私の家は近所でも有名なモンスターハウスだった。






モンスターハウス






朝っぱらからガタガタ部屋がうるさい。
壁は鳴るわ、窓は震えるわ、本は落ちるわ。
もっと寝ていたかったのに不本意ながらそれで起こされてしまった。
「・・・ちょっと・・・静かにしてよ」
やおら体を起こして私は音のなる壁の方を見た。
そしたら真っ黒な服の男がにやにや笑いながら顔を出してくる。
するりと壁を通り抜けるこの男――
私がこの屋敷に引っ越して来る前からこの屋敷を勝手にねぐらにしていたポケモンだった。
「ンだよ、俺様の家だぜ。何しようと勝手だろ」
「・・・同時に私の家よ。勝手にモンスターボールから出ないでよね・・・」
「るせぇ。呪うぞ、コラ」
乱暴な物言いにはぁっと溜め息を吐く。
全くこいつは口ばっかり。
私が屋敷に来たときもそうだった。
口では何のかんのと言いながら、いざ戦ってみるとてんで弱くって。
一応私もトレーナーの端くれだからと捕まえてみた・・・までは良かったんだけど・・・。
自分勝手で我が儘で本当に私に懐かないし、弱いから戦いにも出せないし。
本来ならパソコン送りにしてやるところなんだけど此処の屋敷に如何しても住みたいっていうから仕方なく連れてる。
それに最近はこいつのおかげで新しい仕事も出来るようになったわけだし・・・まあイーブンって所かなァ。
「なァ、。腹減った」
「・・・はいはい、分かったわよ」
きっとその所為で私は起こされたんだろうなと思う。
ホント我が儘で自分勝手なんだから・・・!
ぱっぱとポケモン用の食事を作り他の子たちもボールから出してやった。
広いテーブルに皆はお行儀良く座っていたが、だけはいつも食事を何処かへ持っていってしまう。
どうも定番の食事場所があるんだとか。
一度興味で聞いてみたが、べろっと舌を出して教えてはくれなかった。




その日の夕方。
私は以外の子達を中庭に放して遊ばせていた。
は何処かに行っちゃったらしくて姿が見えない。
まあいつものことなんだけど。
それにしてもこの屋敷は本当に広い。
都会から遠いしモンスターハウスだってことで家賃がすごく安くて。
でも都会から遠いのはともかくモンスターの正体が分かってるから怖くもないし、なんか得した気分。
誰もの調査しなかったのかな。
あんな弱い子じゃ見つかったらすぐに撃退されて終わると思うんだけど。

