「ウサギさん?」





彼女の第一声が、ソレだった。








ウサギ





既に時刻は夜の2時を回っていた。

「ねぇ、ウサギさん」
突然現れた女に一瞬肩が反応してしまった。
振り返れば、真っ黒なロングワンピースを闇夜に溶かしながら立つ少女。
唯一長い金の髪だけが月の光を弱々しくも反射させている。
「俺の名前はウサギじゃなくてラビさ、ちゃん」
にっこりと無害に微笑むを見上げげんなりとするラビ。
ワンピースの裾がひらりとはためき、彼女が隣に座り込む。
「その槌、ウサギさんにぴったりだと思うの」
「・・・はぁ」
の指差す先にはラビの対アクマ武器。
今は小さくされて右足のホルダーに挿されている、ソレ。
ちらりとラビはそれを手に取り、の顔と槌を交互に見る。
「何故って顔だね」
するとはすっと手を空へ差し出した。
天上に見える月を示し小さく笑う。
「ウサギは月でお餅をつくのよ。ね、ぴったりだと思わない?」
途端にラビの顔に苦笑いが張り付く。
裏腹はにっこり笑う。
ちゃん、俺はウサギじゃないってば」
「・・・そうね」
月を見上げ目を細めるは、肯定の返事はしたものの何処か上の空である。
可愛らしい顔だと思う。
だけどラビは知っている。
その鬱陶しいほど長くて綺麗な髪が隠す右目には。
対アクマ武器に不可欠なイノセンスが埋まっているんだ。
醜く赤黒い眼球を見せないように、細心の注意を払いながらいつだって気を張って。
それは彼女が女の子だから。
そして過去があるから。
イノセンスの所為で何度彼女は拒絶され続けたのだろう。
仲間ばかりのこの本部ですら彼女は気を休めることがままならない。
極力拒絶されずに済むよう振舞う・・・そんな習慣が染み付いているんだ。
可哀想に。
嫌われるのが怖くて、仲間を失うのが怖くて、なんて。
ここには敵なんていないのに。
ちゃんの方がウサギみたいさー」
「・・・え」
突然のラビの言葉に弾かれたように顔を向ける。
月が照らすラビの顔は悪戯っぽく笑っていた。
「笑顔の裏に臆病を隠して・・・寂しかったら死んじゃいそうで」
ラビの手がにゅっとの頬に当てられる。
何をされるか悟った瞬間、ラビの手がの髪を掻き上げていた。
ひっとが息を飲み可愛らしい顔をひきつらせる。
「誰も彼も、怖いんだ?」
堪らずにっこり笑って言うラビの払いのけた。
密やかな胸のうちを白昼に晒されたようで、心拍数が上がる。
対アクマ武器になってしまった右目に映るラビの顔は、何故にそんなにも穏やかなのか。
裏腹は怯えるように。
じりっと後ずさったが立ち上がるより早くラビの手がの肩を掴んでいた。
オレンジの髪の間から、彼の双眸が・・・を捕らえて。
更に肩をつかんだその腕までもが、を捕らえようと引き寄せる。
ものすごい勢いできつく抱きしめられて。
それはもう息も止まるかと思うほど。
「俺も怖い?」
「・・・」
抱きしめながら見下ろしてくるラビは自嘲気味に笑って見せた。
頼りなく細められる視線に僅かに安心する。
「離・・・して。お願い」
「イヤ」
ラビの返答に体が強張る。
「・・・可愛いウサギちゃんが助けを求めてるんさ。俺そういうの無視出来ねぇし?」
「それって私のこと?」
「他に誰かいる?」
誰もいない。
だけだ。
真夜中の、静かな静かな暗がりには。
ラビとたった二人しかいない。
誰も、聞いてやしないんだ。
その事実に気付いたの口がおずおずと開かれた。
「・・・私、仲間よね」
「うん」
「ここに居てもいいのよね」
「ああ」
髪を撫でられながらは小さく声に出す。
その声は徐々に震え始めて。
「・・・嫌われたくないの・・・何でもするから、拒絶しないで」
「しねぇし。なんで俺がちゃんのポーカーフェイス見破れたか分かってんの?」
指先で涙を拭ってやりながらラビがはにかむように笑った。
「え・・・」
「つまり、こういうことさぁ」
はにかんだ表情のままラビが顔を近づけてきて。
あ、と思ったときには触れていた。
初めての経験なんかじゃなかったけど、思わず頬が熱くなる。
「な・・・何するの・・・不意打ちなんて卑怯だよ」
驚きすぎて涙も止まっちゃったわ、なんて言うは言葉の割りに怒った表情は見せていない。
だけど少し熱くなった頬を見られたくなくて俯いた。
「私もウサギさんが、好き・・・かも?」
「かもかよ!」
真夜中なのに声をあげて笑いあってしまった。
はっと気付き二人して口に手を当てるがもう遅いかもしれない。
安眠を妨害するつもりなんて二人にはなかったのだが。
「・・・もう戻る」
「へ?」
やんわりとラビの手を解きながらは言った。
どこか吹っ切れた表情でラビを見上げて、そう言った。
「ちょ、ちょっと待てよ!そりゃねぇじゃん!!」
離れていくの腕を掴んで慌てて引きとめる。
「・・・何で?」
「いや、仮にももうコイビトだろ!?そんなあっさりされっとちょっと傷つくなぁ、俺〜」
「じゃあどうすれば良いの」
つかまれた腕とラビを困った表情で交互に見る。
の言葉にラビは少しだけ考えたそぶりを見せ、悪戯っぽくにやっと笑った。
「俺のこと、名前で呼んで?そしたら戻ってもいいさぁ」
「そんなこと?じゃあ―――――」






