不幸の手紙
ある日、城戸邸に一通の手紙が届いた。
それを見つけたのはその日朝が一番早かった瞬。
「あれ?珍しいな、手紙なんて」
宛名は紫龍。
ふと差出人を見てみると乱雑なアルファベットで「DEATHMASK」と書かれていた。
それを見た瞬間、瞬はそれはもう嫌な予感がした。
「・・・ていうか切手貼ってないし・・・」
手で投函したということか、手で。
しかし自分のならまだしも他人宛に届いた手紙を破って燃やすわけにもいかない。
「・・・」
気乗りはしないが一応紫龍に渡すことにした。
後は彼が勝手に落とし前をつけるだろう、ということで。
新聞やその他のダイレクトメールはダイニングのテーブルに置いておくことにして、紫龍宛の不吉な手紙だけを持ち瞬は階段をあがる。
――コンコン。
「紫龍、起きてる?君宛に手紙が届いてるよ」
ドアをノックして声を掛けた。
するとすぐにドアが開かれて。
「瞬君?ごめん、紫龍まだ寝てるの」
と、顔を出したのは紫龍ではなく昨日から遊びに来ていただった。
しかし青銅一真面目とも言える紫龍の部屋から女の子が出てこようと瞬は全く驚かない。
実はは最近出来た紫龍の彼女だったからである。
「ちゃん帰ってなかったんだ」
「あは。駄々こねて居座っちゃったの。手紙預かっとくよ」
「あ、じゃあお願いするね。君の分の朝ご飯も用意するから紫龍起きたら二人で降りてきてね」
「いいの?いつもごめんね〜」
瞬から手紙を受け取ってさらさらと手を振ってドアを閉めた。
そして手紙に一瞥をくれる。
「・・・何コレ、変な手紙」
住所も書いていなければ切手も貼っていない。
おまけに差出人はアルファベットでデスマスクなんて書かれている。
如何みても悪戯としか思えないけれど、瞬がわざわざ持ってきたということは何かあるのだろう。
は手紙を持ったまま、紫龍の眠っているベッドへ勢い良くダイブした。
「紫っ龍〜!!!起きて起きて!」
「・・・う、ぅ・・・なんだ、・・・」
「紫龍宛に手紙が来てるよォ〜。ねぇこのデスマスクって誰なの?友達??」
「な、に?デスマスク?」
微妙な名前がの口から出たことで紫龍は寝ぼけている間もなく覚醒した。
そしての手から手紙を受け取る。
「・・・嫌な予感がするな。出来れば読まずに捨ててしまいたい」
住所が書かれていないことといい、切手の貼られていないことといい、胡散臭いことこの上ない。
だが読まなかったら読まなかったで結局後でツケが回ってくることも知っている。
はぁ、と溜め息を吐いて紫龍はぴっと封を開けた。
白い便箋に走り書きのように書かれた言葉を目で辿る。
「ねーなんて書いてあるの?」
は興味津々といった感じで紫龍を見上げている。
しばらく無言で読んでいたが、ふと手紙を脇に置いたかと思うと顔に手を当て疲れたように溜め息一つ。
「紫龍?」
「・・・あいつは一体何を考えているんだ」
心底呆れ返ったような紫龍を尻目に手紙を覗き込んだ。
――――――――――
よぅ、紫龍久しぶりだな。
まぁこの手紙見て分かるかもしれないが俺は今日本に来てる。
勿論女と一緒だ。
それでちょっと頼みがあるんだが、お前最近彼女出来たんだってな、同いの。
14歳っつったら中学生だろ?俺の女も小柄でガキみたいなんだけどな。
悪いけどお前の彼女のセーラー服貸してくれないか?
一回そういうのやってみたかったんだよな!分かるだろ?同じ男として。
まあタダでとはいわねえ。
コレと交換しようじゃねえか。
お前くらいの歳だったらなかなか買いにもいけねえと思うしな。
ま、これでせいぜい楽しんでその後俺にセーラー服貸してくれよ。
頼んだぜ。
――――――――――
「交換って・・・コレのこと?」
がさがさと封筒をあさっていたがずるりと引き出したのは・・・。
コンドーム。
それを見て思わず紫龍は手紙と一緒にそれをひったくった。
「っこんなもの、突き返してやる・・・!!!」
珍しく慌てた様子の紫龍。
心なしか頬が赤い。
対してはそうでもない。
別段珍しいものでもなかったし、学校で誰かが膨らまして遊んでたような気もするし。
「返しちゃうの?」
「当たり前だろう!!あんな条件も飲まん!」
手紙もコンドームも封筒にぐいぐい押し戻している。
まあセーラー服を如何わしいことに使われちゃうのはちょっとなーとは思いつつも。
はやおら体を起こして紫龍の膝の上に乗った。
「なんだ?」
「ふふ、いいじゃん。ご好意に甘えてせいぜい楽しもうよ」
そう言って笑うと紫龍から封筒を取り上げてもう一度ずるりと繋がったコンドームを引き出した。
「一個だけならばれないって」
ね?
