恋愛とは即ち自由を奪う行為也







「あっ・・・ああ・・・」
艶かしい声が響く部屋の中。
綺麗に整えられたベッドの上で、もう何度目かになる彼女の体を貪る。
ぬちゅぬちゅと粘性質な音。
柔らかい体を掻き抱いて、新八は夢中でを揺さぶった。
「はぁっ・・・あァ・・・新、ちゃん・・・っ」
気持ち良さそうに声を呼ばれるたびに体に電気が走るようだ。
「ダメ、もう・・・イく・・・イくの・・・っ」
何時になく性急な新八の動きにはきつく目を瞑った。
―――一週間前の夜。




「あの、なんかすいません」
「え?いいのよ、全然気にして無いわ」
隣で荷物を持つ彼女を申し訳なさそうに見る。
真っ黒な隊服、プリーツのスカートを靡かせてしゃきしゃきと歩くのは新八の彼女であるだった。
年上の女性が恋人である事を銀時には「お前は気持ち悪いくらいシスコンだな!」と言われたが気にしない。
「彼女いない銀さんに偉そうに言われたくありませんけど」とやり返したら頭を叩かれたが。
はサボりついでに新八に会いに来たところ、新八ともども銀時にパシリにされてしまったのだった。
多分道行く人には姉と弟に見られているのだろうなと思う。
それが少し悔しいけれど、は大人の女で自分はまだまだ恋愛の「れ」の字も知らない子供だから仕方が無い。
少し前まで童貞だったし。
「新ちゃん、今晩用事ある?」
「いいえ。まあ何時も通り仕事皆無なんで」
若干投げやりな後半の言葉には苦笑して。
「じゃあ、今晩泊まりにおいでよ」
「!」
一瞬咳き込みそうになるのを如何にか堪えた。
「だって、新ちゃんが泊まりに来てくれたのって最初の1回だけでしょ?」
「はぁまぁあのその」
そどろもどろになりながら新八はだらだらと汗を流しつつ視線を逸らす。
「焦らした後のセックスは気持ちイイけど、あんまり焦らしすぎると浮気しちゃうぞ」
そっと耳元で吹き込まれて新八は真っ赤になった。
そしてから荷物をひったくると。
「ちょちょ、ちょっとかかか考えさせてくださいぃぃぃ!!!」
とかなんとか叫びながら万事屋の方向へ一目散に走り去ってしまった。
残された
「あらら、やりすぎちゃったかしら」
と、苦笑いでその背中を見送る。
「でもあたしも女なんだし、あんまり放置は悲しいもの」
小さく呟いて、真選組詰所のほうへと踵を返しかけた時。
「あら」
タイミングを見計らったかのように携帯メールの着信が。
沖田あたりがそこらへんで見ているのでは無いかと思うくらいにタイミングが良い。
「・・・」
携帯をぱちっと開いて珍しい相手からのメールに少し驚いた。
そして本文を読み終えると小さく溜め息を吐いて。
「やれやれ、仕事・・・か」
どうせ詰所に帰る予定だったけれど。
少し考えさせて欲しいといった新八が少し気になる。
仕事で連絡を取れなくなってしまいそうだからだ。
だけど、仕方が無い。
「給料分は働かないとね」
はひとりごちて、小走りに詰所へ向かうのだった。



「何でお前一人なんだよ」
「・・・聞かないでください」
「喧嘩か?」
「違います」
結局大荷物を抱えて帰ってきたのは新八一人。
銀時は興味があるのだか無いのだか判らない感じで聞いてくるが、新八は理由を銀時に言うつもりはなかった。
冷蔵庫に食材を詰め込みながらの言葉を反芻する。

