新しい仲間
「もーっあんたたちは!!どうしてそんなに仲が悪いの!!!!!」
溜め息を吐きながらポケモンセンターに向かう少女の姿があった。
彼女の名前は。
既にトレーナーとして各地を放浪するようになって2年ほど経つ。
最初の頃は右も左も分からなくて困ったり、色んなトレーナーにぐぅの音も出ないほどやられたりしたこともあったけど。
今では少し腕に覚えもある立派なトレーナー!!
・・・の筈だったのに・・・。
「なんでそんなに喧嘩するのよ・・・」
モンスターボールと、後ろを付いて来るリザードンのヒカゲとを交互に見比べる。
そのモンスターボールに入っているのは戦闘不能になったサメハダーのシュラ。
何故戦闘不能になったのかと言えばヒカゲと大喧嘩をやらかしたからだが・・・。
少しばつの悪そうな顔をして、燃えるようなオレンジの翼を力なく引きずるようにしながら。
「悪かったって言ってンだろ・・・そんなに溜め息とか吐くなよな」
「・・・あのねぇ悪かったと思うならもう喧嘩しないで。今日センター行くの何回目だと思ってるの」
恨めしそうにモンスターボールを見て、また溜め息。
「なぁ、そいつパソコンに預けてさ、また二人で旅しようぜぇ〜」
「ダメ!ヒカゲも分かんない子だねー、次のジムは2匹いないとダメなんだって何回言えば分かるの!!」
次のジムはリーダーが双子で有名なトクサネジム。
情報によればリーダーはエスパータイプを使うとのこと。
エスパーだけなら別段ヒカゲを連れて行くのになんの問題もないと思っていたし、ヒカゲごねればもう一匹ででも乗り込んでみるつもりだったのだ。
しかしリーダーがソルロックとルナトーンを使うと聞き、これはヒカゲではダメだということには気付く。
岩タイプが相手じゃ飛行と炎のヒカゲが十分に力を発揮できないじゃないか。
と、言うことでキバニアを捕まえてきてサメハダーになるまでに育てたというのに。
水タイプで悪タイプだから完璧だと思ったに・・・!
実はこの手のヒカゲの我が儘は今に始まったことではない。
たった一匹で色んなポケモン達を相手にするのは辛いだろうと、何度か仲間を捕まえたりしたのだがその度にヒカゲが機嫌を悪くして言うことを聞かなくなる。
挙句の果てには仲間を苛めたり、無理矢理野生に返そうとまでするので仕方なくパソコンに預けられている子達が沢山いるのだ。
は別に育てたポケモンの数や、持っているポケモンの数がイコール実力だとは思っていないのでその点は気にならない。
が、やはり可愛い我が子が負けるのを見たくないわけであって・・・。
負けると決まったわけではないが流石に2対1でしかも岩タイプを相手にはきついだろうと。
そういう親心のつもりだったのだけれど・・・。
「ぁぁ〜・・・俺一匹でも大丈夫だって!」
溜め息を繰り返すにヒカゲが縋り、ぎゅうっと抱きつく。
ヒトカゲだった頃から何かを頼む時はいつもコレだ。
小さいうちは可愛かったが流石に今されるとちょっと恥ずかしい。
何処までも甘ったれに育ててしまったのは自分なのだが。
初めて育てたモンスターだから仕方ないか・・・なんて言い訳してもヒカゲの我が儘がなおるわけでもなく。
とりあえず戦闘不能になったシュラをそのままにしておくわけにもいかないので、ポケモンセンターへ急ぐのだった。
「はい、じゃあお預かりいたしますね。5分くらいで終わりますので」
シュラの入ったモンスターボールを預け、はセンター内のベンチに腰をかける。
そしてヒカゲはその隣に。
「ど〜〜〜〜っっしてもダメか?」
「・・・う、ん・・・だって・・・次のジムリーダー・・・岩タイプのエスパーポケモン使うって聞いて・・・」
「は?」
「ヒカゲ、炎タイプの上に飛行タイプでしょ?・・・あんたの力が十分に発揮できないと思ったから・・・2対1になっちゃうし」
が少し俯きがちに呟く。
確かにヒカゲが一匹で勝ち続けたいと言うのを全うしてやりたいと思わないわけじゃない。
ヒカゲには実力があるし、おそらくその意志さえ見せれば一匹しかモンスターを持っていなくとも相手くらいはしてくれるはずだ。
「なんだ!それくらい俺だけで十分だって!!!なぁ、今すぐそのジムに行こうぜ!!あんな野郎居なくたって平気だからよ!」
「ええっ!?」
ヒカゲはの腕を掴み、強引に立たせると引きずるようにしてポケモンセンターのエントランスへ向かう。
一応抵抗は試みてみるがやはりリザードンになったヒカゲに敵うはずも無く・・・。
「ちょっ、ちょっとヒカゲったら!!せめてシュラの治療が終わるまで待って・・・」
「だって待ってたらあいつと組ませようとするだろー!俺は一匹で十分だ!!!」
「そんな無謀な・・・」
あわあわとはヒカゲを宥めようとするが全く効果は無い。
はぁっと溜め息を吐き観念しかけた、その時だ。
―――バシャっ!!!
