君は無知にて純真無邪気。
「角ちゃん、いますか」
最近昼になると十一番隊に現れる一人の少女。
小さな手提げを両手で持ち控えめに十一番隊の門を叩く。
「おぅ、。今日も時間ぴったりだな!」
丁度扉の近くに居た恋次にもはにかむように笑って見せた。
特別美人と言うわけでもないかの笑みは周りに花が咲くようだと思う。
「一角だろ?すぐに来ると思うぜ。入って待てよ」
「・・・ありがとうございます。じゃあ・・・お言葉に甘えて・・・」
軽く頭を下げると控えめな歩調で十一番隊に入っていく。
すると急に詰所内が騒がしくなって、の少し後についていた恋次は苦笑した。
なんせこの十一番隊。
女なんて滅多に寄り付かないような男所帯。
いるのはいつも隊長にくっついて回っている小さい副隊長くらいだ。
あれをそういう対象にみる奴は色んな意味でいやしないだろう。
について部屋に入ったら、もうは部屋の真ん中で男共に囲まれていた。
少し鈍いところがあるのだろう。
狼の群れにいるなんて微塵も思っていないような顔で、色んな男に話しかけられている。
「・・・やれやれ皆、がっついて美しくないね」
すっと後ろに現れた弓親が恋次に言った。
「弓親か。一角は?」
「さぁ?すぐに来るんじゃない?」
飄々と言って弓親もを見遣った。
にこにこと花のような笑みを惜しげもなく振りまいている。
「止めなくていいのかよ」
「だって一角の彼女だよ?一角がちゃんとしなきゃね」
「・・・お前って・・・」
はぁ〜っと恋次が溜め息をついたその時。
だだだっと騒々しい足音と共に近づいてくる霊圧。
「来た来た」
廊下を必死で走って向かってくる一角。
それこそ恋次や弓親など目にもくれずに。
「!!!」
ばんっと扉に手を突いて詰所の部屋を覗き込む。
すると一層嬉しそうな顔で、が出迎えた。
「あ、角ちゃん!」
十一番隊の隊員に囲まれながら声を上げて立ち上がった。
ずかずかと隊員を掻き分けて一角がに近づいてくる。
「遅くなって悪ィ」
「ううん、いいよ〜。さ、ご飯食べに行こう」
軽く手提げを上げて見せてる。
そしてはそっと一角の手を取った。
その小さい手の柔らかさに一瞬どきりとして一角がを見下ろす。
「?どしたの、角ちゃん」
首を僅かに傾げて見上げる。
嗚呼、畜生なんでこんなに可愛いんだ。
思わずそう口にしそうになるが他の隊員がいるところでそんなこと言えるはずも無い。
ふと気付けばニヤニヤしながら弓親と恋次が見ている。
「・・・何だよ、お前等・・・」
ばつが悪そうな表情で一角は二人をみた。
の手を引いて二人の前まで行く。
「別に?なぁ、弓親」
「うん、別になんでもないよね」
二人して笑いながら顔を見合わせる。
「言いたいことがあるならはっきり言いやがれっ」
「何でもないってば」
「そうだぜ、角ちゃん」
恋次の言葉に部屋中に爆笑が起こった。
「??え、皆さんどうしたのですか?」
まさか恋人がゲラゲラ笑われている原因が自分などどは夢にも思わずは周りを見回した。
いたたまれなくなった一角はそんなを抱き上げて走り出す。
「テメェ等覚えてろよ!明日の訓練でブッ殺してやらぁぁぁぁっ!!!!!」
という捨て台詞だけを残して。
走って走って、宿舎の前。
部屋にを上げてやった。
どちらかが非番で無い限りは大体昼を一角の部屋で摂っている二人。
時々外に食べに行ったりもするが、大体は一角の部屋だった。
「さっき皆どうして笑ってたのかな」
「・・・さぁ」
どこまでも鈍いに隠れて溜め息をつく。
そんなは何処までも危なっかしく、毎日一角ははらはらしっぱなしだ。
今日だって恋次に誘われて十一番隊に上がりこんでいた。
俺がもし現世行ってて帰ってこなかったらどうするつもりだったんだよ、とか。
あいつら餓えてるんだぞ、とか。
過ぎるほど一角はを心配していた。
しかし当の本人は。
「じゃあ、ご飯食べよっか」
と、こうだ。
一角が窓際に机を引きずり、は手提げから自分で作ってきた二人分の弁当を広げる。
いつもながら美味しそうな出来のそれに少し癒されつつ一角はの向かいに座った。
「今日ね、うちの隊長のところに角ちゃんとこの隊長が来てたよ」
「そりゃ珍しいな。いつもはその逆だぜ」
は三番隊である。
それはまた、一角を心配させる原因の一つでもあった。
兎角色んなことにちょっかいを掛けるのが好きな隊長の部隊。
ふらふらと歩き回っては副隊長の手を煩わせているとか。
実際一角はその場面を何度も見ているし。
「今日は三番隊にいたのか?市丸隊長は。それもそれでスゲー珍しいな」
「うん、昨日副隊長に頼まれてね。隊長にちゃんと仕事してくださいって言ったの。そしたら今日はずっと三番隊に居たよ」
「・・・」
しっかり利用されてるし。
今の言葉で苛っとした一角の霊圧がぐんと上がる。
勿論もその変化に気付いた。
