白く光る暗い夜に。
世界が終わっても尚。
貴方が私の隣にいればいいなと。
白く光る暗い夜に。
「・・・寒いわ・・・」
「・・・君がオーロラを見たいと言ったのだろう?もう音を上げるつもりか」
「うるっさいわね、感じたこと素直に言ってなにが悪いのよ」
雪の上に座り込んで言い合う二人。
真っ暗な夜空を見上げれど、そこは星が意地悪く煌めくのみ。
待てども待てどもその星空を覆うカーテンは現われはしなかった。
「・・・はぁ、今日もダメかな。、帰るよ」
「何?もう良いのか」
「・・・いい、このままだと凍死しそうだし。明日また来るから」
そう言って立ち上がり、ぱんぱんと雪をはたき落とす。
は既にポケモンを極め、今は各地を回って珍しいポケモンを捕まえることを生業にしている。
このも恐らくは世界にたった一匹しかいないであろうポケモンだった。
リーグ優勝後手に余る財を持ち、珍しいモンスターや伝説のモンスターを探して歩く。
の夢であった。
「ふむ、まあ君が風邪を引いても良くない。帰るとしよう」
「そうそう。嗚呼でも早くオーロラ出てくれないと、この町出て行けないわ・・・」
溜め息混じりにざくざくと深い雪を踏みしめて歩く。
深い雪に足が取られ、ともすれば転びそうになりながらよろよろと。
転びそうだと思いながらも口には出さずはの後ろを歩いていた。
「・・・きゃっ!」
そしてやはりずるっと滑ったをさっとが抱きとめる。
「君は見ていて危なっかしい。私の手に捕まるがいい」
「・・・ありがと」
照れ隠しにそっけなく礼を言ってはの手を取った。
手袋越しにも分かるの少しヒヤリとした手。
ああ、彼は異質なのだな。
こういう時に痛感する。
「どうした、急に大人しくなったが・・・気味が悪い」
「考え事してんのよ、ほっといて」
はぼんやりとを眺めた。
薄い紫色の銀髪や白い肌。
線の細い華奢なシルエット・・・水晶を思わせる蒼い眼。
何もかもが他の者達と一線を画していた。
勿論人間であるのものとは違いすぎるが、しかしモンスター同士の中ででもの存在は異質なもので。
きっと誰の目にも明らかであろうその異質さ加減がが僅かに悲しくもある。
「・・・」
「何だ」
「あたしのこと、恨んでる?」
「何?」
は振り返ってぴたりと足を止めた。
射抜くような水晶の視線にどきりとする。
「何故君を恨むのだ」
「・・・だって・・・」
もしかしたら自分は余計な事をしたのかもしれない。
自由を奪って共に行動をさせて。
そしてこの異質な世界でたった一人だということに気付かせて。
「あたしと出会いさえしなければ・・・自由で気ままで。好きなように暮らしていけたじゃない」
搾り出すような訴えに、成る程とは理解した。
「そうかもしれんな」
「・・・っ」
「そして同時に自由の意味も知らないまま、孤独だっただろうな」
「・・・!」
はそっとの頬に手を添えた。
やはりそれはヒヤリとしていて体温の気配が無い。
だけど優しく頬をなぞられて熱が生まれるのが感ぜられた。
「君と出会えなかった不幸を恨みながら、私は誰にも知られず生きて誰にも知られずに死んだだろう。さて・・・君とであった今、私はどうやって君を恨もうか?」
束縛を知らなければ自由を知ることは無い。
今こうして誰かに縛られているからこその自由である。
何もかもから解放され自由になった時、それを自由を感じることは出来やしないのだ。
にこりとは笑みを浮かべ、をひょいっと抱き上げた。
「きゃっ・・・!」
「人間と言うものは、言葉が通えど意志の疎通が不自由だな」
だがそんな不器用な種族も悪くは無い。
「捕まれ。暖かい部屋でもっと深く通じようではないか」
「えっ、えっ・・・きゃぁぁっ!!」
高速移動で雪の上を走り抜ける。
あまりの速さに雪の上に足跡など残らないのではないかと思ってしまうほどだ。
そして体に当たる風も半端ではない。
しかし不思議と寒くない。
ふと見上げると薄いシールドのようなものが見える。
ミラーコートだ。
しかしがそれに気付いたときには既に自分達の泊まっているホテルの前で。
そのままエントランスに入ろうとするを慌てて止める。
「ちょっ・・・、下ろして・・・!」
「何故だ。私はこのままがいい」
「あたしは困るの!変な目で見られるでしょ!!」
流石に姫抱っこは恥ずかしすぎる。
何とか下ろしてもらおうと必死で説得を試みた。
だが。
「そんなもの気にしなければ良いのだ」
と、いう返答が返ってきて・・・結局諦めるほか無かった。
エントランスに入ると、フロントに立っている受付の女性の視線が突き刺さる。
リーグ優勝者としてちょっと知れてしまったこの顔を今だけ別物に変えたいと、これほど強く思ったのは初めてだった。
漸く部屋に帰り着く。
抱き上げられたままカードキーで部屋を開けて部屋に入って。
やっと解放してもらえると安堵したのも束の間、はを放すことなく抱き上げたままソファに座り込んだのである。
「・・・ねぇ、いい加減下ろして」
ソファの上で姫抱っこ。
なんて恥ずかしい状態だろう。
これでは出来たてのカップルも同然ではないか。
「断る。君は私の意志を上手く汲んでいないようだからな」
言うなり素早くの唇を奪った。
「ぅむ・・・っ!?」
いきなりヒヤリとした唇を押し当てられては目を見開く。
