情にほだされるとは、この事だと思う。
何で俺が・・・と思いつつ、その手を振り払うことは出来やしなくて。
ただただ向けられる子犬に似た視線に、土方はのめり込んでいくのみなのであった。
理由
真選組の屯所前に何人かの隊士が集まっていた。
それは今日現れる予定の女性を待っているのである。
男ばかりの(一人だけ例外がいるが)真選組に降って湧いた華を待っているのだ。
そうこうしているうちに向こうからそれが歩いてきた。
桜色の着物に身を包み、静かに歩いてくる様子は正に華である。
長い髪をさららさと風に乗せ上品な笑みで口許を綻ばせて。
「・・・皆様、今日和。お邪魔させていただいても宜しいでしょうか・・・?」
屯所前の隊士達に丁寧にお辞儀をした後の言葉に隊士達は軽くざわめく。
そして隊士達に迎え入れられるその様は掃き溜めに鶴と言ったところか。
その鶴はいつも同じ場所に案内される。
と、言うよりはそこにいる人物に会いに来ているのだ。
「副長ォ、お見えになりましたよ」
声を掛けるなり障子ががらりと開いた。
「おォ、入れ」
障子を開けたのは真選組副長、土方十四朗。
それを見て女性はぱっと明るい笑顔を向けると、またしても隊士達に深く頭を下げて礼を言い土方の部屋に入って行った。
土方も軽く手を挙げて隊士達に応え、障子を閉める。
「・・・いーよなァ、副長・・・。あんな綺麗な人が婚約者で」
「美人だし控えめだし、健気で一途だよな・・・さん」
「副長には勿体ねぇよなー・・・・」
皆口々に、障子の向こうの土方には聞こえないように小さな声で羨望の言葉を吐いた。
「悪ィな。こんなとこ呼んじまって。ちょっと嫌な情報が入ってよ」
「いえ、構いません。お会いできるだけで嬉しいです」
を座らせ、土方も向かいに座った。
「その情報ってのが・・・」
「ほら、嬉しくてこんなに胸がドキドキしておりますの」
土方の言葉も聞かずは目の前の土方の手を掴み、右の胸に押し付ける。
「お前俺の話聞けよ。ちょっと真面目な話なんだけど」
「あっ、すいませんわたくしったら・・・!十四朗様に会えるのが嬉しくてつい・・・!!」
「おー分かった、分かったから上に乗るな」
を押し退け、土方はもう一度を座らせる。
「兎に角だ、気になる情報が入ったからお前をしばらく真選組で預かることになったんだよ。だから大人しくしてろ」
「はい!じゃあ暫らくは御一緒出来るのですね?嬉しいです・・・!!」
がばぁっとは土方に抱きついた。
「おいコラ!!大人しくしてろって言ったトコじゃねーかァァ!!」
瞳孔開き気味に叫ぶ土方。
これがでなく真選組の隊士ならば誰もが恐れたことだろう。
しかし。
「嬉しくて大人しくなんて出来ません・・・!!」
清楚な様相とは裏腹にはがしっと土方に抱きついて離れない。
困ったもんだ。
しかし土方も無下にを払ったりはせず。
「おら、分かったから退け。また後で相手してやる」
「・・・」
「」
「・・・はい・・・」
宥められ、渋々と言った風に離れる。
「良し。聞き訳のいい女は好きだぜ」
さらりと流れるの長い髪を少しだけ手に取ると、土方はそれを口許へ持っていった――、
――瞬間。
「離れの用意が出来やしたぜィ」
がらっと絶妙のタイミングで沖田が障子を開け放った。
勿論土方にの髪を手放して居住まいを正す時間など無くて。
気障な仕草をばっちりと見られたわけだ。
「そっ・・・総悟・・・」
慌ててその手からの髪を離すも後の祭り。
しかし沖田は顔を赤らめて固まっている土方には目もくれず、さっとの方へと歩み寄る。
「離れ・・・ですの?」
先ほどの沖田の言葉にやや不満げな表情を浮かべる。
「土方さんといちゃいちゃしてェのもわかりますがねィ、取りあえず仕事終わるまではそっち行ってくんなせィ」
「・・・お仕事の邪魔だから・・・でしょうか」
「その通りでさァ。好きな人困らせちゃいけねーや」
「・・・」
沖田にしては正論だ、と土方は目を丸くする。
同時に『テメェにだけは言われたくねぇな』とも思う。
しかしながら一応沖田の言うことは正しいので土方は黙っていた。