「あれ?角ちゃん・・・どうしたの・・・?」
一応鈍いにも怒っているらしいことは伝わってきた。
だけど何故そうなったのかが分からなくて。
おろおろと一角を見上げる。
「・・・なんでお前はそうなんだよ」
「え」
はぁ〜っと盛大に溜め息をついて一角はの隣に移動した。
「ったくよォ、目ェ離したらすぐにどっかの男に騙されて連れて行かれちまいそうだな。お前」
苛々とそう吐き捨てる一角。
飛んでくる霊圧はやはり変わらず高いままで。
「そ、そんなことない・・・よ?」
「あるだろ。現にお前・・・ああもういい。めんどくせぇ」
どうせ気付いてもいないことをつらつらと語ったところでどうだというのだ。
軽く笑われ否定され、そして考えすぎ心配しすぎと言われるのがオチだ。
いや、今までそのオチだった。
「角ちゃん・・・?」
「俺も悪かったんだよな。とっとと俺のモンだって見せ付けときゃァこんな心配する必要も無かったんだしよ」
「・・・え」
ぐいっと一角の腕がの肩を掴んで。
一瞬真剣な視線が交わったかと思うと素早く一角がに唇を押し付けた。
「!」
ちゅっと小さな音を立てて押し付けられた唇。
の目が驚きに見開かれる。
思わず力いっぱい一角を押し返そうとするが、びくともしない。
だけど気付いた一角の方から離れてくれた。
「・・・角ちゃん・・・」
怯えた顔をするを見下ろし一角は自嘲気味に笑って見せる。
「怖いか?」
幾分一角の霊圧が緩んだのを感知しては僅かに首を縦に振った。
キスなんてされるの、初めてだ。
付き合って結構経つ。
だけど一角は何もかも子供なに合わせて禁欲的な生活を送り続けていた。
来る日も来る日も部屋に上げながら、喋って笑って。
ただそれだけで。
だって。
君は無知にて純真無邪気。
だけど、無知は時として物凄く罪深い行為だと思う。
だから。
それ相応の罰だって必要なのだ。
「怖いか、俺が」
言って嗤う一角の目は恐ろしく真剣だった。
霊圧も落ち着いてきているのにどうしてこんなに怖いんだろうと、は少し肩を震わせる。
だけど素直にそう言ったらますます一角の怒りを煽ってしまいそうだと思った。
「い・・・いつもは、怖くなんか・・・ないよ」
更木隊と恐れられる十一番隊に所属しているけど。
時折は乱暴だったりするけど。
結局一番優しいのは一角だった。
「今は怖いか」
「・・・少し、だけ」
恐る恐る呟く。
すると一角は急に霊圧を下げた。
そして痛いほど掴んでいたの肩から手を離す。
「・・・え、角、ちゃん?」
いきなり解放されたはそっと一角を見上げた。
すると一角は今までのことが嘘のようににかっと笑って見せる。
「今の恐怖覚えとけよ」
「えっ・・・」
「俺以外の男と仲良くしたら何度も同じ目に遭わせてやらァ」
ぽんぽんとの頭を軽く叩いてやりながら一角はの肩口に顔を埋めた。
ふわりとの髪の香りがする。
「が好きでたまんねェ」
「・・・うん」
「心配なんだよ。隊舎遠いし、お前ントコの隊長軽そーだしよォ」
ぎゅうっと力を込めて抱きしめられた。
「私も、角ちゃんが好きだよ。大好きだよ」
「・・・」
ふと一角が顔を上げる。
は僅かに頬を染めてまっすぐ一角を見た。
そして。
―――ちゅ。
触れるだけの軽いものだったが。
は自分から一角の唇に自分のソそれを押し付けたのだった。
今度は一角が驚く方だった。
はたと動きを止めを見つめてしまう。
それに羞恥を感じたのか、は頬を赤くさせるとばっと一角に抱きついて。
顔を隠すように一角の胸に顔を押し付ける。
「・・・っ、こんなことするの角ちゃんだけだし・・・っ」
恥ずかしそうに照れまくるが堪らなく可愛い。
さらさらと頭を撫でながら一角は笑って、の赤い顔をあげさせた。
「なぁ、。俺のこと好きなら一個頼みがあるんだけど」
「え・・・なぁに?」
「あのな・・・」
次の日も。
ぴったりと同じ時間に十一番隊の前にはの姿。
「あの、阿散井さん・・・えっと、その・・・い、一角・・・いますか?」
顔を真っ赤にして愛しい男の名を呼ぶの姿が。
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イノセンスと言うと某アクマ退治漫画を彷彿とする人が居ると思いますが(自分もそのクチ)
それだけに、この80番のイノセンスは絶対に別ジャンルにしてやろうと思っておりました。
んでイノセンスの意味を調べてみたところ・・・無罪,
潔白; 純潔; 無邪気, 純真; 単純; 無知; 無害といった意味があるそうで。
無知は犯罪ですよね(真剣)ていうかあんまりラブラブじゃない上に一角が報われてないのでそのうちリベンジしたいです。
やっぱこういう純真無垢系プラトニックラヴは書くの苦手・・・エロ臭い方が書きやすいや・・・。
さん、ここまで読んでいただいてありがとうございました。