「あ、あそこだよー。有名な占い屋さん」
未来栄光
10:45―――
「、そろそろ時間が」
「あ、ホント。お店開けなくちゃね。、今日のウチの運勢は?」
指された時計を見て、ゆるりとフーディンのの膝の上から降りた。
「・・・今日は・・・早く開けておいたほうがいい」
「今日の占いがそれってわけ?」
「・・・ああ」
すっと目を細めてはの方を見る。
全く真剣な表情を浮かべているが何を考えているのか分かったものじゃない。
占いや未来予知は一級品だがそこら辺が玉に傷だ。
トレーナーでもブリーダーでもないが育てたからこうなったのか・・・それとも元からか。
占いが好きだと言ったら友達のトレーナーが譲ってくれたのだけど、イマイチはのことを分かってやれないのだ。
しかしこの一日の始めにする占いは的中率90%以上で。
言うとおりにすると何かしら良いことがある。
だからはそれに従っていた。
「じゃ、の言うとおり早いトコお店開けましょうか」
そう言って裏口から外へ回る。
『CLOSED』になっている看板をくるりと裏返して『OPEN』にしたところで、少し離れたところから声が聞こえた。
「あ、あそこだよー。有名な占い屋さん」
成る程、一番最初の客を取り逃さずに済んだか。
ドアを開けっぱなしにしては店の中に入る。
小さいころから星の動きを見ることや、カード占いとかをするのが好きでいつかはそういう店を持ちたいと思っていた。
この店は、そんな夢を実現させたの宝物だ。
「、お客様が来るわよ。用意して」
「・・・鍵の客か」
「え?何の話?いいから早くお店に出て・・・!」
ばたばたと慌ただしくを追い立てて準備を整える。
そんな中、この朝第一番の客が店の中に入ってきた。
「・・・いらっしゃいませ・・・」
すうっと通る声でが客を出迎える。
が一見したところ、その客はポケモントレーナーのようないでたちで。
リザードンとサメハダーを従えていた。
ちろりとトレーナーと思しき人物を見た。
若い少女。
「・・・どうぞ」
はすいっと手を動かして客を奥へ促した。
「あ・・・えっと、奥へ行くんですか・・・?」
「ええ・・・どうぞ」
畏まった様子のに恐縮そうに入っていく。
そしてその後ろをついていくリザードンとサメハダー。
見送るはその後姿ににやりと笑みを浮かべ、傍にある別の扉からの元へ向かった。
「と言う訳で、もうこの二人すっごく仲が悪くて!!!」
「おいおい、クラハァ。俺様は俺様なりに気を遣って坊やと同じレベルで会話してやってんだぜぇ?」
「坊や言うな!!!テメェそのうち消しズミにしてやらぁ!!!」
「はは・・・・・・大騒ぎだ」
「・・・誰の所為よ・・・」
それはの占いにがうっかり口添えしたことから始まった。
口添えと言っても、殆ど独り言に近い小さな声で呟かれた言葉だったのだが。
『この結果からいくと・・・その二匹仲悪いな』
このの言葉を皮切りに、それまで緊張した面持ちだった少女が饒舌に喋り始めたのである。
殆どがこのリザードンとサメハダーの話だった。
如何に二人が困った子かをせつせつと訴える少女。
そしてそれを面白そうに眺める。
心底面白そうなを見るのは初めてに等しい。
いつもいつもあまり表情を変えず、ただただと共にいるだけのが少女の言葉を面白そうに聞いている。
なんだかは釈然としなかった。
「そういうわけで、何かいいアドバイスありませんか?」
「えっ・・・えぇっと・・・」
苛々とにばかり注目していたためいきなり話を振られてはどぎまぎした。
やばい、あんまり話聞いてなかった。
焦るには少し笑んで、助け舟を出してやる。
「・・・そこの二匹・・・相性はとても良いですよ。そのままの関係・・・・・・・崩さない方がよろしいかと・・・」
にこりと営業スマイルで少女に言った。
こういう時のの未来予知は良く当たる。
何も分からないときは押し黙って喋ろうともしないのだから。
自発的に喋るのは何かが見えた証。
は慌ててその言葉を追って付け足す。
「仲が悪くとも、相性は良いようですね。存外意外なところから栄光は生まれるものです。そちらの二匹はこれからも互いに高めあうでしょうね」
すると心なしか少女の表情が明るくなる。
「そう言って貰えると・・・なんか自信でました。ありがとうございます」
何処かふっきれたようににこりと笑う少女。
成る程。
は瞬時に理解する。
どうやらこの少女は既に二匹の相性をわかっていたのだろう。
だけどそれ以上に仲の悪さが目に余って迷ってしまったのだ。
そんな時、や自分に促されて・・・答えを出したと言うことだろうと。
占いとは得てしてそういう面がある。
の未来予知のような予言とは違って、占いが占いである以上信じる信じないは本人任せ。
結局のところ答えを出すのは自分自身。
出た易に従っては助言をしているに過ぎないわけだ。
今回の少女は、との意見を信じることで道を見出したと言うことになる。
そして丁寧に礼を言い店を出て行く少女を二人は見送った。
「・・・」
最後まで何処か楽しそうだったに目を向ける。
「ねぇ、・・・」
「・・・何、」
その表情はやはり無表情に近かったが、長いことと共にいたにはちゃんと分かる。
少し高揚したような目をしていることが。
何故だか無性に悲しくなった。
「・・・ごめんね、私才能無いから」
「何の?」
俯いて小さく言うを見下ろし、は薄く笑う。
「ホントは・・・戦いたかったんでしょう?あのトレーナーの女の子みて凄く楽しそうだった。あの子達とバトルしてみたかったんでしょう?」
「・・・そんなこと、ないよ」
の声が震えた。
顔を上げられない。
もし今が困った顔をしていたら立ち直れないかもしれないと思った。
いつもの無表情でいて欲しいと願いながらもは顔を上げないまま言葉を続ける。
当のは・・・薄笑いを張り付かせたままだった。
「でも楽しそうだったわね。・・・私、アンタが分からないわ。いつまで経ってもそう。私といて満足なのか不満なのかすら分からない・・・」
「・・・」
「私はトレーナーじゃないから満足に戦わせても上げられない。本当は・・・彼女みたいな人間に拾われたかったんでしょう?」
が吐き出すように言うと、はそっとの頬に手を寄せた。
そしてすっと自分の方を向かせると、にこりと微笑んで口を開く。
「・・・それって、嫉妬?」
かっとの頬が赤く染まった。
初めて会ったばかりの少女に嫉妬してるなんて見抜かれたことが恥ずかしかったからだ。
思春期の子供でもあるまいしましてや自分の持っているポケモンに対しての嫉妬心なんて。
言葉を返せないの態度を肯定と取ったはますます嬉しそうに笑う。
「、今日はこれで店閉めた方がいいよ」
「・・・それも、未来予知?」
「どうかな」
店を開けてまだ30分くらいしか経っていない。
開けるまでは早く開けた方が良いと言い、そして今は閉めろと言う。
「、アンタの我が儘聞いてる気分じゃないのよ」
「そう?だけど・・・すぐに気分は良くなる、よ?」
言いながら、はを自分の方に抱き寄せ、顔を近づけてくる。
「っ、ちょ、・・・っ」
驚いたのはだ。
キスされる!
