君と二人分。
真っ白な切符を買って何処まで行こう。
行先知ラズ
彼はほんの気紛れにに贈られたポケモンだった。
いつも家を留守がちの両親から、寂しくないようにと。
はそれをつまらない気休めだと思っていた。
だけど、彼はそれ以降常にの隣に立つことになったのである。
「はぁ・・・お金無い」
ごそごそと財布を漁って見た。
何度見返しても殆ど空に近い。
「稼がなきゃなァ・・・」
「それならば俺が」
「いいよ。はまだあたしの力量に見合ってないでしょ」
薄い財布を鞄にしまいこんではを制す。
「しかし背に腹は代えられないと言いますが」
「まぁ、ホントに代えられなくなったら頼むし。とりあえずご飯食べよっか」
「・・・」
納得していないらしく憮然としているを尻目に、は近くのファーストフード店に入る。
ますますの表情が険しくなる。
「・・・ここ最近こういう物ばかり食べてらっしゃいますね。そんなに金が無いのですか」
「無いよ。因みに今ご飯食べたらもうホントに文無しだね」
「・・・俺は貴方をこんな目に合わせるつもりでついてきた訳ではありません」
「じゃどういうつもりでついて来たの」
適当にメニューを指差しながらはを返り見た。
視線の端ではにっこりと作り笑顔の店員が少々お待ちください、と言い振り返って暗号の如きメニューを叫ぶ。
「貴方を幸せにするためについて来たんだ。金くらい俺が戦って稼ぎます」
トレイに並べていかれるのハンバーガーとのポケモンフード。
会計を支払って、財布を鞄に乱暴に押し込んだ。
店員がますます作り笑いでトレイを差し出してくる。
が受け取ろうとしたら、それより一瞬早くがそれを取った。
「ありがとうございましたァ」
そんな声に見送られ、二人は空いている席の中でも一番端を選んで座った。
「あのね、あたしのやりたいこと何かわかってる?」
「勿論です。だけど暮らしていけないのではそれも本末転倒でしょう」
「それはそれ、あたしが望んでやったことなんだから構わないじゃん」
がさがさとハンバーガーの包みを剥がしてはそれにかぶりついた。
苦々しい表情を浮かべたがそれを見遣る。
「ほら、も食べなよ。ってか残したら承知しないからね。お金ないんだから」
「・・・なんか矛盾してませんか」
呆れ口調でもポケモンフードを口に運んだ。
特別旨い訳でもないが、不味くも無い。
良くも悪くも一般的な味である。
「普通の味、でしょ」
「え・・・」
一瞬心を読まれたのかと思い、ぎくりと顔を上げる。
「屋敷に居た時は高級品ばっか食べてたもんね。には美味しくないかな」
「・・・いえ、そんなことは」
確かに味に差はあるけれど、食べる分には問題無い。
「あたしもね、普通の味だなって思うよ。でも一人で高級品食べるより、二人でハンバーガーの方が美味しいと思うわけよ」
その言葉にははっとした。
初めて会ったあの日。
たった一人で広い部屋に座っていたを思い出して。
「だからさ・・・あたし、あんたがついて来てくれただけで幸せだよ?苦しい生活になるの判っててあたしについて来てくれてさ、それだけで」
「・・・!」
へらりと笑うに息を飲む。
あの日も一通り自己紹介の済んだには無表情に言ったものだ。
『ごめんね、うちの浅はかな両親の所為でこんなところに閉じ込められて』
本当に済まなそうに言ったのだ。
その時判った。
自身がそう感じていることに。
だから真実申し訳無いと思っているのだと。
はそんなの無表情に、少しでも笑みをやりたいと思った。
この諦め色の主人に、せめて幸せの色を。
その時からはの為にあろうと強く思った。
「・・・だけどそれならやっぱり俺に戦わせてください」
「・・・あのね、あたしの話聞いてた?」
「貴方がトレーナーになりたいのは知っています。だけど俺も貴方の為に戦いたい」
真剣な眼差しを向けられ、の表情も固くなった。
こんなに真剣なを見るのは久しぶりだ。
家出宣言以来だろうか。
それは一年程前の事だ。
真っ白な紙切れをに突きつけたあの日。
不思議そうな表情のに家出をする、と告げた。
