倒錯/1
【短期バイト募集中。一日からOK!時給1000円〜。即金でお支払いいたします】
そんな広告を握り締めて、かぶき町の大通りをは歩く。
今月残り一週間。
だけどもう財布には10000円しか入っていない。
暮らしていけない額ではない。
だけど、心許ないのも事実。
それもこれも自分の彼氏の所為であることは良く良く分かっている。
あの男が厄介ごとを持ち込んでは金が無いと言う度に、献身的に食事の用意をしてやったりしていた所為だ。
元々多くはないの給料であの万事屋3人を賄える筈も無く。
こうやって休みの日まで働かなくてはならなくなった。
来月からもうちょっと考えよう。
それをしっかりと心に決め、は大通りを歩く。
大丈夫、風俗なんて初めてだけどあたしはやれる子だもん。
と、自分に言い聞かせつつ着いた先は下品で派手なピンク色の城。
「・・・2、3日の我慢・・・」
とりあえず城の門をくぐりながらは呪文のように何度も呟いた。
―――だけど。
「ちょっと!話が違います!!」
「だからァ〜、一日10万出すって言ってるじゃん。悪くないだろ?」
「あたしは体売りに来たわけじゃないです!!」
ホテルの受付で面接してもらう予定だと告げたら何を勘違いされたか事務所に引っ張り込まれ、この有様。
清掃員のバイトで来たんだと何度も説明したが、を気に入ったらしい目の前の男は別のバイトを勧めてくる訳だ。
10万は魅力的なお話だけど、生憎には素敵な彼氏がいるわけで。
でもその素敵な彼氏のおかげで今こうやって苦労しているわけだけれど。
「もういいです!失礼します!!」
食い下がってくる男を押しやりながらは事務所を飛び出した。
しかし男も男で負けじと追いかけてきての腕を掴む。
「一回試すだけでもいいからさァ。人手不足なんだよ〜。君みたいに可愛い子ってなかなかいないこっちの事情も判ってくれないかなぁ」
「判りません!もう、離して!!」
ホテルの前で男と押し問答だなんて、知人に見られたら如何しようと思いつつは必死で腕を振り解こうともがいた。
しかしやはり相手は男。
簡単に振り解けやしない。
道行く人達は、好奇の視線は向けても手を差しのべてくれなどはしなかった。
泣きたい気持ちで言い争っていると、見兼ねたらしい通行人の女がコチラへ近づいてくるのが判った。
「おい、嫌がっているだろう。離してやれ」
女はなんとなく様相に似遣わないちょっと低めの声でそう言った。
あれ、綺麗な顔してこの人・・・。
と、がちょっと疑問に思った時、の手を掴んでいた男も同じように思ったのだろう。
「オカマはひっこんでろ!」
などと叫んだ。
するとそのオカマはきっと視線をきつくすると。
「オカマではない!!俺はヅラ子だ!!」
言うなり美人の拳が男にクリーンヒットした。
もろに食らった男は怯み、を掴んでいた手の力も緩む。
その隙に今度はヅラ子が反対側のの手を掴んだ。
「来い!」
「えっ、あっ・・・はい!」
引かれるままにヅラ子と逃避行。
しばらく走った頃、ヅラ子はゆっくりと歩調を落としていった。
「はぁっ・・・はぁ、あ、ありがとうございました・・・」
「・・・大丈夫か」
「はい、おかげ様で」
にっこりとは笑ってヅラ子を見上げた。
見れば見るほど女の様。
だけど背も異様に高いし、きっと化粧を落としたらそれはそれは美男子なんだろうなと思う。
「お礼をさせて頂きたいんですけど・・・生憎今日は持ち合わせが少なくて・・・」
「構わん。そんな物の為に動いたわけではないからな」
何と言う殊勝な言葉!