「ラビ」






初めてがラビの名を呼んだ瞬間だった。
少し照れたように視線を下に向けて、小さく名前を呼ぶ。
「ね、これでいいでしょ」
照れ隠しのように慌ててラビの手を振り解こうとするが、何故かラビの手は解けない。
「・・・ちょっと、戻って良いって・・・」
「ああ・・・じゃ、戻ろっか?」
「え」
言うが早いかラビはぐいっとを引き寄せ抱き上げた。
所謂お姫様抱っこ状態だがあまりの素早さには一瞬何をされたのか分からない。
「ちょっ!やだ!!下ろして・・・っ」
「はは、暴れると落ちんぜ〜」
を抱きかかえながらひょいっと中に入っていき、そして。
ある部屋の扉を乱暴に蹴り開けて、入り込む。
「はぁ〜い。ようこそ、俺の部屋へ!」
嬉々としてラビはをベッドの上に下ろした。
少しの散らかりようは見せているが、自分の部屋となんら変わりない部屋に。
ようこそもなにも目新しいものなんかないじゃないかとか、思いながら。
「戻っていいって言ったのに」
恨みがましい目でラビを見上げる
だけどそんなことを気にする男でもないし、それに。
「部屋に戻っても良いなんて言ってないぜ〜。中には戻ったろ?」
口も上手かった。
は騙されたような気分になって、顔を顰める。
「いっやぁ、俺も名前呼ばれただけであんなにクるとは正直思ってなかったんさぁ」
「え・・・?」
ニヤニヤ笑いながらベッドの上のににじり寄り・・・。
実は物凄く危ない体勢でいるのではないかと気付いたが逃げようとしたときにはもう遅い。
何でも後手後手に回ってしまう自分を呪いながらはラビに捕まった。
「俺、大分ちゃんにイカレてるみたいなんさ。だから逃げないで?ね?」
自分の体重でをベッドに押し付ける。
そして妖しく光るウサギの目がを捕らえて離さないのだ。





「俺のウサギちゃん、いただきます♪」







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教団内のことはよく分かりません(汗。
うちの頭にべっとりとこびりついている教団イメージが実はダレンシャンです。バンパイアがいっぱいいたあの総本山。
ダレンっぽいイメージがどうも払拭できずに困っています。
ていうかラビの喋り方良くわかんないし、ヒロイン設定微妙だし・・・っ、土下座土下座。
ラビさー・・・なんていうか、あの喋り方・・・天×っぽくないですか・・・?(禁句?いつか俺っちとか言うようになったらどうしよう/笑)下手くそでゴメンナサイ。
目が対アクマ武器ってどういうことなんでしょうね。ビーム出るとか?
ところで・・・寸止めっつぅか描かずに終わらせてしまいましたが・・・続き書いた方が良いのかな。
Dグレ読んでる人が少ないとは言わないけど、まさかうちのサイトにそれを求めてくる人なんかいない気がするし・・・うーん(苦笑)