目も眩む死





ある日のこと。
デスマスクはサガから呼び出された。
わざわざ巨蟹宮に出向いてきて、わざわざ教皇の間まで来るようにいったサガ。

『なんだよ、ここで言えばいいだろ?』

『・・・そういう訳にもいかん事情があってな・・・。とにかく今日の午後教皇の間まで来てくれ』

サガは歯切れ悪く、本当にそれだけ言ってさっさと引き上げてしまった。
その行動を訝しんでみたデスマスク。
一瞬ばっくれてやろうかとも思った。
しかしさっきのサガの真面目な面持ちを思うとばっくれてしまった後が心配だ。
良くてスニオン岬、悪くて異次元。
いや、悪ければ異次元に送られる前にギャラクシアンエクスプロージョンも食らわされるに決まっている。
いつもの兄弟喧嘩を見ていれば分かることだ。
デスマスクは面倒だとは思ったがその言葉に従うのが一番良いだろうと言う結論を出した。




巨蟹宮から長い階段をのぼってようやく教皇の間。
少し時間は遅れたがこれくらいは予想の範囲内の筈だ。
なんせここまで来るのにカノンを初めとする全宮の住人に「どうかしたのか」「何かあったのか」と聞かれ続け「俺もしらねぇよ」という返事を返し続けていたのだ。
しかも磨羯宮と双魚宮では今生の別れのような顔をされ、双魚宮に至っては「もう会えないかもしれないからローズティーを最期に一緒に飲もう」と誘われた。
軽くたたんでやろうと思ったがそんな時間は無いので無視して通ったのであるが。
とにかくここまではデスマスクにもサガにも予想の範囲内であった。
しかしその後――。
教皇の間に入ったデスマスクを待っていたのは予想外の出来事だったのである。
巨大なドアを開けてデスマスクは教皇の間に入っていき・・・。
「おぅ、来たぜ。ちゃっちゃと済まそうや」
奥にいるサガにそう声を掛けた。
するとサガはまた少し曇った表情で「あぁ、来たのか・・・」と呟く。
呼んでおいてなんだその言い草は。
そう思ったデスマスクが不機嫌そうに眉を寄せたときだった。
「サガ様!いらっしゃった!?」
ぱたぱたと奥の部屋から飛び出してきた女がいた。
真っ黒な長い髪のこれまた真っ黒なワンピースを来た女。
日本語を喋っているから日本人だろう。
「あ・・・ああ、おいで。
「はい」
笑みを浮かべサガに駆け寄ってくる少女――
「なんだ、そのガキは」
そう毒づくデスマスクは何だか嫌な予感がして早く巨蟹宮に帰りたかった。
「・・・デスマスクこの子は。日本人で、一応18歳だ」
「えへ、高校卒業してます!見えませんか?」
正直見えない。
てっきり中学生くらいかと思ってしまった。
「で?その日本人のガキがどうした」
「・・・単刀直入に言おう。お前の弟子だ」
「直入すぎだ!理由ぐらい説明しろよ!!」
『もうこの言葉だけで満足だろう早く帰れ』オーラを放っているサガを睨みつけデスマスクは声を上げた。
しかしサガに代わり少女がずいっと前にでる。
「あの、あたし実は霊感が強くて強くて強すぎちゃって・・・生身の人間の魂すら抜き出したり出来ちゃうんです。そこをグラード財団の方に見込まれて・・・」
の言葉にデスマスクはぎくりと体を強張らせた。
成る程、闇雲にデスマスクに押し付けているわけではなかったのか。
しかし。
「おいサガ。犬や猫じゃねぇんだから闇雲に拾ってくんなって言っとけ!!この前もアルデバランのトコにガキが来てただろ。もうこれ以上増やすな」
そしてちっと舌打ちした後。
「来い、ガキ。言っとくが俺は優しくねぇぜ」
です、先生」
「先生だァ?気色悪ィ呼び方すんな。デスマスク様だ!様を忘れんなよ!!」
「は、はい!デスマスク様!!」
この会話に不安を覚えつつもサガはの手を引くデスマスクを見送った。
何かあったらどうせ自分の責任になるのだろうなとちょっと胃の痛い思いで。