――ピンポーン

遊ばせていたら不意にチャイムが鳴った。
これ、時々が悪戯するのよね。
でも行かないわけにはいかないし?
仕方ない。
おもむろに立ち上がり、遊んでいるポケモン達が勝手に外に出てしまわないように窓に鍵をかける。
一度これを忘れたことがあって後で勝手に外に行った子を探すのにとても苦労した覚えがあった。
結局道に迷って泣いてるところを保護されて戻ってきたけど・・・。
だからしっかりと鍵をかけて玄関へ向かった。
とたとたと廊下を歩いていると、また天井がいきなりうるさくなる。
誰かが二階でどたどた暴れているような音。
100%、だ。
「・・・!うるさくしないの!!」
全く。
幾ら躾けても私の言うことなんか聞きやしないんだから。
まあこういう子を躾けて強くするのがトレーナーやってる私の仕事でもあるわけだけど。
!!」
どたどた音があんまり収まらないからもう一度怒鳴ってみた。
すると音が移動して隣の部屋がうるさくなる。
とりあえず注意だけして置こうとその部屋のドアを開けた。
その時。
「きゃぁっ・・・!!」
どんっと誰かに突き飛ばされて私は部屋の中に倒れ込んでしまった。
「ちょっと!悪戯にしてはやり過ぎよ!!!」
慌てて立ち上がりながら部屋の中を睨んだ。
何処かの壁に犯人は隠れていることがわかっている。
「後で言い訳聞いてあげるからちょっと待ってなさい!!!」
インターフォンを鳴らしてくれた人を随分待たせているのでとりあえずそれだけ言って部屋を出ようとした。
「・・・ん?」
だけどドアノブが回らない。
鍵なんかこの部屋には無いのに、ドアノブが回らないなんて。
!もう悪戯はやめなさい!!!お客様を待たせてるの!!!怒るわよ!」
既に怒っている声で私は叫んだ。
しかしドアはやっぱりびくともしない。
私は少し不安になってきた。
でしょ?ねぇ、開けて頂戴!!!」
どんどんとドアを叩いて声を上げるが一向には現れないしドアは開かないし。
そうしていると不意に私の肩を叩くものがあった。
「!?」
ぽんと置かれた冷たい手。
かと思って振り向いた。
「・・・だ・・・誰」
でもそこに立ってるのはじゃなかった。
ざらりと無造作に伸ばされた髪がばさばさで薄汚い格好をした、見知らぬ男。
にやにやといやらしい笑みを浮かべて立っている。
声は発さない。
誰なんだ、この男は。
そればかりが私の頭を駆け巡っている。
そんな時。
「っ!!!!」
ずるっと壁をすり抜けて私の前にが現れた。
そして私の壁になるように立ちはだかる。
「・・・・・・あんた今まで何処に・・・」
「居眠りしちまってたんだよ!それより、お前他の奴等は・・・!?」
「え、中庭で遊んでるけど・・・。あの男誰なの・・・?知り合い・・・?」
私の質問に苦々しい表情を返してくる
のそんな表情を私は初めて見た。
「チッ・・・が一人になったトコ狙いやがって・・・。テメェ相変わらずだな」
にたりと男が気味悪く笑う。
どろんとした目をに向けながら。
・・・誰なの、教えて・・・」
「・・・・・・・・」
言いにくそうには私から目を逸らす。
そして小さく呟いた。
「・・・俺の、前の飼い主だ」
「・・・!」
あの男が。
浮浪者のような薄気味悪いあの男がそうだったのか。
「え・・・でもなんで前の飼い主がこんなところに・・・いる、の・・・」
そこで私はようやく気付いた。
「・・・、もしかしてこの屋敷のモンスターってあんたじゃなくて・・・・・・・・」
は苦い表情のまま私の言葉を肯定も否定もしない。
「くっくっく・・・」
男が喉で笑い出す。
しわがれた汚い声だと思った。
「鈍い女だなァ・・・。、おめぇもこんな女に入れ込んでんじゃねぇよ」
「俺の勝手だろ。もうテメェの飼い犬なんかじゃねえ。指図は受けねえ」
相変わらず私の前に壁のように立ちはだかって男を睨み付ける。
対する男は心底面白そうな表情を浮かべているのが気持ち悪い。
にたにたといやらしい笑みを張り付かせている。
私は無意識にの服をきつく掴んでいた。
「死んでからも俺に付きまとうんじゃねぇよ。このクソ野郎・・・っ」
「クク・・・何だよつれねぇなァ。そんなにそこの女が好きか?」
ぴくりとの体に緊張が走る。
好きって・・・が私を?
あんなに言うことも聞かないし、全然懐いてないこの子が私を?
それともあれが懐いてる方だと言うのだろうか。
「ククク、おめぇが過ごしてる夜をその女に教えてやるかァ?俺ァ知ってンだぜ、おめぇがどんな風にその女を好きかをよォ」
「っ・・・」
がびくりとする。
多少怯えているような様子で。
「・・・
そっと声を掛けたら弾かれたように私を見た。
怯えたような怖がっているような目で。
恐らくは、あの男といる間に何かされ続けたんだろう。
内容は・・・想像に難くは無い。
「あの亡霊がこの家をモンスターハウスにしていたのね?」
「・・・ああ」
「今朝のあれも、じゃなくて本当はあの男?」
「・・・」
答えはなかった。
だけど困ったような表情がそれを真実だといってやまない。
「無言は肯定と取るわよ。全部あの男の所為だったのね」
が私を困らせていたわけではなくて。
きっと私があの亡霊に気付かないようにしてくれていたのだと。
「・・・ありがとう。
ぎゅうっと服の裾を掴みの背に額を押し付けた。
・・・」
「仲良く内緒話かァ〜?ククク、いいねぇそのままあれやこれやヤって見せてくれたらもっといいねぇぇぇ・・・」
下卑た笑いで私とに放たれる呪詛の声。
不快感に私は顔を顰める。
「クク、そうだ。ヤっちまえよ。んで昔みたいに俺を楽しませろよ。へっへっへ・・・毎晩毎晩励んでた頃のおめぇが懐かし」
―――ゴヅンッ!!!
言葉が終わる前にが男に殴りかかった。
シャドーパンチだ。
絶対に避けられない攻撃に派手な音を立てて男が床に叩きつけられる。
「テメェ黙れ!!!!!」
赤くなった拳をきつく握り締めては声を上げた。
「好きな女にばらされて怒ってンのかァ?純情になっちまったなぁ。昔は女を穴か便器にしか思ってなかったようなお前が」
「黙れ!!!!!」
そのままは男を殴り続けた。
だけど、にやにやとした気味の悪い笑みは男の顔から離れはしなかった。
私はただただそれを眺めているだけで。
どうせ亡霊であるこの男がまた死ぬことは無いのだし・・・。


結局その後わざわざ霊媒師を呼ぶことになった。
アブソルを連れた綺麗な女の霊媒師で、手早く男を消してくれた。
今度こそ本当にこの屋敷はモンスターハウスではなくなったのだ。
だけど、問題が全て解決したわけではなくて。





