二代目様
「嫌!!どんな事情でもそれだけは!!!!」
あたしは代々「ブックマン」と言われる特殊な血族に嫁いでいる家系の長女。
母様から昨日お達しがあった。
どうやら明日、私はその「ブックマン」にお会いしなければならないらしい。
心の準備も出来ぬままに・・・なんて。
そんなの嫌よ。
向こうにどんな事情があるにしてもこんなに早くだなんて!!
「姉様、もう16歳でしょ?立派な大人じゃない。我が儘言わないの」
ケラケラ笑いながら他人事だと思って妹が私に声を掛ける。
「そりゃあアンタはあたしと違って普通に普通の人に嫁ぐんだからいいじゃない」
1年生まれるのが違うだけでこの違い。
代われるものなら代わってもらいたい。
嗚呼だけどあたしはこの家の長女なのだ。
「でも姉様、私は次の代の姉様を産むためのプレッシャーと戦わなくちゃいけないのよ?姉様は次のブックマンを産むだけだから楽で良いじゃない」
まあ、そうだけど。
どちらにしても自由に恋愛の出来ないこの体が恨めしい。
妹はお見合いするんだから或る程度の自由はきくと思う。
だけどあたしは「ブックマン」ただ一人・・・!
どうしようもない乱暴男だったり、女狂いだったり、年下の貧弱な坊やだったりしたらどうしよう・・・。
愛せなくても一生を捧げなければならないし。
しかも子供まで・・・!!
嗚呼だけど言えやしない。
だってあたしの事情なんて・・・この家には関係ないんだから。
次の日。
母様と父様への挨拶もそこそこに、一人の老人と男性があたしを連れて行った。
その老人は「ブックマン」を名乗りあたしに悲鳴を上げさせかけたが、どうやらあたしが嫁ぐのは2代目らしい。
この老人ではないそうだ。
良かった・・・いくらあたしが若いとはいえ流石にこのおじいちゃんの子供を妊娠できる自信などない。
「あたしはです。どうぞよろしくお願いいたします」
深々と頭を下げる。
「俺はラビ。このブックマンの従者で18歳さぁ」
「そうですか・・・よろしくお願いいたします。ラビさん」
「ラビでいいよん。その代わり俺もって呼ぶからさ。いいかな?」
「どうぞ・・・。ところでその2代目様はどちらに?」
きょろきょろと見回したがこの二人しかいないようだ。
「今は来てないんさ。本部でお待ちだよ」
ラビが言う。
正直、自分の花嫁くらい自分で迎えに来たらどうなのかと思ったが口にはしない。
にっこりと二人に笑みを返し、「そうですか」とだけ行っておいた。
汽車に乗って本部へ向かうのだそうだ。
「まぁ、2日もあれば到着するさ。ちょっとしんどいかもしんないけど我慢してくれよ」
自分で言うのもなんだが箱入りで世間知らずのあたしに色々気を遣ってくれるラビ。
いい人だなぁと思う反面、ますます2代目様への反感が募ってしまう。
本来ならそこにいるべき立場なのはアンタじゃないの?とか。
まあ仕方ないか。
愛せようと愛せなかろうと、あたしの人生はあたしのものじゃないんだから。
それは幼少より聞かされ続けた呪いの呪文だ。
あたしの人生、あたしの体、あたしの心は全て「ブックマン」の為に使われる道具と同じなのだと。
汽車に乗ってしばらくしたら1代目様の姿が消えていた。
「あれ・・・?1代目様は・・・」
「ん?さぁ?1代目は神出鬼没ですぐにどっか行っちゃうんさ。それよりも・・・聞きたいことがあるんだけど」
「なぁに?」
ラビが少し真面目な顔であたしに顔を近づけてくる。
「実際この結婚どう思ってるんか教えてくれない?」
「・・・え」
小声で人目を憚るように言われた質問。
戦慄が走ると同時に嫌な汗をかいたのが分かる。
勿論質問の意味は分かるが、真意が分からない。
「どういう・・・こと?」
つられて小さい声で聞き返した。
「そのままの意味さぁ。大丈夫誰にも言ったりしないから少しだけ教えて?」
「な、なんでそんなこと言わなきゃいけないの・・・?」
心の中を見られているようでビクビクしながらあたしは言い返した。
誰にも言わないなんてそんな、いきなりそれを信用することも出来ない。
まさかあたしを疑っているとかそういうことは無いと思うけど、もしこの質問をすることをラビに命令しているんだったら2代目様は最低だ。
「いやぁ実は俺さ、この結婚反対なんさ」
「え」
「は可愛いし、まだ将来もありそうだし・・・このまま嫁ぐなんて可哀想だからなー。まあが本気で嫁ぐって言うなら2代目は大喜びだけどさぁ」
