嗚呼畜生。
大番狂わせもいいところだ。
畜生、真っ暗だな。
敗北した俺に何かを残す術はないと言う事か。
嗚呼最後に。
最期にもう一度だけ。
お前の声が聞きたかった。

畜生、こんな時に思い出せるのはお前の笑顔だけだ。
・・・・・・。






RE birth DAY






かすかな空気を感じた。
死の暗闇の中でもそんなものを感じるとは。
その次には何か音を感じた。
一体何だ。
死の世界と言うものは。
一体。

『・・・!』

嗚呼だけどなんだか懐かしい声だ。

『・・・!・・・!』

よく聞こえない。
もっと聞かせてくれ。
その声は、今一番焦がれている・・・そう、お前だろう?




「マリク様!!」
「・・・」
突然に訪れた覚醒が、マリクの視界に酷くぼやけた映像を送り込んできた。
「何、だ・・・?」
ぎしりと軋む体でマリクはゆっくりと体を起こした。
「・・・・・・?」
「はい」
見下ろす先には確かにの姿が。
嗚呼、何故自分はこんなところにいるのだろう?
あのまま消し去られる存在ではなかったのだろうか。
それともまた表人格が自らを生み出したのだろうか。
「・・・驚かれるのも、無理はないかと思います・・・」
何も言えず呆然とするマリクを見上げてが口を開いた。
「昨日、ファラオの記憶はあの少年から旅立って行かれました。あたしもその現場におりましたので良く覚えております。ですが・・・」
「・・・」
言葉を探すようには一瞬、視線を逸らした。
マリクはを見つめたままだ。
「ですが、今日になってその記憶が現世に戻ってきてしまったのです。それも・・・一個体となった肉体を伴って・・・」
「・・・」
「・・・それはもう一人の、リングの所持者だった方にも起こりました。それで、まさかと思ってあたしだけ皆様から外れて先に戻らせてもらったのです」
「様子を見る為にか」
「そうです・・・。そして、マリク様を見つけました」
説明を終え、はぁっと深い溜め息を吐く
しかし直ぐにばっとマリクに向き直り、その体に抱きついた。
「マリク様・・・!マリク様!マリク様ぁぁ・・・!!お会いしたかった・・・!!」
「・・・っ」
涙を流しながらはマリクの耳元で何度もその名を叫ぶ。
きつく首に回された腕が温かい。
嗚呼、またこの温もりに触れる事が出来るのか。
マリクは思わずの体を抱きしめ返した。
「・・・マリク、さま・・・?」
「・・・」
嗚呼、何と言う事だ。
「・・・ククク・・・」
世界はまだ。
見捨てていない。
「クックック・・・そォか・・・ファラオもバクラも・・・クックック・・・」
「・・・マリク様・・・!?」
「世界は・・・まだ俺達を生かそうってのかァ・・・」
何の因果も業も無い、ただただマリクの憎しみの権化である自分すら。
「・・・マリク様・・・、まだ憎しみは晴れませんか」
「何?」
「もう貴方は主人格のマリク様の影ではありません。一個体となられた新しい一人の人間です。それでも、それでも・・・憎しみはまだ身の内におありですか・・・?」
「・・・生憎と、記憶は健在だねェ・・・」
にたりといつもの邪悪な笑みでを見下ろすマリク。
その目はいつもと同じく自信に溢れていて、強い。
「心配するなよ・・・この世を地獄に変えてもお前だけは未来に連れて行ってやるさァ」
「・・・えっ」
「俺にはお前がいればいい。あの世までもお前を道連れだ」
ぐい、との顎を掴むとやや強引にその唇を奪った。
「っ・・・」
息が詰まるほどの、深い口付け。
柔らかな唇を軽くこじ開けて舌を絡め取る。
何度も角度を変えながら混じる吐息を感じては身じろぎながらも力の抜けゆく体をマリクに預ける。
「ン、は・・・っマリク・・・様・・・」
「クック・・・もっと欲しいだろ?」
離れたマリクの唇を惜しむように視線を向けるを見下ろしマリクは問う。
それに素直に頷いて、マリクの手が伸びてくるのを待つ
しかし、マリクはから視線を外すと見当違いの方を見て口を開いた。
「おい。出てこないとこのままヤるぜェ?」
「え・・・?」
も慌ててマリクの向いた方を向く。
すると。
「・・・」
「ま、マリク様・・・っ」
石の壁の影から現れたのは。主人格のマリクであった。
いや、それだけではない。
イシズまでいる。
なんと言うことだろう、気付かなかっただなんて。
今のキスを見られたことに気付いたは頬を赤く染めた。
「・・・」
「クック、こうやって面つき合わせるのは初めてだなァ」
「・・・」
「何か言えよ。コラ」
「・・・何故、お前まで戻ってきたんだ」
既に憎しみは無く、寧ろファラオには感謝さえしているくらいなのだ。
この目の前の男を消してくれたことに。
「知るか。まァ、俺としちゃ心残りがあったからなァ・・・クックック・・・」
を抱きしめ笑う。
しかし対するマリクは苦い表情だ。
を連れて行く為に舞い戻ったのかもなァ・・・!ハハハハハ!!」
「そんなこと・・・!ボクが許さないぞ!!」
きっと闇人格に負けない強さでマリクを睨み付ける、主人格のマリク。
「クック・・・まぁまぁ、怒るなよ。折角こうやって生き返ったんだ。直ぐ死ぬのもつまらないからねェ・・・暫らくは生きていてやるさ」
声高に笑いながらマリクは機嫌良くの髪を撫でた。
人前でそんなことをされるのに慣れていないはただただ顔を赤く染めるだけ。
「ところで・・・ファラオも来てるンだってなァ・・・」
「・・・もうこの地にはいませんよ、マリク」
「何?」
「今リシドに空港まで送らせています。貴方と彼等が会う必要はありません」
「ちっ、余計な事には気が回るな、姉上様よォ」
イシズの表情も固い。
こちらのマリクは切れれば何をするか判らないので緊張しているのだろう。
「・・・よし、ンじゃぁ日本まで行くかァ。、お前も来い」
「えぇっ!?」
少し考える素振りをしたマリクはを抱いたまま立ち上がって言い放った。
流石にその発言にはも驚きを隠せない。
「に、日本って・・・マリク様・・・」
「お前は日本まで一人で行った事があるんだろ。忘れてないぜェ?」
「で、でもあの時はマリク様に会いたい一心で、無我夢中で・・・!」
「クックック、なんとかなるさァ。行くぞ」
突然すぎる発言に呆気に取られている二人の横を通り抜け、マリクはを抱いたまま歩き出した。
「ま、待ちなさい・・・!勝手な真似は・・・!」
慌ててイシズが止めようとするが、その言葉を途中で遮ってマリクも叫んだ。
「ボクも行くぞ・・・!!」
「マリク・・・!?」
「お前を野放しには出来ないからな・・・!」
「クッ・・・弱虫の主人格サマが言うじゃねぇかァ」
売り言葉に買い言葉。
勝手に盛り上がって行くマリク二人を止める事は、既ににもイシズにも無理そうである。
同時に溜め息を吐く女性二人に気付かずマリクとマリクは果て無き言い争いを繰り広げていたのであった。


