042/拝啓お姫さま



「お父様、お母様。わたくし、結婚したい殿方がおりますの」
きちんと正座をし、真っ直ぐに両親を見ました。
わたくしは箱入り娘なので、この突然の告白にお二人とも息が詰まって死んだら面白いかも。
「まぁ、突然如何したの」
しかしわたくしの予想とは裏腹にテンプレートな返事が返ってきました。
「そうかそうか、それはどんな男なんだ?」
お父様ですらこんな返事。
いえ、実は腸が煮えくり返っているのを誤魔化しているのかもしれません。
「・・・実は、真選組の土方様です」
「なんと、あの真選組の副長と・・・!」
「まあまあ、それは良いお方を選びましたね」
嗚呼、お父様もお母様も嬉しそうです。
かく言うわたくしも反対されるのではと多少の危惧がありましたので嬉しい限り。
「ああ、これで毎日借金取りから追われなくて済みますね、あなた」
「そうだな。もしかしたら我が家の復興も夢ではないかも知れんぞ」
「わたくしもそろそろこんなボロ屋には愛想が尽きておりましたの」
周りを見渡せば崩れかけた壁。
厠も湯殿も無い6畳一間の親子3人暮らしは漸く終わりを告げようとしているのですね。
春風と共に運ばれてきたこの恋は、必ず成就させて見せます。
「それではお父様、お母様。わたくし、土方様とのお約束がございますので」
最後の一枚になった一張羅の袖を翻し、わたくしは喜びに涙するお二人を残して家を出ました。
土方様は毎日この時間に必ず家の前を通られるのです。
嗚呼、今日もゴリラを連れてやってまいりました。
でも待ち合わせにゴリラを連れて来なくても宜しいのに・・・、無粋な方。
いいえ、でもそういうところも愛しているのです。
「土方様・・・!お会いしとうございました・・・!!」
わたくしははしたなくも思わず土方様に抱きついてしまいました。
「・・・なんだ、お前」
しかし土方様、驚きもせずにわたくしの首根っこを捕まえて引き剥がされます。
「今日から貴方様の妻になる女です。不束者ですがどうぞよろしくお願い致します」
「アァ!?何の冗談だ、俺はお前みたいな女知らねぇぞ!!」


これがわたくしと土方様の最初の対面でありました。