ドスン。





悪夢の告白








その夜アイオリアは悪夢を、見た。
どんな悪夢かと聞かれると女が降って来る夢だ。
「ななななっ・・・っ!?な、何をしてる・・・!!!」
「あっれー?ごめーん、アイオリア。なんか夢見悪くてテレポートしちゃったみたい!」
真夜中の衝撃で無理矢理覚醒させられたアイオリア。
体にどすんとした衝撃が伝わった瞬間彼は文字通り飛び起きた。
一瞬泥棒か!?などとも思ったが、まさかこんなところまで泥棒の侵入を許すはずがない。
ここまで来たと言うことは少なくともムウとアルデバランとデスマスクとサガにカノンの5人をぶっ飛ばしてこなければいけないのである。
慌てて何が落ちてきたのかを確認したら、それは一ヶ月前にこの聖域に来た『』と言う名の日本人の少女だった。
実はこの
最初は星の子学園に連れてこられた少女だった。
それと言うのも彼女には生まれついての特殊能力があり親に酷い虐待を受けていたことが発覚。
そしてその能力に目をつけたグラード財団に引き取られた、というわけである。
特殊能力と言っても何のことはない。
只の超能力である。
はその能力に非常に秀でていてムウよりも少々劣る程度と言うところ。
しかし正しいコントロールを教えてもらうことなどなかったため、その無法振りたるや貴鬼をも凌ぐ。
そう、とどのつまり「能力だけは一人前」という非常に困った状態であった。
それでも暫らくは日本で様子を見ようと学園に入れたのである。
結果は散々。
一度寝ぼけて学園の建物ごと東京ドームへ吹っ飛ぶなどという事件を起こしたため仕方なくムウの元で修行させようと言う話になり・・・。
今に、至る。
「あーあ・・・またムウに怒られちゃう・・・」
テレポート禁止の聖域でテレポートしてしまった。
不可抗力とはいえきっと怒られる。
アイオリアの上に馬乗りになったままやだなぁと溜め息を吐く
・・・ちょ、ちょっとどかないか・・・?」
「ん?あーゴメンゴメン!」
忘れてたーとか言いながらはアイオリアの体からずるりと降りた。
決して重くは無いの体重と柔らかな太股の感触がなくなりほっとしたような寂しいような。
しかしそんなことには気付かすは横に座り込む。
「ていうかさー申し訳ないんだけど、朝まで泊めてもらっていい?降りるの面倒だしどうせ怒られるならおんなじだし?」
と、もそもそとアイオリアの隣に潜り込んでこようとする
勿論アイオリアはまだ返事すらしていないのに。
「ま、待て待て!!送って行ってやるから待て!!」
慌てて止める。
「何でー?面倒臭いし、いいじゃん。今日だけ今日だけ!」
ねっねっ、とお願いして見せるがアイオリアは勿論首を縦には振らなかった。
「だ、ダメに決まっているだろう!・・・ほ、ほら送ってやるから立て」
「・・・ちぇ、ケチ」
あーあと溜め息を吐いてはアイオリアのベッドから降りた。
さらりと寝巻きの裾がはためく。
「!」
それを見たアイオリアは一瞬硬直した。
なんせは少し長めのタンクトップを着ていただけ。
下は穿いておらず、白い太股が夜の闇に薄っすらと浮かんでいた。
確かにまだまだ聖域は暑いし、アイオリアも自分自身タンクトップとハーフパンツで寝ているのだから気持ちは分からないでもない。
しかし!
「なっ、なんて格好してるんだ!」
「ん?・・・いやぁん、エッチ。あたし高いよォ〜」
非難の声を浴びはふと自分の姿を顧みた。
そしてふざけたように腰をくねらせてみたりして。
にしてみれば軽い冗談だが、アイオリアには冗談で済まない。
顔を真っ赤にして(勿論大分暗かったのでにそれは分からなかったが)「何か着ろ!」とクローゼットを開けている。
「あーもういいよォ、暑いしさ。誰も見てないし、暗いから分かんないって!!それより睡眠削られる方がやだからさー、送るか泊まらせてくれるかどっちかにしてよ」
たんすの中をひっくり返さん勢いで服を探しているアイオリアに言い、腕を掴んだ。
「ほら、行くよ!」
「ちょっ・・・」
ぐいっとアイオリアの手を引いては獅子宮を飛び出した。
「お前そんな格好で・・・っ!!」
「平気だってば!・・・アイオリアが見なきゃね」
「っ・・・とととと当然だろう・・・!!」
話を振られてアイオリアがばっと顔を反らす。
その反応があまりにも良い反応だったので可笑しくなっては小さく声を立てて笑った。
途中カノンやデスマスクに会いはしないかと非常に心配だったがそんなこともなく。
金牛宮に入ろうかと言う所ではぴたりと足を止めてアイオリアを振り返った。
「ここでいいよ」
「ん?どうした、白羊宮は次だぞ?」