はちらりと土方を見て、沖田を見て・・・もう一度土方を見てから溜め息混じりに口を開いた。
「・・・判りました」
仕方があるまい。
土方も何も言ってくれないのだし。
しゅんと了承の意を示したに沖田は緩慢な動作で手を伸ばした。
そして。
「良し。聞き訳のいい女は好きだぜ」
と、先程の土方の気障な動作を真似する。
「総悟ォォォォ!!!!!!」
先程までしおらしかったのはこれがやりたかったからかと一瞬で得心し、土方は怒気を孕んだ声を上げた。
「・・・退屈です」
「まあそう言うな」
夜になり、漸く隊服を脱いだ土方が現れた時は。
はもう退屈で退屈で如何しようと思っていた時だった。
このまま土方は永遠に現れないのではと思っていた程だ。
「十四朗様、わたくしは何時までここにいさせて頂けるのですか?」
「あァ・・・いや、まだ判ンねぇな」
「・・・」
と、言うことはしばらくこの退屈な状態が続くのだろうか。
いや、でも明日はバイトがあるし・・・。
「十四朗様、わたくし明日はお仕事がございますの」
没落貴族のお嬢様は働かなければ生きてはいけないのだ。
「休め。っつーかもう辞めてもいいんだぜ?俺がお前の家族くらい養ってやらァ」
「・・・いいえ。そういう訳には・・・」
「何だよ。最初はそのつもりだったんだろーが」
「・・・」
ちくりと、言葉が刺さる。
そうだ。
最初はそのつもりだった。
それなりのお金を持ち、それなりの地位を持っている土方。
その日の食事も事欠くほどの没落貴族のは、そんな男を捕まえるしか生きる道は無いと思ったのだ。
お顔も良いし申し分ないと、ただそれだけの事実で。
確かに紆余曲折を経て土方と婚約するまでになったけれど。
今のは最初のと、随分人間が変わってしまっていたのである。
「最初は最初、今は今です。わたくし、十四朗様に会って変わってしまったのですよ」
愛す事を覚え、愛される事を知って。
「・・・まァ、それを言うなら俺もだけどな」
ぽんぽんとの頭を軽く叩きながら土方はの隣に腰を下ろした。
「最初は同情のつもりだったけどよ」
世間知らずな子犬の目で毎日のように土方を追い回した。
鬱陶しいと思いつつもその手を振り解けずに。
思いのほか苦労していることも知って。
何時の間にか。
「十四朗様・・・」
ぐい、ときつく肩を抱く。
そしての顎を掴み、軽く上を向かせると優しく唇を押し付けた。
「っ・・・ふ」
柔らかく合わさった唇を緩くこじ開けられて舌を絡められる。
くちゅくちゅ唾液の混じる音が響いた。
何度も角度を変え深く奪われる。
「は、ァ・・・ん・・・」
ややあって離れた唇と唇の間には銀の糸が繋がる。
「はぅ・・・」
土方の手が少し強引にの着物の胸元を開いた。
そして迷わず首元に口付ける。
「あ・・・っ」
ぴくりとの体が震えた。
腰を抱くように回された手が、しゅるりと帯を解くのが判る。
そして決して性急ではない動きで土方の体重が掛けられ、床に背中をつけた。
「・・・十四朗様・・・」
見上げれば土方と目が合ってしまい、気まずいような気がして視線を逸らす。
「何で目ェ逸らすんだよ」
「・・・だって・・・」
あんまり真剣だから。
「見つめられると恥ずかしいのです・・・」
頬をふわりと上気させて目を伏せる。
いじらしい仕草に土方はどきりとしたが顔には出さない。
緩んだ帯を引き、着物の合わせ目を開いた。
「っん・・・!」
土方の手が胸の膨らみを包み込んだ。
頭はの首筋に埋まり、時折唇で耳朶を甘噛みする。
熱い吐息を耳元で感じては自分の体が熱くなるのを感じた。
「は、ァ・・・っあ・・・」
ゆるゆると土方の肩に腕を回して、ぎゅうっ強く縋る。
土方とこんな事をする様になったのはごく最近の事。
抱きついたりは日常茶飯事的にやらかしてくれるだがそれ以上のことになると途端に大人しくなる。
「あ・・・十四朗、様・・・」
土方の手が捏ねるようにの乳房を揉みこんで。
膨らんだ先端を指と指の間に挟みこみ刺激する。
「やぁんっ・・・ダメ、です・・・あぁ・・・」
背をしならせは髪を乱した。
「十四朗・・・さまァ・・・」
甘い声で名前を呼ばれるだけで土方の体にもぞくりと疼きが走る。