何処からとも無くとヒカゲに水がぶつけられた。
驚いて振り返ると、ニヤニヤと意地の悪い笑みを顔に貼り付けたシュラが立っている。
「何処行くんだよ。俺様を放ってよぅ」
「シュラ・・・」
が名を呼ぶと、あちこちに傷のついた顔が笑う。
サメハダーは獰猛な種で仲間割れをしては手加減なしにやり合うのだそうで。
ゲットしたのはキバニアのときだったが何時の間にやらシュラの顔や体にはあちこちに傷が浮いている。
手当てをさせないものだから残ってしまったのだろう。
「おいトカゲ。別にお前がくたばりに行くのは勝手だけどよぉ・・・俺様のトレーナーを巻き込むなよなぁ」
「何だと・・・っ」
「は行きたくねぇってよ。弱ェお前となんかな」
ニヤニヤ笑いながらシュラはヒカゲにまた水をかけた。
それを見てはどきりとする。
思わず目線でヒカゲの尻尾を確認してしまった。
あの炎が消えればヒカゲは本当に死んでしまう。
「あ、危ないだろ!!!」
「はっ、さっき戦闘不能にされた礼だ」
ぽたぽたと水を滴らせながらヒカゲはシュラを睨む。
それに対しシュラはへらへらと笑ってばかりだ。
今にもヒカゲが火炎放射を吐いてしまいそうな勢いなのでは慌ててモンスターボールを一つ取り出す。
「ヒカゲ!ちょっとあんたは戻ってなさい!!」
「えっ!?な、なんで俺が・・・っ」
ぱしゅっと小さな音を立ててヒカゲはモンスターボールに吸い込まれた。
本当は平等に2匹ともモンスターボールに入れるつもりだったのだが、シュラのモンスターボールは先程センターの係員に預けていたので。
「・・・はぁ・・・もうなんであんたたちは仲良く出来ないの?」
「性格の不一致だろーなぁ。ところでよぅ」
シュラはゆっくりに近づきそっと耳打ちする。
ぼそぼそと小さい声で囁かれる言葉は聞き取りにくかったが意志ははっきりと伝わった。
「・・・えっ?そりゃ、シュラが望むならいいけど・・・」
困惑の表情では小さく頷いた。
「ケケケ。じゃあそういうことでよろしくな。俺様のボール取りに行こうぜぇ」
くるりとシュラが踵を返してセンターの奥のほうへ歩き出す。
それに慌ててついて行くが、はやはりまだ動揺した風で。
しかしそれ以上シュラに真意を追求することも出来なくて、はただただついて行くばかりだった。
そのままシュラもモンスターボールの中に入れて、は一人自分の泊まっているホテルに向かう。
「・・・失敗したわ」
ヒカゲとシュラが飛び出していった窓を眺めては呆然とするしかなった。
晩御飯だからとモンスターボールから出したのがいけなかった。
さっきのお返しとばかりに、出てきた瞬間シュラに火の粉を投げつけるヒカゲ。
まあそれでもシュラが最小規模の波乗りで受け止めたので大事には至らなかったが・・・。
だけどそれでますます怒ったヒカゲがシュラの手を掴み文字通り外へ飛び出していってしまった。
仕方ない。
思慮も無く2匹を出した自分の責任だ。
ヒカゲが癇癪を起こして何処かに放火しないことを祈りつつは外に向かった。
「お前・・・温室育ちだなぁ」
連れ去られながらシュラはぼんやりと言った。
「はぁ!?お前さっきから俺のこと馬鹿にしやが・・・・・!?」
「正々堂々とか言ってるとこういう目に遭うぜ?」
シュラの手が冷やりとヒカゲの尻尾を握っていた。
「お・・・お前、まさか・・」
「だから温室育ちだって言うんだよ、トカゲの坊や」
シュラはすっと目を細める。
どこまでも楽観的で、甘くて。
戦いは全部正々堂々と行われるものだと信じて止まない、坊や。
シュラはにやりと笑うと少し下を見る。
「ま、これくらいの高度ならお前が死んで落ちたとしても俺様は死なねェけどな。あー安心していいぜ。なら俺様がちゃぁんと一流のトレーナーにしてやるさ」
「っ・・・!?」
「じゃぁなぁ。短い付き合いだったなぁ、トカゲの坊や」
血の気の引いた表情でヒカゲはシュラを見下ろした。
にやりと笑う冷たい視線にぶつかった時には。
じゅうっと水が炎に触れる音。
そこでヒカゲの意識は真っ暗に途切れた。
「ヒカゲー!?シュラー!?何処に居るのぉー!!!」
とことこ走りながら2匹の名前を呼びながら辺りを見回す。
ヒカゲの体力と翼ならだいぶ遠くに行くことだって容易なのだ。
もしかしたらもう近くにはいなくなってるかもしれないなと、絶望的な気分になる。
自分がもうちょっとしっかりしていれば・・・。
己の迂闊さに泣きそうになりながらもは走る。
「ヒカゲーっ!!!」
思い切り名前を叫ぶ。
夜だからって知るものか。
そしたら。