優しく触れるだけの柔らかい口付けだったが、驚いたはばっと体を離した。
「?・・・何故逃げる」
「何故って・・・!何故って・・・!!!そんなの聞くまでもないでしょ!」
「そうか照れているのか。しかし安心しろ、直ぐに慣れる」
「違う違う!!!なんでそういう解釈なの!」
しかしの目は大分真剣である。
少なくともふざけている訳ではないのであろう。
「突然キスされたら普通驚くわよ」
「・・・そういうものか。・・・それではもう一回しよう。いいな?」
「いや・・・あたし別に確認取ってって言ってる訳じゃないんだけど」
どうにもこうにも論点がずれているような。
だがキスを出来ない目の前のは不満そうである。
「では如何すれば君に触れられるのだ。こんなにも君を愛おしく思うのに」
僅かに怒ったような口調。
そうやっての告白が零れた。
言葉の意味を正しく理解したの頬に赤みが差す。
「・・・あたし、を?」
反芻するように聞き返すを水晶の瞳が優しく射る。
「愛おしい。誰にも渡さない。私と出会ったあの日から、君は私のものだ。私の自由くらいいくらでもやる。それで君を留めて置けるなら安いものだ」
「・・・」
そんなのこちらこそ望むところだ、とは思った。
しかし口から言葉が出ない。
ただただの言葉が熱く沁みる。
「それとも君は迷惑なのか」
「・・・そんなこと・・・っ」
あるわけがないと首を横に振る。
そしてそっとの唇に自らのそれを押し当てた。
優しく触れ合う唇の感触。
「ン・・・」
それが深くなるのに時間は掛からない。
どちらからとも無く舌を絡めあって深く深く。
思わずはの首に腕を回した。
この熱が離れていかないように、強く抱きしめる。
何度も角度を変えてお互いに貪りつくし、吐息を交わらせながらそっと離れた。
「はぁっ・・・・・・」
「何だ」
見下ろすは満足げである。
「出来れば、あたしのこと名前で呼んで欲しいわ」
言われてふと考え込む。
そういえばあまり名前を呼んでいなかったかもしれない。
「・・・」
「っ・・・」
「、君が好きだ。愛している」
耳元で吹き込むように囁かれの体が熱くなる。
思わずに回した腕に力が篭った。
それに目ざとく気付いた、同じく腰を抱く腕に力を込めて。
「それでは、君に・・・に触れてもいいか?」
にっと意地悪く笑った。
意図を理解したの頬が赤く染まる。
「・・・確認取らなくていいって言ったでしょ」
恥ずかしそうに俯いて、だけど小さく頷いて見せた。
にこりとが嬉しそうに笑って、もう一度を抱き上げ二人でベッドになだれ込む。
そして、ベッドの上でお互いに服を脱がせあっているとがぽつりと口を開いた。
「夜は大人しくボールに入っていたが・・・本当はずっとこうしたいと思っていた」
「・・・」
「出会ったときから私の自由はのものなのだ。君が行きたい所に行きたい。君が見るものを見たい」
ちゅ、とはの額に唇を押し付けた。
ぎしりとベッドが軋んで。
優しくシーツの上に押し付けられて、が覆いかぶさってくる。
小さく音を立てながら唇を交し合う。
ソファでしたときよりももっと感じる。
体温も息遣いも愛情も。
「今晩こそオーロラ見るわよ」
寒空の下、やはり並んで座る二人の姿。
「もたもたしていていいのか?他のモンスターを横取りされるかもしれん」
「・・・あぁ、そのことなんだけど・・・あたしもう伝説のポケモン追うのは止めにしようかなって思ってるの」
真っ白な息を吐きながらは笑った。
は目を見開く。
「何故だ」
「いや・・・何故って言うか・・・がいるからもういっかな〜って。考えてみればあたし、ここまで通い合ったモンスターなんていなかったのよね」
リーグ優勝までしたけれど今手持ちのモンスター達で誰が一番だとか考えたことが無かった。
無難に育てて、無難に試合をこなして。
気付けば頂点に立っていたけれど。
本当にやりたかったのはそんなことじゃなかった。
お金を貯めて変わったモンスターを集めたくてたまらなかった。
だけど今は違う。
「あたしも、と同じところへ行って同じものを見たくなったの。そして今度はと二人で頂点に立つわ」
穏やかに、しかし決意を含んだ言葉だった。
「で、手始めにオーロラね。次はの行きたい所に行こう。何処でもついて行くわ」
そんなの言葉に、は驚いた表情を緩め少し呆れたように笑う。
だけど嬉しさと同時に愛しさまでも込み上げてきてをきつく抱きしめた。
「・・・私も、が望むのなら。君を頂点へと導いてやろう」
星のカーテンが包み込む。
白く光る暗い夜に。
世界が終わっても尚。
貴方が私の隣にいればいいなと。
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と、言うわけで。
拍手リクエストのスイクンでした。
おシャカをイメージしてしまったのでちょっと嫌味な感じになっちゃいましたね;;
ていうか喋り方がおシャカっぽくてごめんなさい。
これでも必死で「〜したまえ」とかは言わないように頑張ったのですが;;
寒くなってきたのでオーロラとか書いてみましたが・・・雪にはまだちょっと早いかな。でも最近寒いですね。
因みにスイクン、実は高速移動使えません;;アレ!?と思われた方、ごめんなさい〜・・・。