勿論止められたけど聞き入れず、逆について来るか来ないかの選択を迫ったのだ。
『これ切符だよ。行き先も何も無い切符。二人分買ったんだ。でもが行きたくないなら、一人分は払い戻ししようかな』
その言葉を聞いた瞬間、は真剣な眼差しになり迷わず一枚の紙切れを手にした。
『世界の果てまでもお供します』
恐らくには判っていたのだろうとは思う。
何もかもを諦めさせられる牢獄のような家を嫌っていた事を。
そしてその夜、二人は屋敷を抜け出した。
手に真っ白な切符を持って。
「戦うしか能の無い俺を、貴方の為に戦わせてください。それが俺の幸せなんです」
「・・・」
の望みは知っている。
だけど、それでも・・・!というの言葉を断る術など無い。
傷つけずに回避する手段など。
「じゃあ・・・一回だけ、だよ」
やや間があいては小さく了承の意を示したのだった。
「・・・信じらんない」
が了承した後、食事もそこそこに立ち上がった。
そんなに戦いたかったのだろうかと思うほど。
手当たり次第戦って、気付けば財布は驚くほど膨らんでいた。
そのまま宿泊施設に戻ってきて、今に至るわけであるが。
呆然としながらベッドの端に座る。
は疲れたのかベッドに体を投げ出していた。
その表情は満足げである。
「・・・、疲れた?」
「少しだけですよ。まだまだ戦えます」
が覗き込むと笑って答えてくれる。
しかしそんなを見下ろすは少し微妙な表情だ。
「・・・如何したんですか」
「・・・、さ・・・。あたしの傍に居るよりもっと腕のいい人のところに居る方が良いんじゃないの・・・?」
「え・・・っ」
思わずがばりと身を起こした。
「何故です?!」
「だって・・・あたしじゃまだまだを使いこなせないもん・・・。もっと自由に戦える人のところの方が・・・あんた幸せなんじゃない?」
今日一日見ていて思った。
は自身がトレーナーの才能があるとは思っていない。
しかしなぜそうなろうと思ったかといえば、の本領を発揮させてやりたかったからだ。
勿論戦うだけがの一生ではないだろう。
だけど、闘争本能は個体差があるとはいえ、どのポケモンも平等に持っているもので。
それを十分に発揮させてやりたかった。
「あたし才能無いから・・・いつまで経ってもあんたのこと使ってやれないし・・・だから、もっと才能有る人とトレード・・・」
「馬鹿なこと言うな!!」
の言葉が終わる前にの怒声がの言葉を遮った。
「俺は貴方の為に戦いたいんだ!!他の誰でもない貴方の為に!!!」
「・・・・っ・・・」
「何のために貴方から切符を貰ったと思ってるんだ・・・!俺は、俺は・・・っ」
世界の果てまでも一緒に行くと言ったのに。
それは独り善がりだったのだろうか。
そう思うと無性に悔しくて。
はの肩を掴みベッドの上に押し付けた。
は急に世界が180度回り、それについて行くことが出来ない。
気付けばは上に馬乗りになっていて。
その柔らかな唇が、の唇に押し付けられていた。
「・・・っン、ぅ・・・っ」
遅れて状況を理解した瞬間、驚きにの目が見開かれる。
しかしは腕を緩めたりしなかった。
そのまま抵抗できない様に押さえつけて、たっぷりとの唇を味わう。
「っぅ・・・ん、ンン・・・っ」
ゆるく絡む舌から逃れることも出来ず、はただただ奪われ続けるのみ。
飲み込みきれなかった唾液が頬を伝うのを感じた。
「っは・・・ちょっと、何すんのよ・・・!!」
漸く唇が離れ、自由に口が利けるようになったかと思うとは怒声を孕んだ声でを睨み付ける。
しかしは痛くも痒くもないといった表情だ。
「何をするんだと思いますか?」
「な、何って・・・」
この体勢を顧みれば何となく予想はつくけれど。
そんなまさか。
「貴方が想像している通りですよ」
言うなりの手がのシャツを下着ごと捲り上げた。
「きゃぁっ、ちょ、ヤダ・・・っ」
ふるりと柔らかく震える胸を露わにされて、頬が熱くなる。
しかし両手で覆おうにもに押さえ込まれているのでどうにも出来ない。
「・・・やっ、あ・・・っ」