「―――お、じゃねぇかぁ。お迎えか?」
「シュラ・・・!!!ヒカゲは?ヒカゲはどうしたの?」
「んー?あっちで気絶してらぁ。それよりよぅ、さっき俺様が言ったことやっぱ今してくれ」
「え・・・」
僅かに、シュラは自嘲気味に笑みながら言った。
真顔で凍りつく。
「・・・そんなに、ヒカゲが嫌い?」
「ははっ、・・・まあ、そんなとこだなぁ。俺様にゃあの坊やを理解してやれねェし?、お前のやり方も好かねぇ。だからあんな甘いガキができる」
初めて真摯にを見据え、言い放った。
きつい言葉に声が出ない。
モンスターから拒絶されれば、そこに信頼関係なんか成り立てられるはずもないことも知っている。
どうしたって一緒には過ごせないということだろう。
「・・・じゃあ、今すぐに・・・野生に返してあげるよ」
「悪ィな。どうもお前の傍は居心地が悪ィ。温い生き方は俺様の性分じゃねぇんだ」
傷つくたびに手当てしようとしてくれて。
腹が減れば飯を与えてくれて。
寂しくなれば愛を与えてくれて・・・なんて。
居心地良すぎてなんだか自分が自分じゃなくなりそうな、恐ろしいこの居場所は。
「じゃぁな、。短い間だったが世話になったなぁ。進化までさせてくれたし?まあそのうち敵として会おうぜぇ」
さらさらと手を振りシュラは町の外へ消えていった。
しばらくぼんやりとその様を見送っていたが、やがてシュラが出てきた方へと走り出す。
真夜中にたった一人で、負けたモンスターの為に走ってる・・・なんて。
なんだか泣けた。
シュラが居なくなって寂しいわけじゃないと言い聞かせながらも・・・止まらなくて。
「・・・いた・・・!」
然程離れていない場所でヒカゲは寝ていた。
ほっと安心してしまいへなへなと傍にへたり込む。
なんだかその所為で余計に涙が溢れてしまったが。
がすすり泣いていると、その声でようやく目覚めたらしいヒカゲががばっと起き上がった。
「!?」
「・・・あ、ヒカゲ・・・良かった、なんにも怪我とかしてなくて」
目元を擦りながらはにっこりと笑って見せた。
「お、俺・・・死んでないのか?あっそうだ・・・シュラは・・・!?」
「・・・望んで野生に戻ったよ。私じゃあの子を扱いきれなかったみたい」
だって甘いやり方しか知らないし?
そう考えるとまたぽろぽろと涙が零れてくる。
「ごめんね。折角仲間が出来たのに」
「な、なんでが謝るんだよ!!!!いいって!あんな奴いなくても、俺がさ!俺が!!!」
ヒカゲは涙を零すを抱き寄せて。
その小さい唇に優しくキスを落とす。
「俺が!を最高のポケモントレーナーにしてやるからさ!!!だから泣くな!!!」
「・・・ん」
涙で濡れた目がにっこりと笑う。
それを見たヒカゲの顔が少し赤くなり・・・照れたようにこう言った。
「大好きだ、」
「・・・ありがと。私も・・・大好き」
そう言ってヒカゲの胸に顔を埋めると、を抱き締める腕に力が篭った。
「行くよ、ヒカゲ」
「おーぅ!!!任せろ!!!」
暫くしてからトクサネのジムの前に立つ人影があった。
それはポケモントレーナーのと、彼女の一番のモンスターヒカゲ。
そして・・・。
「ほら!!遅れんなよ!シュラ!!!」
「・・・元気いいなぁ、お前等・・・」
あんまりやる気のなさそうなサメハダーの姿が。
を挟んで2匹がジムを見上げている。
「はぁ・・・まさかもう一回捕まるとはなぁ・・・」
「ふふ、敵として会おうって言ったのはシュラでしょ」
「・・・やれやれ、お前等の甘さには参るぜぇ。ふん、まあいいかぁ。坊やせいぜい俺様の脚引っ張ってくれるなよ」
ふっと笑ってシュラとヒカゲが駆け出した。
その後を追う。
この後彼女が世界に認められるポケモントレーナーになることは、まだ先のお話。
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リザードンの名前・・・実は火影とかいてヒエイ君にしようと思ったんだけど某漫画を彷彿とさせるのでやめ。ホカゲもつかえねぇし(笑)
シュラも某聖闘士にいるけどもういいや、みたいな(多分言わなきゃばれないしな)
ところでポケモンでえろを書いたら犯罪ですか。(いや、今回は書くつもりでかけなかったけど)
児童向けのものだからかすげー背徳感が。悪いことしちゃってる感が・・・。でもリベンジするぞ。
でもほら、タマゴとかそういう概念もあるしさ。ぶっちゃけ大丈夫かなと思ってみたり(おい)
台詞多すぎで大分読みにくいですな・・・すいません・・・。
そして恥ずかしすぎるほど少女漫画・・・。恥ずかしすぎて死ねますね。