しかし。
サガの心配を余所に、なかなかどうして二人は気が合ったようで。


――3ヵ月後。



巨蟹宮には夜遊びをばっちりやめたデスマスクがいた。
「デスマスク様、練習台になってください!!」
「いいぜぇ、今晩一発やらせるなら練習台になってやらぁ」
そんな軽口から唐突に始まる修行タイム。
遊びに来ていたカノンはに出してもらった茶を景気良く噴いた。
「あぁ〜っ、どうしたんですかカノン様・・・!タオルタオル・・・!!」
慌てて洗面所まで走っていくを見送ってカノンはデスマスクを憐れっぽい目で見た。
「・・・いつからロリコンになった」
「なってねぇよ。でもあいつああ見えて結構可愛いんだぜ。飯も美味いし、気が利くしな!!部屋の片付けもしなくてよくなったしかえってラッキーって感じだ!」
「家政婦扱いか。最低だなお前」
憐れな目から乾いた笑みへと移行したカノン。
しかしデスマスクはそんなこと全く気にしていない。
ぱたぱたとタオルを持って帰ってきた
「熱くなかったですか?」
と、献身的にカノンの服や頬などを拭いてやっている。
成る程、これは少し良いかもしれないと思った瞬間だった。
カノンのそんな思惑が分かったのだろうか、デスマスクは少し不機嫌な表情になる。
そして。
「おい、。そこの色男が練習台になってくれるってよ。思い切り吹っ飛ばしてやれ!」
「え?いいんですか?」
カノンを見上げていたの表情がぱあっと明るくなる。
そしてタオルをぱっと床に放り投げると、さっとファイティングポーズをとった。
「へっ?」
突然の展開に訳が分からない。
しかしは既に臨戦態勢で爆発的に小宇宙を高めていた。

『積尸気冥界波ぁぁぁっ!!!!!』

が技を発動した瞬間、ゴォォォォっと物凄い音がしたかと思うと。
その場にいたデスマスクとカノンが・・・の目の前でどさりと倒れた。
「・・・あ、あれれ?」
その場に取り残されたのは
カノンだけが積尸気まで送られるはずなのに。
「あれ・・・?デスマスク様?カノン様?」
えーっと・・・。
成す術もなくぼんやり突っ立っていると急にデスマスクがむくりと起き上がった。
「阿呆か!なんで俺まで積尸気に飛んでンだよ!!!」
「あぁ〜んっ、ごめんなさいぃぃ・・・っ」
「くっそ、俺に技かけたから今晩は一発やるまで寝かねェぞ」
どういう理屈だ、とここにカノンが居たら突っ込んだだろう。
しかし何故かカノンが起き上がってこない。
はデスマスクに向き直って、その体に抱きついた。
「じゃあ、あたし・・・毎日デスマスク様に技かけちゃいますよ。いいですか?」
「クック。かけれるもんならかけて見やがれ。まあ俺はお前みたいな半人前の技は簡単には受けねェぜ?」
そう言いながらもデスマスクは3回に1回くらいはわざと受けてやるのも悪くないかもしれないと思っていた。
きっとその技で垣間見る死の世界は目も眩むようなものなのだろう。
ふっと笑って抱きついてきたの腰に腕を回す。
そして体を屈めて軽くの唇に自分の唇を押し付けた。
「んっ・・・!」
ちゅ、と小さな音を立てて軽く唇を吸われ、は頬を赤く染める。
啄ばむ様に何度も何度もキスを繰り返され恥ずかしそうには身じろぎする。
「ん、や・・・っ、もう・・・カノン様が起きてきたらどうするんですかー!」
「お前から抱きついてきたんだろーが。それになあいつはまだ起きねェよ。なんせギリギリまで追い込んで来たからな」
「?」
にやりと笑って、を抱き上げまたキスをするデスマスク。
しかしその後何分経っても戻ってこないカノンを心配したがデスマスクの目を盗んでこっそりと積尸気に行ってみたところ、黄泉比良坂から這い上がってきたカノンを発見。
「あの蟹野郎・・・っ!いつか殺す・・・っ!!!」
どうやらデスマスクに落とされかけたらしい。
の助けも借りてようやく現世に戻ってきたときには既に夕刻。
早く帰らないとサガが心配する、とおおよそ28歳らしくない事を呟き。
「・・・おいデスマスク、覚えていろよ・・・。この借りは必ず返してやるからな・・・っ」
と、捨て台詞だけ残してカノンは双児宮へ帰っていった。
は巨蟹宮の出口までカノンを見送り、そろそろ夕ご飯の支度をせねばと振り返ったとき。
がしっとデスマスクに抱きしめられた。
「やっと二人っきりだぜ」
「デスマスク様」
まだ双児宮へ向かうカノンの姿もなくなっていない。
振り向かれたら見られてしまうだろう。
、今日の晩飯は」
「久しぶりにパスタなんてどうですか?」
「悪くねェな。パスタなら俺も手伝ってやらぁ」
そう言うとの手を引きキッチンの方へ歩き出す。
そして半歩後ろを歩いているを見てにたりと笑った。
「んで、デザートはお前だ」
「・・・もう・・・デスマスク様・・・っ」
ぽわっと頬を赤く染めて二人は仲良くキッチンに消えた。










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投稿した奴なのでぬるめ+短め。
これもある意味カノン夢ではなかろうかとビクビクしてます。
それからデスマスクが言っていた「アルデバランのトコに来たガキ」はアルデバランヒロインとは何ら関係ありません(苦笑)