一目であったその日から
女が降って来た。
いや嘘じゃねぇって、マジだって。
畜生俺様の秘密スポットに入り込んできやがって。
どんな面してやがんだと思ったら、色の白い顔を蒼白にしたとびきり美人の女だった。
こりゃぁラッキーな拾いモンだと思って抱えて海の中から飛び出した。
俺様の発見が早かったから水も殆ど飲んでねえ。
一応呼吸もあるし、放っといても大丈夫だろうが・・・。
まあ見たところ普通の人間だし、あちこち細くて弱そうだから病院って奴に運ぶべきなんだろうな。
女を肩に担ぎ俺様はクラハの元へ向かった。
「・・・あっ、クラハ。あいつ帰ってきたぜ。・・・なんか担いでるけど」
俺様に先に気付いたのはトカゲの坊やの方だった。
ちっ、俺様がいねえ間にこいつらまたいちゃいちゃしてやがったな。
クラハが真っ赤になって慌てて服の乱れを直してやがるぜ。
「おう、クラハ。坊やとニャンニャンするならもっと人気のねェところでやれよなァ」
女を下ろしながら笑ってやったらますます真っ赤になる。
初心なお嬢ちゃんだな。
俺様にはこんな子供はお呼びじゃねぇが、やっぱ他人がべたべたしてたら意地悪してやりたくなるもんだろ?
「坊やって言うな!!・・・ところでお前、誰だよ。その人」
「アァ?俺様が泳いでたら降って来たんだよ。崖の上から。美人だから連れてきた」
「・・・それってどういう理由だよ」
何言ってんだこの坊やは。
人助けの理由なんてそんなモンだろ。
「降ってきたって・・・それって自殺か何かじゃないの!?と、とにかく病院病院・・・!!」
青い顔をしてクラハが慌てて坊やに女を病院まで運ぶように言った。
まあここからじゃあ走るよりは飛んだ方が早いわな。
で、俺様はクラハを担いで走ることになった。
この決定にトカゲの坊やは不満も不満と言った顔だ。
へへ、ざまぁみやがれ。
いちゃいちゃしてっからこうなるンだよ!
「クラハ落としたりしたら承知しないからな!!あと余計なこともするなよ!!!」
と、捨て台詞を残してやっと飛んでいった。
阿呆。
こんなお嬢ちゃんに興味はねえんだよ。
まぁ、でもさっきちらっと見えた胸はそこそこ成長してるっぽかったけどな。
如何せん俺様の好みじゃねえんだ。
「阿呆だな、あいつは」
「はぁ・・・あんたたち全然仲良く出来ないわね・・・。戦うときになるとあんなに息が合うのに」
「けっ。あんな坊やと一緒にすんな。おら、行くぜ」
俺様はさっきのおんなと同様にクラハを肩に担ごうとしたら抵抗された。
「ちょ、ちょっと!!もっとやりかたあるでしょ!私スカートなんだからね!!」
「高速移動ならみえねぇよ。行くぜェ」
だっと地面を蹴って高速移動をする。
加速している間はどうにもこうにも周りに合わせて走りにくい。
一回仲間が高速移動で競争してるのを見たが、ありゃぁ阿呆のすることだな。
あっちこっち破壊しやがって。
俺様気に入りの珊瑚礁までぶっ壊しやがった。
あそこにゃ従順で大人しいサニーゴやらパールル、トサキントとかの娼婦が沢山住んでたんだぜ。
だから後で全員シメてやったけどな。
こうして走ってる今も何本か木ィ折っちまった。
ま、クヌギダマにさえ当たらなきゃぁ構わねえか。
そろそろ技が尽きかけてくるところで病院に着いた。
俺様等のいくポケモンセンターの人間版だな。
まあ大して代わった設備もねェが大きさが段違いだ。
ボールに入れる俺様達とは違って人間ってのはかさばっていけねえな。
隣にポケモンセンターも建ってるが小せぇ小せぇ。
クラハを下ろして病院に入っていくと、待合室に坊やがちょこんと座ってた。
「あ、クラハ!!!」
俺様は無視か。
坊やは走ってきてクラハに抱きついている。
こいつは一種の癖みたいなモンだ。
ガキのころから甘やかされてた証だな。
不名誉なモン以外の何物でもねえが、クラハはもう直そうとはしてねえし(でも抱きつかれる度に照れてはいるが)坊やの方にもその癖が恥ずかしいものだと言う認識がねえ。
だから敢えて俺様も何もいわねェ。
クラハが良いなら良いんだろうから放っておいてやる。
「、あの人は?」
「ああ運ばれて治療してもらってる。でも気絶してるだけみたいだってさ。海に飛び込んだわりに水も殆ど飲んでないし、早く運ばれたしすぐに元通りって」
「そう、良かった・・・」
心底ほっとしたような顔をしてるクラハ。
俺様は最近こいつのこういうところが結構好きだったりする。
こいつらに捕まえられたときはかなり不愉快だったのが嘘のようだ。
他人の心配なんて馬鹿馬鹿しいと思ってきたし、気に入らないなら相手を殺してでも服従させる。
そんな環境で俺様は育ってきたからクラハのやり方は合わないと思ってきたし、大嫌いだったけど。
トカゲの坊やも甘い上にいつでも正々堂々を地で行くようなガキで、何処までも甘いこの二人。
だけど2度目の遭遇でも俺様はやっぱり勝てないんだ。
坊やの弱点属性を持ちながらそれでも結局俺様はこいつらに捕まったんだ。
その時はもう「負けた俺様が悪いんだから仕方なくこいつらについていっている」って思ってたが。
最近その甘さも悪くねぇと思ってる。
合わないところもまだまだあるがな、それでも以前までは偽善だと思ってきたクラハの優しさは今では嫌いじゃない。
「んじゃ、行こうぜ」
「「え?」」
俺様の言葉に二人がハモる。
こんな時まで仲良しさんだな、お前等・・・。
「だってもう用は済んだだろ?あの女も回復に向かってるし俺様らがいても仕方なくねぇ?」
「・・・、あんたって・・・」
はぁっとクラハが溜め息を吐く。
なんだなんだ?