は放心状態で屋根の上にいた。
男を消された後いきなりいなくなるから焦ったものだ。
まだ何も聞いていない。
私はまだのトレーナーになれてはいない。
そうたった今から始まるのだと言うのに。
ショックを受けて私から離れていってしまったのかと心底焦った。
だから屋根の上にいるのを見つけたときはもう腰が抜けるかと思うほどほっとして。
・・・探したわよ」
なんとか必死で屋根の上にあがりに話しかけた。
答えは無い。
ぼんやりと空を見つめているだけ。
「隣座っていい?」
やっぱり答えは無いので私は勝手に隣に座った。
しばらくを見習って同じように空を見上げてみる。
曇っていてあんまり星が見えない。
此処は都会から離れているだけに天気がよければもっと星が見えただろうなぁとかそんなことを考えていた。
ややの後。
「・・・・・・・・・何も、聞かねーの・・・?」
「聞かないよー。聞いて欲しかったらちゃんと聞くけど。無理矢理聞きたくないし」
「・・・だから、だ」
「・・・え?」
ぼそりと小さく呟かれた言葉。
あんまり聞き取れなくて聞き返したら、が私の方を見た。
殆ど見たことが無いような真剣な目。
いつも意地悪く笑っていることが多かったからちょっと驚いた。
が・・・そんなんだから・・・っ」
「え、私?」
そんなんってどんなのだろうって思った瞬間、の腕が私の体に回された。
あ、抱きしめられてる。
それを自覚するのに少し時間が掛かってしまった。。
息が詰まりそうなほど強く抱かれて少し頬が熱くなる。
「お前が俺に優しくしてくれたから!!見捨てなかったから・・・!!」
絞り出すような、声。
「だっては私のポケモンだもん。見捨てるわけ、ないデショ」
見捨てるくらいなら最初から捕まえたりしない。
弱くても我が儘でも言うこと聞かなくても懐かなくても。
私のポケモンなんだから。
「・・・だから・・・俺、をあいつから守りたくて・・・」
「・・・ありがと」
じんわりと気分があったかくなって私もをきゅっと抱き返した。
するとぴくりとの体が反応したのが分かる。
「・・・
「ん?」
「今更だけど・・・好きなんだ、が。愛してるんだ」
「・・・」
あの男の言葉があったから「今更だ」と言ったのだろう。
抱き合っているのでどくんどくんとの心音が伝わる。
そして私のも伝わっているのだろう。
「・・・あの時。あの男のポルターガイストを自分の所為にしてまで私に知らさないようにしてくれたっての知ったあの時さ」
「なんか関係あんのか?」
の困ったような言葉に私はぱっと体を離して。
にっこりと笑って見せた。
「惚れたわ。ずっと守られてたって知って、すごく嬉しかった・・・。気付いてあげれなかった自分に腹も立ったけど」
そっとの頬に手を当てた。
そして素早くの唇に自分のそれを押し当てる。
「・・・!」
ぷわっと柔らかい感触が重なって、すぐに離れた。
ちらっとを見ると驚いたように目を見開いている。
「私も、好きだよ」
笑って言ったら。
またの手が私の体をきつく抱きしめた。
「マジで?マジで?嘘じゃねぇよな!?」
「マジだよ。嘘でキスなんかしないよ」
ぎゅうぎゅう抱きしめられてちょっと照れる。
でも嬉しいからいっか。
そしたらが私を抱き上げていきなり屋根を飛び降りた。
「きゃぁぁっ!!!」
あまりに突然のことで思わずに思い切り抱きついて声を上げてしまった。
都会じゃなくて本当に良かった・・・。
「嬉しいぜ!最高だ!!」
大袈裟なくらい喜んでいるに私も嬉しくて抱きついた腕に力を込めた。
・・・だけど。
がゆっくり私の方を見たとき、その顔がいつもみたいな意地悪い笑みをたたえていることに気付いて。
「え、っと・・・・・・?」
少し怖くなった私は抱きついていた腕を離して。
「・・・下ろして?」
「はぁ?やだね!」
「え」
にやりと笑いは私を抱き上げたまま屋敷に入る。
「やっと想いが叶ったんだ!!今晩は女に生まれたことを最高に感謝できるような夜にしてやるからな!!!」
「え」
「すぐに俺の子孕ませてやるぜ。もう俺以外に何もされねーようにな!」
「ちょ、ちょっと待って!!!」
いきなり話が飛躍しすぎだよ!!!!
だけどの力は振りほどけないほど強くて。
そのままは私を抱き上げたまま、私の寝室に入っていった。
乱暴に閉められたドアの音が大きく響く。
ベッドに放り投げられて私は戦きながらも覆いかぶさってくるモンスターの体重を心地よく感じていた。














==========
と、言うわけで。
葉檜様よりリクエストされましたゲンガー夢です。・・・夢って言えるかわかんないですが・・・。すいません。
ちょっとラブラブ要素少なかったです・・・ね・・・(土下座)
長くなりすぎてエロ入れれなかった・・・畜生。






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