この流れ行く星々に願いを込めるよ。
君が望むようになりますようにと。
そしてこの悪夢が早く覚めますようにと。





0004/シューティングスター






闇雲に森を駆け抜けてしまえば遭難は必至である。
は兎に角馬車のあった場所からかなり離れたところで一度に止まるように言った。
辺りは緑ばかり。
だけどちゃんと馬車道が見えるように距離を保ちつつ方向を指示していたので大丈夫、の筈だ。
「はぁっはぁっ・・・流石に、きついぜ・・・」
普段から空を自分のフィールドとしているである。
やはり地面の上では本領を発揮しにくい。
「大丈夫?ちょっと、休もう。これだけ離れたんだから、きっともう大丈夫・・・多分」
盗賊というものは普通何人かの隊列を組んで人を襲う。
と二人だけという状況は多勢に無勢で出来れば出会うのは避けたいところだ。
「・・・空飛べればなぁ・・・こんな森一発で出ちまうのに」
「・・・空?・・・ああ、そうかはフェニックスだったっけ」
「・・・厳密にゃ違うけどな。つーかなんだそのフェニックスっつーのは」
「何って・・・火の鳥」
「・・・」
最もな言葉で返されて言葉も出なかった。
火の鳥といってその名前が出てきたのだから勿論火の鳥なのだろうが聞いた事のない種族名である。
それでなくとも何年も生きているでさえ知らないポケモンというのは数多くいるのだ。
世界にどれだけの種がいるかなんて知らないし興味もない。
だからもしかしたらその「フェニックス」とか言うポケモンだっているかもしれないのだが。
「後は・・・そうだな、極東の国では鳳凰とか言うらしいよ」
「ホウオウ!?そりゃ俺とは全然別モンだぜ」
まさか此処でホウオウの名前が出るとは思ってもみなかった。
「知り合いなの?」
「知り合いっつーか・・・あいつも俺もちょっと特殊だからなァ。知り合いってほど仲良くもねぇし・・・もう何年も見てねぇし」
「それってやっぱり神様だからじゃないの?神様っていうのは普通一堂に会したりしないものだし・・・」
「・・・神じゃぁねぇけど神聖視はされてるな。特に俺達は気に入った人間以外に従ったりしねぇ」
あのボールにだって入ってやろうと思える人間に出会えたなら自ら入ってやってもいい。
いや、それはポケモン全てが思っていることであろう。
それにそんな人間にはなかなか出会えないことも良く知っている。
「・・・じゃあ、あたしのことは気に入ってくれたのかな?」
唐突に呟かれた言葉に弾かれたようにを見る。
「・・・何で」
「だってさっきあたし守って戦うって言ってくれたじゃない?」
えへへ、と恥ずかしそうに笑みを浮かべていた。
反射的に否定しようとしたが、それを遮るようにが言葉を続ける。
、直ぐに契約破棄したいって言ったし、迷惑そうだったから・・・。さっき「カントー」のこと話すのもホントに嬉しそうでさ、無理矢理召喚しちゃった事怨まれてると思ってたし・・・」
そして少しだけ悲しそうな表情になる。
その表情に、または胸が苦しいような気分になった。
朝、馬車のところで話していた時と同じような、そんな気分に。
だから思わず言ってしまった。
「違ェよ!」
「・・・え」
言ってから気付く。
違うとは、一体何が違うのか。
の言葉は全て自分に当てはまっている。
契約だって今すぐにでも破棄したいし、迷惑だ。
無理矢理呼び出されたことだって面白く思っているわけじゃない。
そしてカントーのことを話すのも・・・理由は分からないが嬉しかった。
何一つ間違っていないのに、一体何が違うのだろう。
「・・・違うって・・・何が?」
「っ・・・」
最もな問いに言葉が詰まる。