これが何処ぞの天パだったら「よし、体で払ってくれるのだけ受け付けてやろう!」などと馬鹿な事を言い出すに決まっている。
「じゃあせめてお店を教えていただけませんか?お給料が入ったら遊びに行かせて戴きます」
「・・・む。別にいい」
「そう言わず。このままじゃああたしの気が済みませんから」
「・・・」
食い下がるに押し切られる形でヅラ子は仕方無さそうに歩き出す。
「えーっとヅラ子さん?」
「ヅラ子ではない!桂だ」
さっき自分でヅラ子と名乗っておいていきなり全力否定。
なんか変わった人だなあと笑いながらは桂の後についた。
程なく見えてきた「かまっ娘倶楽部」という看板の掲げられた店の前で、桂は「この店だ」と不本意そうに言う。
看板を見上げ、はやっぱりオカマさんなんだ・・・と納得。
その割りに口調が男のままだと言うことが気になるけれど。
入りたてなのだろうか。
「じゃあ一週間後に、来させて頂きますから」
「ああ・・・」
それでは、と軽くお辞儀をして去ろうとした時。
「テメェ!!!ヅラ!!!!何処で油売ってやがったんだァアアアアア!!!!!」
と、店のドアを蹴り飛ばす勢いで桂にとび蹴りをぶちかましながらオカマが飛び出してきた。
二つに括った銀髪をなびかせながら桂の上に馬乗りになって襟首を掴みガクンガクン揺さぶっている。
「・・・!」
見覚えのある銀髪やら聞き覚えのある声に目を見開いて硬直する。
「・・・パー子。痛いではないか」
「うっせぇ!何で俺ばっかり客の相手してんだよ!!それからパー子って呼ぶな!!」
「・・・じゃあ銀時?」
「オォ、そうだ、そう呼べ・・・って・・・」
桂のものではない、本物の女の声に銀時はぎくりと体を硬直させた。
何やら聞き覚えのある・・・不吉な声。
ゆっっくりと振り向くと、そこには異様なものを見つめるが如き愛しの彼女の目。
「何、やってるの・・・?銀さん・・・」
「げっ、!?」
衝撃の、御対面。
「銀さん、そんなにお金無いの?」
銀時と知り合いだと言うことで、店に上げられた。
ソファに座らされ、両隣には桂と銀時。
西郷が「ツケが利くからゆっくりしてってねぇ」と蛾の如き笑みでを迎え入れてくれたのだ。
とりあえず何もしないのも悪いかなと軽いカクテルなんか注文してみたりして。
居た堪れないのは銀時である。
何が悲しくてこんな女装した姿で好きな女の横に座らなければいけないのか。
「何でこんなとこ来たんだよ」
「だって、元はと言えば銀さんの所為だもん。成り行きよ。話せば長いの。ね、桂さん」
「・・・成り行きだ」
腕を組みながら桂もしれっとしている。
収まりつかないのは銀時一人だけということだ。
しかしも内心桂が話を合わせてくれてほっとしていた。
ホテルの前で男と揉めてたなどと言われては堪らない。
そんなの思惑も知らず、銀時はぶすっとした表情のまま。
「帰れよ」
と、そっけなく言った。
「やぁよ。こんな面白い銀さん滅多に見れないもん。あ、そだ。この後空いてる?」
「空いてなきゃここでこんなことしてるか、馬鹿」
「んじゃあたしとデートしよ」
ね?
にっこりと笑っては言う。
そんなお誘い断れるわけが無い。
「あたし銀さんがあがるまで待ってるから」
「・・・仕方ねぇな・・・」
銀時はやれやれと肩を竦めて見せるが実は結構うきうきだった。
が誘ってきてくれるのは珍しい。
よし、取りあえず終わったらソッコーで着替えて別の店で軽く食事でもした後その辺のホテルに雪崩れ込むか・・・などという計画を一瞬にして立てた銀時。
すっかり静かになった銀時を尻目には運ばれてきたカクテルを舐めるように少しずつ飲んだ。
そのままは店に居座り続け、西郷やらその他オカマと喋っていた。
遠巻きに銀時と桂がそれを眺める。
時間は刻々と過ぎ、銀時と桂がぼんやりとしていると、が何やら西郷に耳打ちしたのが見えた。
「・・・何やってンだ?の奴・・・」
悪戯っ子のような笑みを浮かべると、それに答えるかのように笑って見せる西郷と。
何となく釈然としない物の、話に加わろうとはしなかったけれど。
後で問い詰めてやろうとしっかり心に刻み込むのは忘れない。
今度は西郷がに何やら耳打ちしたのが見えた。
それを聞くや否や、はさっと立ち上がる。
「・・・どーした?」
「ン?ちょっと、お手洗い」
含み笑いで銀時を振り返り、は奥のほうへ歩いていった。
なんだ、さっきのは厠の場所でも聞いてたんだろう。
勝手に銀時はそう決めつけ、が消えていった店の奥を見るともなく見ていた。
しかし。
厠にいった割にはが戻ってこない。
便秘か、あいつ。
そんな失礼な事を考えつつ銀時は落ち着かない。
デートが面倒になって裏口から帰ってしまったのだろうか。
そんな馬鹿なちょっと様子見てこよう。
「・・・パー子、何処へ行く」
「厠だ、厠」
おもむろに腰を上げた銀時を不審そうに見遣った桂。
