『、大きくなったらお前を俺のトレーナーにしてやるよ』
『なんで?』
『俺の特別がお前で、お前の特別が俺だからだ』
『・・・うん!』
『約束だぞ!絶対トレーナーになって俺と冒険するんだぞ』
『うん、そしたらずっと一緒だね』
遥かなる約束
こんなことであたしは本当にポケモントレーナーになれるんだろうか。
がくりと落ち込むあたしは今日も隣のお家に向かっていた。
鞄の中には今日返って来たアカデミーの試験の結果。
ポケモンのことが純粋に好きなだけでトレーナーになろうとしたのが間違いだったのかも。
こんなことならブリーダー目指せばよかったかな。
ううん、どっちにしたって栄養学だって医学だってなくなりはしないもん。
それにあたし自身本当に「ポケモン」のことが純粋に好きなのかさえ疑問だ。
だってあたしがトレーナーになりたいのはちょっとした下心があるからだし。
とぼとぼと家路についていたあたしはゆっくりと顔をあげる。
見えてきた、うちの家とその隣のお家。
まっすぐに家には帰らず、先にその隣の家のインターフォンを押す。
すると隣の家のお姉さん、ユウマさんがすぐに出てきてくれた。
「ちゃんいらっしゃい。そろそろ来る頃だと思っておやつ用意してたのよ」
なんて言って出迎えてくれるユウマさんは本当に素敵で良いお姉さんだ。
「本当!?ありがとう!!」
沈んだ気持ちも何処へやら、あたしは嬉しくなってユウマさんに招かれるまま部屋へと上がりこんだ。
「おー。やっと帰ってきたのかよ」
「・・・シン。あんたもいたの?」
「此処は俺の家だぜ。いちゃ悪いか」
今日のおやつであろう杏仁豆腐を目の前にして先にテーブルについていたのはこの家の飼いポケモンであるタツベイのシンであった。
その隣の椅子を引き、鞄をフローリングに置いては少し唇を尖らせた。
「別に悪いなんて言ってないじゃん」
ただ、昼間はあちこち出歩いていていない事が多いから珍しいと思っただけだ。
「ほらほら、喧嘩しないで温くなる前に食べてね」
「あ、はぁい。いただきます」
白いゼリーのような柔らかい塊をつるりと掬って口の中へ。
ほんのりと香ばしいアーモンドの香りと甘いシロップの味。
「美味しーぃ・・・!外暑かったから喉渇いてたの」
「そう、喜んでもらえて良かった。作った甲斐があるわ」
「え、ユウマさん、これ作ったの?凄ーい」
そういうところもあたしがユウマさんを尊敬する要因の一つだったりして。
綺麗で優しくて、嗚呼本当に憧れる。
「おい、それは置いといてよォ」
「・・・何よ」
強引にシンが会話に入ってきた。
意地悪そうに目を細めてあたしを見てる。
「お前、今日アカデミーの試験結果返ってきたんじゃねぇの?」
「・・・な、なんであんたがそんなこと知ってンのよ」
うぐ、忘れてたのに。
そんなにいい結果じゃなかったんですけど。
「俺にだって関係あるからだよ!・・・で?どうなんだよ。俺はそろそろお前にトレーナーになってもらえンのか?」
「・・・」
答えられるわけが無い。
評価はことごとくBかC判定で、A評価3つ以上で専属ポケモンを一匹持てるって言う規則には当てはまっていなかったから。
あたしの反応にシンは溜め息混じりだ。
「おい、お前本気で俺を使う気あンのかよ」
「あ、あるよ・・・!」
小さいときから隣同士で。
何かと一緒に育ってしまったあたしとシンは、小さい頃から一つだけ約束を交わしていた。
それはあたしがトレーナーになった時、シンをあたしのポケモンとして貰う事。
ユウマさんはそれがシンの望みならと快く了承してくれたのは本当に何時の事だっただろう。
「はーぁ・・・今回も俺はこの家に居残りって訳だ。ユウマ、おかわり」
「はいはい」
ユウマさんは席を立って、空になったシンの器をもってキッチンへ消える。
押し黙るあたしに冷たい視線を投げかけながら、スプーンを口に咥えてつまらなさそう。
「っていうか、半分はあんたにも責任あるんだから!」
「何でだよ」
「勉強しなきゃって言ってるのに毎晩毎晩あたしの家に構いに来てさ!暇だ何だって言って・・・その、え、エッチなこと要求するじゃない!」