は〜ぁと盛大に溜め息を吐いて見せるラビの言葉は、あたしの警戒を解くのに十分すぎる内容だった。
あたしは1代目様が戻ってこないか通路をきょろきょろと見回してラビの隣に座りなおす。
そして更に顔を近づけて小声でラビに話しかけた。
もう猫を被ることも忘れて。
「・・・本当はね、全然乗り気じゃないわよ。でも家の命令は絶対だから・・・」
「やっぱり?」
あたしが話したらラビは複雑そうな表情を示した。
なんていうの、嬉しさと困惑が入り混じったような・・・。
まあ当たり前か。
主人に輿入れしようとしている女が「実は乗り気じゃない」なんていったらそうなるものなんだろう。
「せめて迎えに来てくれるとかさ・・・。うん、そう・・・ラビみたいな感じだったら喜んでお嫁に行くのになぁ」
「えっ!?」
あたしがぼそりと呟いた言葉にラビは驚いたように声を上げる。
「え?だってさ、ラビはあたしに色々気遣ってくれたし。気のおけない感じだし?ぶっちゃけ女の子にもてるでしょ?2代目様もそれくらいいい男だったらいいんだけどなー」
「・・・ちょ、。褒めすぎさぁ」
ラビが照れたように笑っている。
ああ、なんかいい笑顔だなぁって思った。
「・・・でも、本当に2代目様には内緒にしてね?今言ったこと。破談にされたらあたしあの家に殺されるから」
ね?と、ラビに向かって言った。
すると彼は少し困ったような表情をする。
え、何、その顔。
嫌な予感にあたしの顔から笑みが消える。
「・・・それ、ちょっと無理かもしんない」
「え!?な、何ソレ!!!だって、ラビが誰にも言わないからって・・・!!」
騙された。
あたしは直感的にそう感じ取ってシートから立ち上がる。
そのあたしの腕を掴み、ラビは小さくごめんと謝った。
「いや!謝られても!!!何、何のつもりなの!?2代目様に命令されてあたしから聞き出したわけ!?」
「や、そういうことじゃなくてさぁ・・・、落ち着いて?」
落ち着けるわけが無い。
家に殺されるんだ殺されるくらいなら自分で死んで・・・嗚呼薄幸な人生だったなぁていうか2代目最低!
ぐるんぐるん色んな思考がいっぺんにあたしの中に浮かんでは消える。
ラビはいきなりパニックを起こしているあたしを抱きしめた。
「ちょっ!何よ!!2代目様が聞き出せって命令したんでしょ!!いいわよ、そんな最低男こっちから」
「・・・!ごめん、聞いて欲しいんさ」
あたしの言葉を無理矢理遮ってラビはあたしをすまなそうに見る。
何よ、そんな顔されたらあたし何も言えなくなっちゃう。
悪いのはあたしじゃないのに。
「・・・まずは・・・騙しててゴメン。信用してもらえないかもしんないけど俺がその2代目なんさ」
「・・・えっ・・・?」
ぴたっとあたしのマイナス思考が止まった。
ラビはそのまま話を続ける。
「でも正直が喜んで嫁いで来てくれるとは思えなかったんさ。だから2代目ってことは敢えて伏せて・・・その、本音を聞こうと・・・」
「な・・・何ソレ・・・っ、結局あたしを試したんじゃないの・・・!」
「・・・ごめん・・・。でもが本当に嫌がってるなら一度家に帰してあげようかと思ってたんさ!まだ・・・早いかなって・・・でも・・・」
言いよどみ、ちろりとあたしを見る目が少し和らいだ。
「でも・・・俺なら良いって言ってくれただろ?嬉しかったんさ・・・だから、黙ってられなくて・・・」
「・・・だけど、どっちにしろ最低よ・・・!」
びしりとあたしが言い放ったら、ラビはうっと言葉に詰まり悲しそうな表情をする。
試された感が否めないのは腹立たしい。
だけど頭の隅では分かっているんだ。
ラビは優しくて思いやりがある人。
後で自分が責められることになるのは分かっていても、あたしのことを考えてくれたんだということが。
仕方ない。
少し俯き加減のラビにあたしはにっこりと笑って見せた。
「そうね、あたしのことお嫁さんにしてくれたら許してあげるわ」
「・・・へっ?」
弾かれたように顔を上げるラビ。
「幸せにしてね?」
流石にちょこっと恥ずかしかったから俯き加減に言って、抱き返す。
対するラビの返事は優しい笑顔と共に。
「勿論さぁ!」
ああ、やっぱりいい笑顔だなぁ。
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コミックス派なのでもしおかしいところがあっても無視していてくれると助かります・・・。
エロ有りで続きを書く予定☆
て、誰も期待なんかしてないとは思いますけどね(苦笑)