しかしそれを押し殺し、気を紛らわせるかのように愛撫の手を強めた。
舌先で首筋をなぞりながら徐々に下へと移動する。
ゆるやかに胸の丸みを確かめるかのように唇で撫で、尖った乳首をそっと口に含んだ。
「ふァ・・・っ、あァ、ん・・・」
小さく荒く呼吸をしながら、その度に声が漏れる。
一瞬、抵抗するように土方の頭にの手が置かれた。
しかしその細い指は土方を払う事など出来ず、逆に溺れたように髪に絡んで行く。
「んっ、は・・・ァ、はぁ・・・あ・・・っ」
時折、の足が土方の腰を擦るように動いていた。
無意識にしているのだろうが催促されているような気がして仕方が無い。
土方は舌と共に動かしていた指を少しずつ下にずらしていった。
「ひゃぁっ・・・」
くすぐるように脇腹を撫でられて高い声が上がる。
そのまますりすりと腰から太股を何度も撫で上げた。
そんな土方のいやらしげな手つきに誘われるがまま、はゆるゆると膝を立てる。
強請っているようでとても恥ずかしいのだけれど土方に躾けられた体は正直だった。
「や、です・・・十四朗様・・・」
「クッ、嫌じゃねえだろ」
「あぁん・・・っ」
立てられた膝の裏に手を差し込んで、脚を割りながら土方は喉で笑う。
そして、抱え込むようにの足を持ち上げてそっと指先を下着に押し付けた。
温く湿った感触が伝わる。
「あぅ・・・、やっ、恥ずかしい・・・」
はしたなく下着を濡らしている事実を土方に知られ、恥ずかしさには両手で口許を覆った。
視線の端にそんなの姿を捉えつつも手加減をしない土方は。
下着越しにの溝を何度もなぞり上げる。
「はぁっ・・・あぁ、ン・・・っ」
くちゃくちゃと湿った音が響いた。
直に触れられない焦れったさにますます溢れさせてしまうのが判って、強く羞恥を感じる。
「アァ・・・っ十四、朗・・・様、いや・・・ァ、あはぁ・・・」
「何が嫌なんだよ。言ってみろや」
「・・・っ」
触らないで、なんて馬鹿な事を思っているわけじゃなくて。
見ないで、なんて白ける事を思っているわけでもなくて。
「ほら、言えよ」
意地悪く零れた微笑に、は震える睫毛を伏せながら。
「・・・触・・・って、くだ、さい・・・。お願・・・もう・・・っ」
「触られないのが嫌だったのかァ?」
「・・・」
視線は逸らしたままで懇願する様子が非常に可愛らしい。
土方は軽く自らの唇を舐め、トドメの一言をに言い放った。
「エロい体になったモンだ」
その言葉にぎくりとは体を震わせたが、土方は気にしない。
構わず下着を引き下ろし、指先を軽く溝の中へ埋める。
「んっ・・・!」
「すっげ、ぬるぬるだな」
「あぁっ・・・はぁ、はぁ・・・ぁ」
滑る指先でぐりぐりとの女芯を容赦なく擦り上げて。
その度にぴくんぴくんと背をしならせては嬌声をあげる。
「はぁっ、あっ、あぁ、ンっ・・・ダメ、・・・あぁぁっ!」
二本の指できゅむ、と摘み上げられの体がビクッと一瞬硬直する。
「――――っ、はぁぁ・・・はぁっ、はぁ・・・っ」
「イっちまったか」
とろとろと溢れる蜜を指先で掬いながら土方は小さく笑う。
指先に絡んだそれは戸惑うことなく舌先で舐め上げた。
「・・・はぁっ・・・嫌、です・・・。そんな、舐めないで・・・」
内股を伝う粘液や果ては蜜の溢れる入り口さえ丁寧に舐め取られ、抵抗するように土方の髪を軽く引く。
軽い痛みに土方は顔を顰めてを見た。
「・・・っ、おいコラ、喧嘩売ってンのか」
「ち、違います・・・っ。十四朗様が舐めるから・・・っ」
「アァ?好きな女の舐めて何が悪い」
「だ・・・だって、だって・・・汚い・・・」
「阿呆。お前の体で汚ェとこなんかあるか」
ふわっとの頬が赤くなる。
と、同時に体の奥からまたしてもはしたなく涎を零してしまって。
「・・・クッ、なんだ、感じたか」
またしても喉で笑われ返す言葉が見つからない。
素直に小さく頷いたら、土方は嬉しそうに目を細めた。
「こんなもんで感じてんじゃねぇよ。まだもっとイイモンがあるだろ?」
言って体を離して着物の袷目を広げた。
つい先日まで処女だったはまだまだそれが目に触れることに慣れない。