きっと目の端を吊り上げた。
「貴様、そう言って裏口から逃げるつもりなのだろう」
「違ぇよ。あれだ、アレ。ほら、月に一回あるアレだ」
「男の貴様にソレがある訳なかろう!」
「いやいや、男も月に一回は出さねぇと死んじまうだろ?」
「何の話してンのよ、銀さん」
ぎゃんぎゃん騒いでいると、後ろから呆れたようなの声が。
何だ帰ったわけじゃなかったのか、と銀時はちょっとだけ安心して振り返った。
「・・・ちゃん」
「なぁに?」
「ソレはなんの真似ですか」
「うーん・・・敢えて言うなら銀さんの真似かなぁ・・・」
振り返った先のは、何故かスタッフの部屋にあるはずの銀時の服を着ていた。
流石に大きいらしく襟ぐりは全然合っていなくて大きく開いているし、袖は七分丈になってる。
ズボンの裾も折り返しているし、ベルトも一番きつくしてあるし、着物は袖も裾も長すぎるし。
それでもまあちゃんと着れている方であろう。
長い髪は後ろで一つに括られていた。
見た目には男装している女の子、と言ったところか。
「何のつもりかって聞いてんですけど」
「うん、この格好でデートしようかと思って」
「・・・はァ?」
「じゃあ西郷さん。お酒代は一週間後に必ず払いに来ますから!それからパー子ちゃん借りていきますねっ」
言うが早いかは銀時の手を取り、意気揚々と店を出て行ってしまった。
「・・・どーいうつもりだよ」
暫らく歩いたところで銀時はを見る。
しかし当のはしれっとしたもので。
「どういうつもりもこういうつもりも、見たまんまだけど?」
「・・・」
銀時の格好をしたと女装した銀時。
時折銀時を知っているらしい人の視線を感じる。
そんな目も気にせず颯爽と歩くに対して、銀時はどうも落ち着かなくて。
「服返せよ」
「まだダメ。今日はパー子ちゃんとデートするって決めたの」
なんだそりゃ。
不満たらたらではあるが仕方がない。
今此処での服を剥ぎ取るわけにもいかないのだから。
どうしてくれようと視線を逸らした銀時の目に飛び込んできた一つの看板。
「・・・!」
そうだ、この手があった。
「ちゃん。デートよりさ、あそこでイイコトしませんか?」
つい、と指差す先は一軒の・・・いや数軒のラブホテル。
一体どれを指しているのか判らないくらいの密集地だった。
「なぁに、パー子ちゃん。疲れちゃったの?」
「そう、パー子疲れちゃったのォ」
くねっとしなを作って見せる銀時にの頬が緩む。
「そ。仕方ないなァ、何処がいいの?」
「え、マジですかちゃん」
ダメ元だったのだが、拍子抜けするほど簡単にが了承した。
「うん、だって疲れちゃったんでしょ?女の子が無理しちゃダメだよ」
倒錯的なの物言いは気になるが此処でみすみすチャンスを逃す銀時ではない。
「んじゃあの一番近いところな!ほら行くぞ!!」
ホテルなら色んな大義名分でを脱がせることが出来るし、二人とも脱いでしまえばこっちのものだ。
後は好きなだけを抱いて服も取り戻せばいい。
実はさっきからの大きく開いた襟ぐりが気になって仕方なかったのだ。
いつも銀時が着ているように服を着ている所為で、胸元が大きく開く形になっている。
身長差があるので結果その胸元を見下ろすことになる銀時は、早くを食べたい衝動に駆られていたわけである。
適当にチェックインして、ホテルの部屋に雪崩れ込んだ。
シナリオ通りだとほくそ笑む。
「、シャワー浴びるか」
「ううん、あたしももう待てない」
滅多に聞けない言葉に銀時は更に口許を綻ばせた。
しかし、いきなりが銀時をベッドの方へとかなりきつく突き飛ばしたのである。
思っても見なかった不意打ちに銀時はベッドへと仰向けに倒れこんだ。
そんな銀時の上にがのってくる。
いっそ気持ち良いくらいの意地悪そうな笑みを浮かべて。
「ちゃん・・・?」
何だか嫌な予感がする。
「なぁに?パー子ちゃん初めてなの?大丈夫、あたしは男の人と違って痛いことなんか何にもしないから」
「いや、あの・・・ちゃん?」
「怖がらないでね。可愛がってあげるから」
にーっこりと笑って、馬乗りになったまま銀時の唇に己のそれを軽く押し付けて。
「あたしのことしか考えられなくしてあげるね」
「ちょ、待て、逆・・・!」
銀時の訴えも空しく、は銀時に覆いかぶさりもう一度深く唇を交わすのだった。
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パー子ちゃんでした。
大好きです、パー子ちゃん。女装萌え。
アニメで放映されるのが楽しみで仕方ないんですけど!
あの声で女装とか・・・放映された日、うちは生きて朝日を拝めるのか心配です。本気で。
放映されるよね?されるよね?
されなかったら泣いちゃうぞ。訴えて勝つぞ(漫画が違います)
因みに続きます。
裏になる予定なんだけど・・・何時になるかはまだ未定・・・すみません・・・。