正論だろ?
「あんたが第一発見者なんだから、最後まで責任持って目覚めるまでいてやりなさいよ」
「はぁ!?なんで俺様が!」
「だって助けたんだろ?」
いや!
俺様は助けたわけじゃねぇし!!!
美人だったから連れてきただけで助けたとかそういうつもりじゃねぇ!
だけどクラハの奴にあれよあれよと病室に押し込まれた。
くそっ、こういうときだけこいつ妙に強ぇしな・・・。
押しこまれた先に寝ている女は、海で見たときよりも幾分血色が戻ってた。
それでも尚白い顔を覗き込んでみる。
「うぉ、マジで美人だなこりゃぁ」
結構美味しい状況かもな。
美人と個室で二人っきり。
この際病人ってことは放っといて適当に口説いてこの町に女増やしておくのもいいかもしれねぇ。
ほくそ笑みながら女を観察してると何だか殺気に近いモンを感じて振り返る。
何だ何だァ?
窓の外から感じるんだが、病院で殺気なんておかしいんじゃねぇのか?
そんな風に窓と女を交互に見てたら、不意に女が薄っすらと目を開けた。
「・・・」
呆然とした濃い緑の視線が俺様を捕らえる。
一瞬戸惑ったように揺れ、そしてはっと見開かれた。
「此処・・・っ」
「病院だぜ」
取り乱したように体を起こす女に教えてやった。
まあ教えなくとも分かっただろうが。
「・・・生きてるのね、私・・・!」
「おぅ。残念か?」
あんな崖から降って来たんだ。
十中八九自殺に決まってると俺様は踏んだ。
だが。
「何故。私殺されかけたのよ?」
どうも読みを外したらしい。
「こんな美人を殺そうとするたぁ、勿体ねェことをする男もいたもんだなァ」
まあ率直な俺様の気持ちだ。
やっぱ美人が減るのは男として良い気分じゃァねえわな。
「あー、成る程なァ。だからこの殺気か」
「え?」
「・・・人間にゃァわからねーかもなぁ。お前、見られてるぜ」
窓を視線で促しながら言った。
しっかし人間の癖に上手く隠れたモンだ。
俺様でも見つけられねえ。
ふと窓から視線を移すと、女は蒼白な顔でいきなりベッドから降りた。
「お、おい!」
思わず俺様は女の腕を掴む。
「離して!あいつストーカーなのよ!!こんなところじゃ私、自分の身を守れない!」
確かに。
病室のドアに鍵がついているわけじゃないし、何処かに潜んで夜を待てば。
簡単にこの病室に入り込めるだろう。
「お願い、家に帰して!」
今にも泣き出しそうな顔で俺様の手を振り解こうとする細い腕。
こんなんで自分の身を本当に守れんのか・・・?