ユウマさんがキッチンへ行ったのを良い事にあたしはシンを責めてやった。
そうだ、結局邪魔したシンも悪いんだから。
「仕方ねぇじゃん?お前の事好きなんだからよ。毎晩だってヤりてぇじゃん」
・・・開き直りやがった。
「仕方なくない!!次の試験のときは絶対の絶対にあんたなんか部屋に入れないんだから!」
ふん、と視線を逸らしてあたしは食べかけの杏仁豆腐を口へ放り込んだ。
そんなあたしの態度にシンはちっと舌打ちする。
「おい、こっち向けよ」
「嫌。シンが半分責任認めるなら向いてあげなくも無いけど」
「・・・テメェ・・・」
可愛くないあたしの態度に怒ったかな。
低い声で唸る様に吐き捨てる。
そんな声出してもダメなんだから。
「何よ」
「・・・チッ、判ったよ。認めてやらぁ。・・・だからこっち向けよ」
苛立たしそうに言われた言葉だったけど、思い通りになったこともあってあたしはにんまりしながらシンを見た。
「何笑ってんだ。気色悪ィ」
「うるさいなー。可愛い彼女が笑ってんだからちょっとは褒めなさいよ」
ホント口の減らない・・・。
呆れながらもあたしはシンの方を向いたまま、スプーンを口に運んでいた。
そしたらシンの奴。
「つーかユウマ遅ェなー・・・。お前の寄越せ」
「えっ、ちょ、やだよ!!」
「いーから寄越せ」
今まさにあたしが食べようとしていたスプーンを手首ごと掴んで、ぱくり。
シンの手の力は強くって抵抗らしい抵抗も出来ないまま、ぱくり。
「あー!!!ちょっと、最後の一口!!何すンのよこの馬鹿!」
器に残ってるのは最後にとっといたさくらんぼだけなんて・・・。
「最後の一口は旨ェなー!」
「ばかー!もうっ、最低!」
思わずにやにや笑ってるシンの頭を叩く。
「痛ェな。何すんだ」
「ほんっとあんたって・・・後であんたの最後の一口寄越しなさいよ」
言いながらあたしは仕方なくホントのホントの最後の一口、さくらんぼを口に入れた。
そしたら。
「それも味わわせてくれよ」
「・・・!?」
って、あたしの口にキスしてきた。
ちょっとちょっと・・・!!
器用にあたしの唇をこじ開けて、にゅるりと侵入してきた舌先。
僅かに広がるさくらんぼの甘みが掻き消される。
だけど何故だろう。
シンの味はそれよりももっともっと、甘い気がする。
「んっ・・・ふ、は・・・っ」
エッチする時みたいなやらしいキス。
さくらんぼの味なんかもうわかんない。
「ばかっ・・・ユウマさん戻ってきたら・・・」
「でも戻って来てねぇじゃねぇか。ほら、もっとこっち来い」
「やぁっ、ちょ、馬鹿、何処触ってんのよー!!」
抱き込まれて腰に腕を回されて。
器だけは割るわけにはいかないから慌てて机の上に戻した。
そんなことしてる間にシンの手はあたしの胸の上。
服の上から感触を愉しむみたいにふにふに弄ってる。
「や、ばか!こんな明るいうちからリビングでなんてやだ!」
「・・・ふーん、じゃぁ暗くなってリビングじゃなきゃぁいいんだな?」
「え」
「よし、んじゃ今晩もお前の家に夜這いに行くからな。窓開けとけよ」
「え」
ちょっと、締め出し宣言したばっかりなのになんでこんなことになってんの!?
シンは小さく声を立てて笑うとあたしから体を離して席を立った。
「やれやれ・・・とてもじゃないけど入っていける雰囲気じゃないわね・・・」
ドアの外で困り果ててタイミングを伺う女が、一人。
後日。
あたしは全然気付かなかったんだけど、キッチンから戻ったユウマさんが部屋に入れなくて困ってたらしい。
後日ユウマさんから聞かされてあたしは顔から火が出るような思いをする事になる。
嗚呼もう恥ずかしい!!
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軽く読めそうなものを、ということでこんな感じに。
トレーナー育成学校とかゲーム中でもあるみたいなんでこういう設定にしてみましたが・・・。
伝わりにくい事この上ない・・・。申し訳ありません・・・。