を押さえ込んだまま、はゆっくりと屈み込んでの胸に唇を押し付ける。
柔らかな弾力が僅かに抵抗するけれども気にもならなかった。
「やァ・・・んっ、あっ・・・あァ・・・っ」
舌先で弄ぶように嬲ると溜め息に混じって声が漏れてくる。
丸みをなぞるように唇を辿らせ、ぷっくりと勃起した乳首に軽く歯を立てて。
「あァんっ、はぁっ、はぁァ・・・っ」
甘く色を含んだ声がの耳をくすぐった。
煽られるように胸元をきつく吸い、小さく跡を残す。
「・・・っ、なん、で・・・っ」
髪を振り乱していやいやと首を横に振る。
それを苦く見る。
「・・・何でも何も。俺はずっと貴方とこうしたいと思っていましたよ」
ゆっくりと手を緩め、その手をの髪に絡めながらは吐き出すように言った。
優しく髪を撫でられてますます困惑を感じる。
「・・・無理矢理こんなことをするつもりじゃ、なかったんです。だけど貴方が俺を手放すだなんて言うから」
体を離して、自らが乱してしまったの衣服を整えてやった。
そしてそのまま体を起こして、ベッドから降りる。
ぎしりと静かな部屋にベッドの軋む音がした。
「・・・?」
「・・・済みません。傷つけるつもりじゃなかったのに」
小さな謝罪と、後悔の色。
ベッドに横たわったままはそれをじっと見る。
背を向けられているのでがどんな表情をしているのかまではわからなかった。
「、ちょっとこっちおいで」
やおら体を起こしてに向かって手招き。
勿論見えてはいないわけだけれど。
「・・・嫌です」
しかしは首を横に振った。
「珍しく聞き分けないね。いいからおいで」
「嫌です。貴方に嫌われたのにまともに顔なんか見れません」
「あのねぇ・・・。じゃああたしがそっち行くから」
の後ろでぎしり、とベッドが軋んだ。
そして直後に何かが背中にぶつかる。
「ね、こっち向いて。あたしの顔が見たい」
ぎゅう、と後ろからの手がを抱きしめていた。
「」
促され、仕方なく振り向く。
何ともいえない表情をしているを見てはにっこりと笑った。
「・・・俺は、貴方の傍にいたいんです」
「うん、ごめんね。ホントはあたしもを手放したくなんかないんだ」
「貴方の為にだけ戦いたいんです」
戦うことが好きなわけではない。
そりゃあ本能的にそういう感情があることはわかっているけれど。
そういうことではなくて。
何の為に戦いたいのかと問われれば、の為になりたいから戦うのだとそう思っているのだ。
「ホントは・・・あたしも、だけのトレーナーになりたかったんだ」
ポケモンが好きだからという訳ではなくて。
何故トレーナーになりたかったのかと言えば、の為。
あの日の真っ白な切符が二人の未来に繋がっていればいいとずっと思ってきたのだから。
の胸に顔を押し付けて抱きついていると、おずおずとの手がの背に回された。
「・・・貴方を愛しているんです」
ぎゅうときつく抱きしめられ、耳元でそっと囁かれたその言葉。
は体が熱くなるのを感じた。
「あたしも、のこと・・・愛してるよ」
そしてゆっくりと体を離して、を見上げた。
視線の先のは一瞬驚いた顔で、だけどすぐにいつもの穏やかな表情になって。
ゆっくりと顔を近付けてくる。
は優しく触れ合う唇の感触にうっとりと目を閉じた。
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と、言うわけで。
大人気なサーナイトです。まぁあの外見ですもんね。人気あるのも頷ける。
忠犬サーナイト。如何でしょうか。
皆さんのサーナイトとはちょっとイメージ違ったかもしれませんね(苦笑)
何となく「サーナイト」という響きから彼は軽く騎士道入ってンじゃないかと思ってこの有様に。
ところで、ラルトス、キルリア、サーナイトって一体何が由来してるんですか?
例えばレディバなんかは判りやすいですよね。てんとう虫の英語読み。
金銀以降ってそういう判り易い、悪く言えばちょっと安易な感じのが多いなと思っていたのですが・・・。
ラルトス系列は由来が全然わかりません。
誰か知ってたら教えてください(汗。