「いや〜・・・この格好で送ってもらったのばれたらアイオリアまで怒られそうじゃん?だからここで帰って。多分ムウ怒ってると思うんだよねー・・・」
成る程。
確かに一理ある。
しかしムウに怒られるからと言って責任を放り出すようなアイオリアでもない。
「だが万が一ということもあるだろう?いいさ、ムウになんと言われようと俺は・・・」
「いや、アイオリアが良くてもあたしが良くないの。ムウの長い説教まで付き合うことない―――」
「誰の話をしてるんですか?」
突然後ろから聞こえた声には思い切り驚き金牛宮を見た。
今の今まで気配を感じなかったアイオリアも驚いた。
「・・・随分な言いようですねぇ、
ゆっくりと金牛宮の奥から姿を現したのはムウ。
迎えのムウを見るやいなやはしまったという顔つきになった。
「・・・そんな格好で出歩いていたんですか?」
「あ、こ・・・これは・・・その・・・;」
穏やかな視線で促されは寝間着の裾をぎゅっと握りしめた。
「別に構いませんけどね。ただ好きな男を誘惑したいならもっときちんと計画を立てなさいと言いたかっただけで」
ずば、と喋るムウには目を見開いた。
「ちょ・・・っムウ・・・!」
「大好きなアイオリアのところに行くのは止めませんがねぇ、もう少し順序を守ったらどうです?こんな真夜中に行っても追い返されるだけでしょうに」
殊更『大好きな』という言葉を強調して言うムウに、流石のも頬を赤くした。
「なっ・・・ちょ、ちょっと!!!!本人目の前にしてばらさなくてもいいでしょ!!!!!」
自分から伝えるのではなく他人にばらされるというのは何だか格好悪いし、よっぽど恥ずかしい。
突然のムウの言葉にきょとんとしていたアイオリアだったが直ぐに言葉の意味を飲み込むとうろたえだした。
そんな目の前の二人を面白そうに見て、ムウはくるりと踵を返す。
「服も持ってきてあげましたから、泊まりたかったら好きになさい。くれぐれも仕事には遅刻しないように」
そう言い残しムウは元来た金牛宮の奥に歩いていったのだった。
その後には小さな鞄が残されていてはただ何となく用意が良いなぁと思った。
気まずい思いで振り返ると、アイオリアも所在無さ気に視線を逸らす。
嫌な沈黙が流れた。
それを先に破ったのは、
「はぁ・・・まあムウに言われちゃって今更なんだけどさ・・・」
小さな溜め息交じり。
しかしアイオリアを見据える目はしっかりとしていて。
「あたし、アイオリアが好き。アイオリアは?あたしのこと・・・友達以上には見れない?」
その言葉に嘘が無いことだけは真摯に伝わってくる。
あまりにも間抜けな告白にはこんなはずじゃなかったのになぁと思いながら苦笑を漏らすのみだ。
対するアイオリアは言葉を失っている。
余りにも予想外な展開が続きまくって如何反応したらいいのか分からないのだ。
「・・・アイオリア?」
「あ、ああ・・・いや、その・・・驚いて、しまって・・・なんと言えばいいか」
狼狽した歯切れの悪い言葉にはそりゃそうだよね、と小さく呟きムウの持ってきた鞄を拾う。
「あたし、帰ったほうがいいかな?」
「え・・・」
「それともアイオリアがお持ち帰りしてくれるかしら?」
突きつけられた究極の選択。
いつもなら持ち帰るなんて持っての他だと言っただろう。
しかし好きだと言ってくれた彼女をこのまま帰すというのは、どうだろう。
しかも自分もそんな彼女に好意を抱いている時。
このまま帰すのは・・・やはり馬鹿のすることだろうか。
ぐっとアイオリアはの腕を取った。
「・・・負けるな、には」
困ったように一言だけ言い、アイオリアはを抱き上げ元来た道を引き返していったのである。
獅子宮について下ろしてもらったは嬉しそうににんまり笑って。
「ねぇ、じゃあアイオリアもあたしのこと好きって言って」
そんなお願いでアイオリアを困らせたとか。



次の日も、アイオリアは悪夢を見る。
しかも起きながらにして。

――ドボン。

「!!!」
「あははー、また落っこちちゃった。ごめんね、アイオリア」
次の日もが降ってくるという悪夢に見舞われているアイオリア。
それもその筈。
が落ちてきたのは、丁度アイオリアが浸かっている湯船だったのだから。
しかも用意周到にしっかり服は脱いでバスタオルを巻きつけて。
これはもうどうみても確信犯である。
「・・・・・・本当にお前はやらかしてくれるな・・・」
「えへへーもっと褒めて褒めて!」



白羊宮では懲りないに流石のムウも開いた口が塞がらなかったとか。
















================
アイオリアはもうちょっと純情なおニイさんにしたかったです。
ちょっと最後は小慣れた感が否めません・・・。