と、思い反射的に逃げようとしたが体が動かない。
「・・・サイコキネシス・・・っ」
「・・・・・・当たり」
がそう言うのと。唇が重なるのとはほぼ同時だった。
「っ・・・」
しっかりと抱きしめられたはを押し返そうとするがびくともしない。
それどころか腕の拘束は強まるばかり。
「んっ、ぅ・・・ふ・・・」
そっと唇を割られ、の舌が遠慮がちに絡まった。
何度も角度を変えて求められる。
その度に悦んでいるような声が漏れては恥ずかしさに涙が出そうだった。
「っは・・・」
しばらくしてようやくが離れる。
僅かに潤んだ目で睨みつけるが全く効果は無いようで。
ただ嬉しそうに笑っているのみ。
「っ、・・・今日はやけに笑うのね」
「・・・朝の未来予知、100%の大当たりだったから・・・ね」
そしてもう一度触れるだけのキスを落とす。
「やっと、大好きなが・・・・・・俺のものになるんだ」
ぼそりと呟いて、またを抱く腕に力を込める。
「な、何言ってんのよ・・・!好きとか・・・俺のものとか・・・っ」
「だっても俺のこと・・・好きだろ?・・・あんな、さっきの小さい女の子に・・・嫉妬、するくらいにさ」
「・・・」
「戦うの好きだよ。だけど・・・の傍にいるほうがもっと好きなんだ・・・。戦ってる時よりも・・・もっと、安らぐ」
幸せそうに囁かれるの言葉。
戦いよりも安らぐってどんな比喩だ、とは思いながらもあえて突っ込まずを戸惑いがちに抱き返す。
「100%大当たりなんでしょ。私の次の言葉も知ってるわけ?」
拗ねたような言葉を返しながらはの胸に顔を押し付ける。
おそらくはこの後の言葉も知っているのだろう。
しかしきっとこう言うんだ。
少し悪戯っぽい笑みを浮かべて。
「・・・どうかな」
「ふふ、やっぱり。そういうと思った。・・・、少し離して。分かってるんでしょう?」
すると途端に体の自由が戻ってくる。
の腕をすり抜けて、はそっと店の入り口に向かった。
『OPEN』だった看板を『CLOSED』に変える。
「今日は臨時休業にするわ」
そういってを見てにっこりと笑って見せた。
そしてそのままと一緒に奥の部屋へ消えた。
普段。
との部屋は別々だった。
勿論が小さいころは一緒に寝起きしたりしていたけれど。
進化が始まってからは部屋を分けた。
それはひとえににも親離れしてもらおうという気持ちからそうしたのだが。
今日は久しぶりにを部屋に招きいれた。
「・・・俺・・・この部屋、大好きなんだ・・・。の、匂いでいっぱいで・・・」
「・・・変態っぽいこと言わないでよね」
に押し倒されながら、は困った表情を浮かべた。
「昔からずっと・・・好きだった。誰かに取られるんじゃないかって・・・ずっと怖かった」
「・・・」
確かに部屋を分けた時、男が出来た。
結局続かなかったけれどを追い出したこの部屋で何度か抱かれた。
「もう・・・俺だけの、モノだ・・・。・・・大好きだ」
素直な告白にの頬が少し赤くなる。
の顔がゆっくりと近付けられる。
嗚呼、距離が縮まっていく。
きっとまだまだのことを分かってやれないことにも遭遇するだろう。
だけどコレだけは100%的中だ。
これから始まる二人の栄光の日々だけは。
========
実はユンゲラーもフーディンも、ジジィなイメージがあります。
しかもちょっと中国系の。なんでかっていうとあの髭なんですけどね!あの髭・・・!!
ベースは狐ちゃんなんだろうなって思っているんですが、何は無くともあの髭がね!髭が!(髭髭うるさい)
あれで一気にイメージがジジィに。
因みに今回のフーディンは変わり者ですが別段ジジィというわけではありません。(枯れてないし←下品)
今回はちょっと年下っぽいモンスターと年上っぽい飼い主目指してみました。