「そ、それは――・・・っ、そ、そうだ!お前が死んじまったら俺が元の世界に帰れねぇからだよ!!」
胸が、痛い。
咄嗟に口から出た言葉だったけれど、その内容に苦しさが増す。
「俺をあっちに送り返して貰うまではお前に死んでもらう訳にゃいかねぇからな・・・!だからお前守ってやっただけだ、勘違いすんな」
確かにその理由は一種事実であるのだが、真実であるのかどうかは甚だ疑問だと思った。
だってこんなにも胸の奥がすっきりしない。
「・・・それも、そうだね・・・」
あは、ごめん。
そう言って笑顔を作るの顔をまともには見れなかった。





暫らく休んだ後、森の中の馬車道を歩き始めた。
早く見積もっても2日は掛かってしまうであろう道程である。
「・・・空飛ぶ技さえ覚えてたらなァ・・・」
「・・・え?・・・火の鳥なのに空飛べないの?」
そんな技聞いたこともない。
有翼種が空を飛べるのは当然だと思っていたのに。
「俺は飛べるさ。けどお前を乗せられねぇ。俺の翼は炎で出来てンだ。技がねぇとその炎が俺の背にあるもの全部焼いちまうからな」
「・・・へぇ・・・」
フェニックスが召喚された例は過去に数件あり、いずれも炎の翼と認識されているがそれが召喚者を乗せて焼いてしまったなどということは聞いたことが無い。
このもあちらの世界からこちらの世界へ召喚された際、こちらの世界の制約に縛られるはずだから恐らく燃えることはないはずだと思う。
しかし、魔界生物以外の生物が本当にそういう常識に当てはまるかが判らない。
それに。
「でも、いいよ。運んでくれなくても・・・」
だって。
に乗せてもらってこの短い旅を直ぐ終わらせるのは、の本意ではなかった。
嫌われているのかもしれないけれど、確かに自分の魔力を糧にして存在を安定させている
召喚学的に言って平行世界から来たというのも興味深い。
それに何より、傍にいてくれる。
的には居ざるを得ないという状況であろう。
だけど既に両親もなくし、唯唯生きるためだけに時間を消費していたは傍に誰かが居るという温かさを久方ぶりに噛み締めていた。
こうして他愛ない話をして、感情を起伏させるという事。
そんな時間を、出来ればもう少し味わいたい。
例えこの短い旅が2,3日で終焉を迎えるのだとしても。
「あたし、結構楽しんでるから」
「・・・けっ、俺は早く帰りたいんだっつーの」
「ごめんごめん。でも後もう少しだけ付き合ってよ」
「・・・・・・仕方ねーな」
本当に仕方無さそうに言われては少しだけ申し訳なく思った。
だけどこんな体験は滅多にないから、彼の好意に甘えてしまうつもりでいた。
考えてみれば凄い生物と共にいるのだから。
「ねぇ、が帰る前にもっと色んなこと教えて。平行世界の一つを出来るだけ知りたいの」
「・・・良いぜ。何が聞きたい」
少し考えては言った。
のことが聞きたいな。此処に来る前はどうしてたのかとか」
すると、が少しだけ表情を強張らせた。
聞いてはいけない事を聞いたのかとぎくりとしたが、は直ぐに普通の表情に戻り。
「・・・俺のことか」
「ん・・・、嫌ならいいけど」
の言葉に視線を外して少しだけ黙った。
しかしややの後。
「・・・丁度良いかもしれねぇな」
「何が・・・?」
「誰に話すこともねぇまま死ぬと思ってたんだ。多少時間潰しにゃなるだろ」
そしてまた少し口を閉ざし、言葉を選ぶようにゆっくりと話し始めた。
「俺には仲間がいたんだ。フリーザーとサンダーって言う、俺が火の鳥ならあいつ等は氷と雷の鳥だ」
火の鳥は聞いたことがあるけれど、氷の鳥と雷の鳥は聞いたことが無いと思った。
恐らく氷の翼と雷の翼を持っているのだろう。