にこりと笑いながら紫龍を見上げるの表情は何だか妖艶で紫龍はぎくりとした。
ゆっくりとの手が紫龍に伸びてくる。
その手がふわりと紫龍の頬に触れた。
視線がまっすぐ縫いとめるかのように鋭く刺さる。
声も出せず、完全に紫龍は固まっていた。
「・・・ぷふっ」
しかしそんな時、もう我慢できないというような表情でが噴出したのである。
「あははっ、もうなんて顔してるのよぅ。冗談に決まってんじゃん!!」
「な・・・何?」
「あーやばいな。今の紫龍の顔写真に撮っときたかった!可愛すぎ!!!」
そう言って笑いながらは紫龍を抱きしめた。
からかわれたと分かった紫龍は更に顔を赤らめる。
「!!」
「ごめんごめん。まだちゅーもしたことないもんねあたし達」
ふざけたように言いながらは紫龍を見上げてにこりと笑った。
別にそういうのを強要するつもりもないし、ましてやコンドームを使うなんて早すぎるかなとは思っている。
しかしの言葉を少し良くない方に取った紫龍。
遠まわしに責められているのかと思いこんだ。
がしっとの肩を掴む。
「ん?どしたの?」
「そんなに言うのなら」
「え?」
紫龍が体を屈めた。
すうっと自分に落ちている紫龍の影が濃くなったかと思うと。
ちゅ。
軽く一瞬触れるだけの、キス。
予想外の紫龍の行動に今度はが真っ赤になる番だった。
「〜〜〜っ、不意打ち」
「俺を見くびってもらっては困る」
にやりと意地悪く笑う。
きっと誰かが見ていたらどこぞの蟹にそっくりだと言っただろう。
しかしそれを指摘してくれる人は幸いにもいなかったが。
どきどきとの心拍数が上がる。
触れ合ったときのあの感触、気分。
「紫龍」
頬は赤らめたままですっと紫龍の首に腕を回した。
「もう一回」
臆面無く素直に求めてくるに、一瞬驚いたような表情を返したが。
やがてその背中に優しく腕を回すともう一度唇を重ねた。
そのままなんだか照れるような気恥ずかしい気分で二人して部屋を出る。
勿論瞬が用意してくれているだろう朝食を摂る為に・・・であったのだが。
何やらリビングの方が騒がしい。
「・・・?なんか賑やかだね。瞬君だけじゃなかったのかなぁ」
は首を傾げて見せるが、紫龍は瞬の他にもう一つとても嫌な小宇宙を感じて顔を顰めた。
丁度良かったと言うべきか最低のタイミングだと言うべきか。
自然と重くなる足取りを引きずって紫龍はリビングのドアを開けた。
「・・・おはよう瞬。それからデスマスク」
「えっ」
後ろから続いたが驚いたように声を上げる。
「よう紫龍。手紙読んだ割には起きてくるのが早ェな」
にやにや笑って振り向いた銀髪の男。
挨拶を返しながらも無遠慮に紫龍の後ろを覗き込んでを観察している。
「あ、あの」
「ふーん、可愛いじゃねェか。おい俺とギリシャ来ねぇか?紫龍よりもイイ思いさせてやるぜ」
「え、遠慮します・・・」
間髪いれずに断ったら紫龍が少しだけ笑った。
だって流石にといえど手紙にコンドーム詰め込むような人について行くのは怖い。
男前だとは思ったけれど、それを言えば紫龍だって相当なんだから別に断るのは何でもなかった。
「残念だなァ。気が変わったらいつでも言えよ。すぐに連れてってやらぁ」
にたりと笑ってデスマスクはから視線を離した。
「ところで紫龍、手紙読んだんだろ?早く寄越せ」
「人の話を聞かんところは相変わらずだなデスマスク。なんだあの手紙は」
「優しい俺からのプレゼントだろーが。だからさっさと代わりのモン寄越せ」
「あんなプレゼントはいらん。というかお前からは何も貰いたくない。封筒ごと返すから帰れ」
ずいっと紫龍は苦い表情でデスマスクに封筒を押し付けた。
「んだよ、どうせそのうち必要になるんだろーが」
「その時はその時だ(きっぱり)。今はいらん。早く帰れ」
もうとにかくに色々ちょっかいを出される前に早く帰ってもらいたい紫龍。
それを観戦している瞬と。
あまり話を飲み込めてない瞬が紫龍の後ろのに話しかける。
「ちゃん、何があったの?」
「うーん、なんかあのデスマスクって人があたしのセーラー服を着たいらしいんだよね」
「へぇ・・・前々から色々と踏み外してるとは思ってたけどそこまで堕ちたんだ、蟹」
どこか遠いところを見るように瞬が言った。
「ていうかあたしの学校セーラー服じゃないしなぁ」
ぽつりとがそう呟いたときだ。
「何!?ちょっと待て今何つった!!」
デスマスクが紫龍を振り切り、にいきなり詰め寄る。
「えっ・・・あたしの学校セーラー服じゃないしな・・・?」
「マジかよ!先に言えよそういうことは!!」
知らないよ、は思ったが口には出さない。
「セーラー服じゃねぇ制服なんていらねぇよ!!畜生無駄な時間食っちまったぜ。俺帰るわ」
「ああ、そうしてくれ」
身勝手な言葉に何やら言いたいことは沢山あったが、どうせ聞き入れるわけもないし早く帰って欲しいしで紫龍はもう何も言わなかった。
寧ろ結構慣れっこだった。
「んじゃぁな、紫龍も偶には聖域に顔出せや。シュラが会いたがってたぜ」
「ああ・・・お前がいない時にでも行かせてもらう」
だから早く帰れと言う風に紫龍は手を振った。
それにデスマスクも応え、漸く城戸邸はいつもの穏やかさを取り戻したのである。
「・・・なんだったの、あれ」
呆然とするに瞬も紫龍も苦笑するしかなかった。
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夢度低すぎ。すいません。
なんか青銅難しいな。
年齢考えるとエロも書きにくいしな・・・(遠い目)
実はこの話「182/制服」の布石です。
制服コスとかそういうのならもう断然デスマスクがいいなと思った時に、ああ、じゃあ青銅の誰かの彼女とかのやつ借りれば良いじゃんねと思ったわけですな。
んでなんで紫龍かというと、ただ単に紫龍が好きだから(笑)
それにデスマスクに縁深いのは紫龍ですしね。
因みに私はブレザー派です。リボンにハァハァ。チェックのプリーツスカートにハァハァ。