「そう言われてもなァ・・・」
また崖から突き落とされンのがオチじゃねぇの?とか。
今度は電車のホームかもな、とか。
そんな考えが頭の中に浮かんでは消えた。
帰宅許可の出てないこの女を逃したらクラハに滅茶苦茶怒られるだろうし・・・。
それに何故だか俺様は・・・。
「帰らせて・・・」
とうとう泣き出したこの女を。
護ってやりたい、だなんて。
「・・・じゃあ一晩俺様がいててやる。だからよ、大人しくベッドに戻れ」
「え・・・」
驚いたように顔をあげる女。
今までは泣く女なんて面倒だと思ってきたが・・・そんなことはねえな。
涙を流す女の顔は滅茶苦茶綺麗だった。
ごちゃごちゃやってる間に日も大分落ちた。
だけど相変わらず俺様の背に感じられる視線やら殺気やら。
一人だってことは分かっているんだが、マジで姿が見えねえ。
陰湿野郎はこそこそ隠れるのがお上手ってことか。
最初はちらちら窓を気にしてたが、その度に女の体が強張るからしばらくしてからはもう見るのをやめた。
「・・・そうだ、助けてもらったのに名前聞いてなかったね。私は。貴方は?」
「だぜ」
って名は大分綺麗な名だと思った。
目の前の女にぴったりだ。
流石に俺様のキャラじゃねぇからそこまでは言えなかったがな。
しばらくは他愛も無い話で時間を潰していたが、いきなり病室のドアが開いた。
「あら、目が覚めたのね」
看護士は少し驚いたような表情だ。
「今から消灯時間になりますが・・・そちらの方はよろしいの?朝まで出られなくなりますよ」
「別に構わねぇよ」
「そう、ですか?では失礼しますね」
そうか。
まだ10時やそこらだが病院ってのは病人ばかりがいるところなんだし、こんなに消灯が早ェのか。
もう寝る時間ってのは名残惜しいが仕方ねえか。
しばらくして病室の電気がふっと落ちた。
窓から入ってくる月の光とか、街の方の明かりで真っ暗になったわけじゃねえ。
俺様は夜目が利く方だ。
日の差し込みにくい夜の海とかでも泳いできたからな。
だからそれくらいの明かりがあればの顔もちゃんと見える。
だがの方はそんなことねえから、もぞもぞとシーツの中に潜り込んだ。
「・・・こんなの、眠れるわけないじゃない」
ぽつりと呟く。
「何でだよ。俺様がいるから安心して眠れ。これでも夜は強ェんだぜェ?」
色んな意味でな。
「そんなこと言われても眠れないわよ・・・。あいつの所為で過敏になっちゃったの。隣に誰かいる状況じゃ眠れないわ」
横になりながら俺の方を向いた。
月明かりで顔に色濃く影が出来ているから表情が分かりにくい。
濃い緑の視線も遮られている。
だけど・・・綺麗な顔してんなぁ・・・。
「ねぇ。夜は強いって・・・どういう意味・・・?」
意味有りげな仕草で首を傾げる。
そっと手を伸ばしてベッドサイドに座る俺様の膝に手が触れる。
「それで私を眠らせてくれたり・・・してくれる?」
僅かにの体が動いたとき、影も少し移動した。
影に隠れていた濃い緑の視線がちらりと覗く。
射抜くように俺様を見据えてる。
「・・・いいのかよ」
「分かんない。これでも身持ち堅い方なのよ。でも・・・何て言うか・・・一目惚れ、みたいな?」
ちょっと違うんだけど、と言うの言葉のニュアンスが俺様も何となく分かった。
だって俺様も似たような感じだ。
一目惚れとかそんな軽いモンじゃねぇんだ。
だけど上手いこと言い表せないこの気分。
衝動的な、だけど永続的な。
「嫌だっつっても止めねえからな」
「望むところよ」
窓のカーテンを引いて俺様はのベッドに上がった。
ぎしりとベッドが強く軋む。
その音に急かされるように俺様は組み敷いたの唇に、自分のそれを押し付ける。
眩暈がするようなキスだ。
堪らず唇を抉じ開けて舌を絡ませた。
堪らねえ。
これだけでイっちまいそうな程。
はは、畜生。
惚れたっていうのはこういうことなんだろうか。
「えぇぇぇぇ―――っ!!!!!!」
次の日、無事に病院から釈放されたを連れてクラハのところへ帰った。
「・・・いや、全然いいんだけど・・・」
じろっとクラハが俺様を睨んでいる。
手が早すぎってか?
仕方ねぇだろ、俺様にだって予想外だったんだよ。
「私、ストーカーに狙われる前はブリーダーやってたんです。ポケモン達のご飯とかのことは任せてください」
「はぁ・・・でもいいんですか?こんなので・・・」
こんなのってどういうことだよ!
強ェし女にゃ優しいし、アッチはアッチで最高だしこんないい男は滅多にいねえだろ!
そのままぼんやりクラハとのやりとりを見てたけど、すぐに意気投合した。
まあクラハの奴も女の友達が出来てよかっただろ。
さてと、ここからが大変だぜ。
各地にいる俺様の女共と上手いこと手ェきらねぇとな。
ストーカーに狙われて夜もおちおち眠れないなんて願いさげだぜ。
まあしばらくは違う理由で眠れねぇだろうけどな!
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リクエストされてもねぇのにサメハダー書いちゃった。
自分リクエストってことにしとこうかな(ぇ。
前々からお子様リザードンには恋人がいて(しかもトレーナーで)それを見せ付けられてる(だろう)サメハダーが可哀想だと思っていたので書いてみました。
彼は某オレンジネズミ君と違って誰からも支援の言葉を貰ったことがないのですが、個人的にその人気の無さが萌えな子で(アイタタ)。
だから実はとてもお気に入りの子なんで報われないのは悲しいですから書いてみました。
今回はクラハの名前だけ固定しました。だってヒロインと同じ名前になっちゃったら困りますし考えるのも面倒だと思いますので・・・。変換したかった方はごめんなさい。