結局――。
「・・・日本へ、ですか・・・?」
空港にいるリシドにはそのままそこにいるように連絡を入れたイシズ。
「・・・マリク二人が日本へ行くと言って聞かないのです・・・仕方ありません」
「・・・・・・・・お察しします・・・」
何もかもを諦めたイシズの口調にリシドはそう伝えるのが精一杯だった。
はイシズがリシドに連絡を入れている間、マリクとマリクの間に座って待機させられていた。
何とも言えないこの緊張感が堪らなく嫌だ。
しかしどちらのマリクも席を外そうとしないのだ。
しかも闇人格の方に至ってはの腰に腕を回している始末。
逃げようにも、逃げられない。
「・・・(イシズ様ぁ〜・・・早く戻ってきてよぉ〜・・・)」
気まずい雰囲気の中一心に願えばようやくイシズが戻ってきた。
「3人共、行きますよ」
その言葉にまず主人格のマリクが立ち上がった。
それにならいも立ち上がろうとするが、闇人格のマリクはその腰を抱いたまま立ち上がろうとしない。
「・・・マリク様?行きますよ?」
「・・・あァ・・・」
促され億劫そうに立ち上がる。
腰は抱かれたまま、一緒に歩き出してふと思った。
「あ、そうだ・・・マリク様」
「なんだァ?」
「言い忘れていました。・・・お帰りなさいませ」
「・・・!」
はにこりと、笑む。
ぎくりと一瞬体を強張らせたマリク。
「どうしました?」
いきなり足を止めたマリクにつまずきそうになりながらは首を傾げる。
「・・・なんでもねぇよ」
「そうですか?」
変なマリク様。
は言ってまた笑う。
「・・・」
死の暗闇で思い出したの表情だ。
もう一度と焦がれた、彼女の。

「何ですか?」
「・・・俺の未来へ連れて行くのはお前だけだ」
「え・・・」






最期の約束の通り。
傍に、そして未来へ。
お前だけの手を引いて永劫の未来へ。








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うーん遊戯王一作かいたらちょっと遊戯王ブーム戻ってきてしまった。
マイナー路線に手を出そうと思って闇マリク。
最初の方で「この世を地獄に変えても〜」ってくだりを書きましたが、別にマリクはバクラみたいに世界を狙ってるわけじゃかなってですね(汗)
ただ遊戯を抹殺したいだけだったんだった・・・失敗。
つぅか読み返したら闇マリク格好ええけどやっぱ酷いな。
でも格好ええ・・・。夢書きにくい設定この上ない性格やけど・・・!
ところで遊戯は「ユウギ」で裏人格と見分けがつくし、獏良も「バクラ」でおっけーなんですが(了と分けてもいいしね)・・・。
マリクはどうすんの!?
マリクは「まりく」にするのか!?そんなこっ恥ずかしい書き方なんかでけへん!!!!!それにどっちが「まりく」になるんだ!やっぱ表か・・・。
と、言うわけで今回は仕方なくマリクはマリクのままでした。
どうにもこうにもなりません。
誰か打開策を知っていたら教えてください・・・。