雷なんて掴めないものを翼にしている鳥がどんな翼を持っているのか、には想像することは出来なかった。
「フリーザーが一番年長者でよ、俺が一番ガキだった。俺が俺を俺として認識したときにゃあいつ等は既に大人で、俺の親父か兄貴みたいだった」
嬉しそうに、懐かしそうに・・・そして何故か悲しそうに。
は何故この二匹の鳥が過去形で語られているのか、予想はしたけれど断定的な答えを聞きたくは無いと思った。
「親もいねぇ、子供も作れねぇ、天涯孤独に存在した俺等はその穴を埋めるようにいつも3匹でいたんだ。だから俺等はお前等で言うとこの神なんかじゃねぇんだろうな」
「・・・」
「けどな、ある日変な事が起こった。今でも覚えてる、あの訳の判らない一瞬をな」
急にの表情が険しくなる。
瞳の赤が憎しみや悲しみを含んだ色になる。
「唐突にだ。俺達は唐突に目に見えない何かに拘束された。いや、気付けば既に拘束された状態だった。一体何が起こったのかさっぱりわからねェ。唯確かなのは俺たちが知らない間にいきなり拘束された状態になったってことだ」
「・・・眠ってる間とか・・・?」
「違う。だから訳がわからねぇし、上手いこと説明も出来ねェ」
理解に苦しむ内容だ。
言葉が足りないのかと一瞬考えたが、どうも違うらしい。
何故か普通に生活している一瞬に「拘束された」状態になってしまったようなのである。
「・・・俺達を拘束した鎖は何をしようと切れなかったんだ。溶かす事も、凍らせて砕く事も、な。仕方なく俺達は兎に角俺達を捕まえた奴の目的を聞こうとしたんだ・・・だがな」
「・・・如何したの?」
「俺達を捕まえた奴は何故か一向に姿を現さねぇ。俺達は如何する術もなくずっとその部屋に閉じ込められたままずっと待った。けど、一ヶ月位した頃・・・」
の表情がますます険しくなっていく。
「また、変な事が起こった。気付けば俺達の拘束されていた部屋はぼろぼろになって、気付けば俺の目の前でフリーザーもサンダーもぐったり横たわってた。ぴくりとも動かねぇ。その体は最早呼吸をしてなかった。俺も、生きているのか判らないくらいに消耗してた。何か・・・もう何もかも如何でも良くなってよ、意識手放しかけたとき・・・歌が聞こえたんだ」
「・・・!」
ぎくりと、が体を強張らせる。
歌。
「何かスゲー安心する歌声でよ。もういいやって、眠っちまえって、そう思ってよ」
「・・・」
「で、目覚めたらお前がいたわけだ。だから死神かと思ったんだけどな」
「そう・・・だったんだ」
当惑した表情では呆然と言葉を返した。
歌には心当たりがある。
恐らく自分の召喚呪文だ。
よく召喚された側は歌が聞こえたかと思ったら召喚されていた、と言う。
呪文を流れるように詠唱すると歌にも聞こえるそうだ。
やっぱり、自分は夢の中という無意識下の中での空間座標を特定して、こっちの世界に呼び出してしまったわけだ。
「・・・まぁ、そう考えたらお前死神じゃなくて、俺の命の恩人だよなァ」
「え・・・」
俯いていたが思わぬ言葉に顔を上げる。
「あのままだったら俺死んでたよな」
「・・・」
「ありがとな」
そして思わぬ礼にの頬がほぅっと赤くなる。
そんな礼を言われることなんて、していない。
「・・・そんな、あたし・・・何も・・・」
寧ろこんな右も左も判らない世界に呼び出してしまって。
申し訳ないとそればかりだった。
「や、まあでも。結果的に俺お前に救われてんだからよ。そう考えりゃ、こっち連れてきてもらって良かったかもなァ」
そう言って笑うの表情は何故かすっきりしたような雰囲気に満ちていた。




「で、結局こうなンのか」
