのだろうか。
判らないが悪用されるのでなければ。
「・・・彼はを深く愛している。ああ、勿論妹として。だけど彼は知ってしまったんだ。の未来がもうこの世にない事を」
「・・・何・・・?」
「だからセレビィを使って未来を変えて、何としてでもをこの世界に留めたいのさ」
諦めたように笑うトラウゴットの表情には戦慄した。
そんな。
サンダーやフリーザーに続いてまでも。
心を許した瞬間にそんな。
「未来がないって如何いうことだ!?」
「そのままの意味さ。彼女の人生のレールはもうすぐ途切れる」
ざわりと、体の奥が揺れる。
嗚呼、何故あの時パルキアの技が一瞬早く発動してしまったのだろう。
好きだという言葉も伝えられないままに、彼女は消えようとしているなんて。









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ヒロインちゃんの世界には天然でピンクの髪や真っ青な髪の人がいるんです。