気まずそうに視線を逸らして土方が覆いかぶさってくるのを感じるだけ。
「おい、こっち向けっつの」
「・・・」
軽く顎を掴まれ土方と目を合わせられる。
真剣な表情にどきりと心臓が跳ね上がった。
「十四朗様・・・」
名を呼べば、ゆっくりと顔を近付けられて。
「ン・・・、は、ァ・・・」
ちゅ、と唇を吸われたかと思うと離れる短いキス。
吐息が交わる距離で見つめられては心臓が早鐘を打つのを感じた。
膝を軽く抱え上げられ、土方の勃起が下肢に押し付けられる。
「いくぜ、力抜けよ」
「・・・っ!」
まだ、あまり慣れないこの瞬間。
入り口を押し広げられるような圧迫感に息が詰まる。
「はぁっ・・・あ、は・・・ァっ」
「くっ・・・」
きつく締め付けられる感覚に土方も眉根を寄せた。
「ン、はぁっ、・・・あ、ぁあ・・・っ」
体重を掛けることでの体を押さえつけ、ぐいぐいと腰を進めて。
時折強請るかのようにの膝が土方の腰を擦った。
「トシ、・・・さまっ、あっ、はぁっ・・・あぁぁ・・・っ」
髪を乱して必死に土方を受け入れる。
その様が可愛すぎて何度も頬や、唇、首筋に土方は唇を押し付けた。
背中に回されたの手が食い込むように爪を立てる。
だが、それさえも甘い。
何とか奥まで到達した土方は、しかし既に余裕無く。
時間も置かず腰を揺すり始めた。
「あっ、ダメ、あぁぁ・・・っ、あぁっ、ダメ、・・・っおかしく、なっちゃ・・・ァっ」
先程の絶頂の余韻が戻ってくるようだ。
苦しい程の快感には悲鳴にも似た声を上げる。
「はぁっ、はぁっ、・・・ダメぇ・・・っ」
「・・・っ」
荒い呼吸を土方の耳元で吐きながら立てた爪を一層強く食い込ませながら縋り付いた。
「ダメ、また・・・十四朗、さ、ま・・っ、あっあぁぁっ・・・!」
跳ねるようにの腰がしなる。
震えるつま先がぴんと硬直して、ややの後に緩やかに弛緩して行った。
そうしてゆっくりと意識を手放すの中に、土方も熱い白濁を注ぎ込んだ。
「はい、そんじゃそういうことで」
は土方のそんな声を聞いて目が覚めた。
どうやら誰かに電話をしていたらしい。
一体誰だろう。
電話を置いた土方はが薄っすらと目を開けていることに気付いたらしい。
蒲団の方まで這い寄って来た。
「起きたか」
「・・・はい、おはようございます」
見上げた先の土方は既に隊服を着込んでいる。
そうか、もう仕事をしているのか。
・・・仕事?
「仕事・・・っ!!!!」
慌てては体を起こす。
やたらと下半身が重くて顔を顰めながら土方を見て。
「今っ、今何時ですか!?」
「10時回ったトコだ」
「きゃーっ!!!遅刻ですっ、ど、どうしましょう・・・っ」
あわあわと焦るを尻目に土方はゆっくりと煙を吐き出しながら笑う。
「心配すんな。店にゃ今電話したからよ」
「え・・・」
「今日限りで永久就職すっからってな」
「・・・えぇっ!?」
「冗談だ」
目を見開くを面白そうに見遣って土方は笑う。
「・・・っもぅ!」
冗談で嬉しいのだか残念なのだか複雑な気分だ。
「・・・それで、本当は何て言ってくださったのですか?」
拗ねたような物言いで、は土方を恨めしそうに見遣りながら問う。
土方は煙草の煙を吸い込み、そして吐き出してから口を開いた。
「風邪引いて暫らく養生が必要だ、ってな」
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拍手で予告編を書いた土方夢でした。なんだかんだで愛されてます。
予告編っつーか前振りっつーか。
別にあの続きを書くわけじゃなかったんで、あの拍手お礼はあれで終わりな訳ですが。
なんか結構常識あるヒロインになっちゃいましたね。もっと阿呆なのにしようと思ってたのですが。
それから、後で気付いたんだけどこの設定って長編用ですよね。
短編で色々書く割に使いにくい設定を用意してしまったなァと内心溜め息です。
なのでもしかしたらこれは固定ヒロインにならないかもしれません。あちゃぁ。
因みに最初の方で一人だけ例外が〜と書きましたが、それは新八ヒロインでございます。