「・・・仕方ないでしょ。あーあ・・・お気に入りのマントだったのに」
その言葉には少しだけ下唇を突き出した。
やっぱり余所いきを着ていたわけだ。
拓けた場所に今まで着ていたマントを外して敷く。
靴を脱いでその上に乗ったは腕をさすりながら。
「マント外すとやっぱ寒いね。、寒くない?」
「別に」
何度も言うがファイヤーであるは寒さには強い。
鞄を下ろし、二人で中を漁った。
「良かったでしょ、鞄持ってて」
「うるせぇ」
したり顔のをちょっと睨んでは入っていた木の実を口に入れた。
もパンを齧る。
辺りはかなり闇が落ち始めていた。
「・・・日が落ちるのが早ェな・・・」
「うん、あ、灯り点けよっか」
薄闇の中でが小さなカンテラを取り出した。
それを見て、がカンテラをさっと奪い取る。
「あ、何するのよ」
「ちょっと貸せ」
先に取り上げておいてなんだその言い草は、と思ったが、がガラスの風除けをそっと持ち上げて軽くふっと息を吹きかけるとぱっと火がついた。
「わ」
流石火の鳥。
そんなの声に今度はがしたり顔をする番だった。
「どーだ」
「凄い凄い。呪文も無しに魔法使うなんて!」
「・・・魔法じゃねぇよ」
体内で作った炎をカンテラの芯に吹きかけただけだ。
しかしは聞いていなかった。
カンテラを近くの木の枝にかけながら「え?なあに?」とか言っている。
は肩を竦め、無言でその様子を見ているだけだった。
「・・・うぅ・・・寒い。もう一枚マント持って来るんだったなぁ・・・」
動いたら寒くなったのだろう、少しだけ体を震わせてマントの上に蹲る。
は一瞬迷って、しかしやはり意を決して。
「こっち来い」
「え?・・・、わっ」
ぐいっとを引っ張ると自分の腕で後ろから抱きしめるように包み込んだ。
「え、ちょ、何・・・っ」
男にこんな風に抱かれるのは初めてで、恥ずかしさに頬が熱くなる。
慌てるをきつく抱き、耳元で低く囁いた。
「暴れんな、寒いんだろ。・・・ちょっと我慢しろ」
「が、我慢って・・・。あ、あれ・・・?」
何だろう、凄く温かい。
というか、の体がかなり温かくなっているようだ。
「あんまり冷たくは出来ねぇけどな。体温高くするなら得意だ。朝まで我慢しろ」
「・・・う、うん・・・」
すっかり震えの収まった体を預け、は恥ずかしそうに小さく返事を返した。

「あ、見てよ、
結局に体をくっつけたまま寝ることにした
やはり恥ずかしいし、ドキドキするけれどそれを紛らわせるように空を指差した。
開けた場所なので寝転んでいれば嫌でも星が良く見える。
「ほら、夜になると星が流れてるのが良く見えるでしょ」
「・・・あっちじゃ流れ星なんてあんまり見かけねぇが・・・こっちは凄いな」
じっと見ていればかなりの頻度で星が落ちて行くのが見える。
一体どういう原理なのだろう。
恐らくの常識に当てはまるものではないのだ。
しかしこうもキラキラ流れて行くと・・・。
「有難味がねぇな」
「え?の世界では流れ星は有難いの?」
「滅多に見れねェから、流れ星を見つけて消える前に3回願うと願いが叶うとか言われてるぜ」
「・・・へぇ」
は空をじっと見た。
この世界では星は流れるものだからそんな云われは全くない。
「・・・じゃあ、願うよ。が早く元の世界に帰れるように・・・」
「・・・・・・そうしてくれ」
「・・・ん」
お互いこの会話に僅か以上の胸の痛みを感じていた。
しかし明確な理由も分からぬままにいつしか眠りに落ちた。







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いつもならここで告白してますが、連載なので先送ります。