『浮気しちゃうぞ』

「・・・」
きっと、本気じゃない。
駆け引きってやつだ。
新八は言い聞かせながらになんて返事をしようか悩んでいた。
別に泊まりに行くのは嫌じゃない。
しかしお妙の目が痛いことも確か。
流石に女の家に泊まるとは言いづらく、銀時の家に泊まると言った後で嘘がバレるのも嫌だ。
無言で朝帰り・・・出来るわけ無い。
「・・・はぁ・・・」
「新八ィー」
こっそり溜め息をついていると横から神楽が声を掛けてきた。
「どしたの、神楽ちゃん」
「定春が牛乳全部飲んじゃったアル。買って来いヨ」
「・・・あのね、僕今買い物終わらせてきたとこなんだけど」
今正にレジ袋から食材やらを出している真っ最中。
ぶっちゃけもう万事屋出るの面倒くさいんだけど。
そんな雰囲気をありありと醸し出すが、神楽はそれに気付かない。
気付かない振りかもしれない。
「ワタシも牛乳飲みたいネ。牛乳飲まないとおっぱい大きくならないアル」
「・・・それ、誰から聞いたの?」
予想できるが。
アル。おっぱい大きくなったら金持ちの男捕まえてブイブイ言わせるネ!新八にもちょっとは恵んでやるアル」
「・・・」
予想通り過ぎてどっと疲れる。
「楽な生活したかったら牛乳買って来るアル!!」
言い出したら聞かないだろうな・・・。
新八は仕方なく財布を手に取った。
「銀さん、僕ちょっと牛乳買ってきますから。今日の食事当番銀さんですから!ちゃんとやってくださいよ!!」
万事屋出る間際にそんな捨て台詞。
でも言っておかないとやらないわけだ。
言ったって気が乗らなければやらなかったりして。
やれやれ、恋人に対しても生活面でも問題は山積みだな・・・なんて思いながら、一番の問題はきっとなんだ。
万事屋に一番近いコンビニに向かいながら新八はまた小さく溜め息を吐いたその瞬間。
「あ、あれ・・・?」
ふと見た先には見慣れた顔が。
・・・さん?」
しかし一人ではない。
隣にいるのはよく真選組副長に殴られている。
「山崎さん?」
も山崎も私服で腕を組みながら歩いているではないか。
「・・・」
勿論気になる新八は牛乳の事などすっかり忘れて二人の後ろをついていった。
後ろから見ていると楽しそうに喋っている様子が見て取れる。
若干面白くないものを感じつつ、新八はふと自分を顧みた。
山崎とが並んで歩いている姿はばっちり恋人のように見える。
腕を組んでいるからかもしれない。
周りの人間はきっとこの二人を恋人だと認識しながら見るともなく見ているのだろう。
しかし、違うのに。
本当の相手は。
「・・・僕なのに」
知らず口から漏れた言葉に新八自身少しだけ驚いて、少しだけ納得した。
本当に好きなのだ。
余裕は無いけど、自信はある。

『浮気しちゃうぞ』

「・・・そんなの許しませんよ。さん」
それだけは言える。
色々と不自由な純情坊やかもしれないけれど、に応えられていないかもしれないけれど。
まだ恋人同士じゃないか。
しかし二人を追っていくうちに新八はだんだんと不安になってきた。
だって・・・。
「なんで・・・ホテル街・・・?」
意気込んでた気分が不安に萎みそうだ。
そんな新八の気持ちも知らず、とうとう二人は一軒の城の中へと消えてしまったのである。
「・・・」
こういうときに開いた口がふさがらなくなるのだろうか。
新八は二人が入っていった城を呆然と見つめるしか出来なかった。



「退君、これで良かった?」
「ええ、助かりましたよ。じゃあ俺協力者さんから情報貰ってきますんで」
山崎から仕事で着いてきて欲しいところがあるとメールがあった。
事情を聞いてみれば、協力者が連れ込み宿で情報を持って待っているという。
成る程、そこは一人では入れない。
いや、入れなくも無いが監査の山崎が目立っていては困るわけで。
そこでたった一人の女性隊士の出番と言うわけだ。
それにしても高そうな連れ込み宿を選んだものだ。
相手の男は相当な・・・。
・・・と、の思考が止まる。
「なんだか外が騒がしいわね・・・」
どたどた何かが走る音?
しかもこっちに近づいて・・・。
さん!!!」
山崎が出て行ったところで鍵を掛け忘れていたのであろうドアを勢い良く開ける者、それは新八であった。
「しっ、新ちゃん・・・!?」
「僕が返事しなかったから山崎さんと浮気するんですか?!」
「えっえっ・・・?」
「山崎さん何処なんですか!?」
「さ、退君なら今は仕事で・・・」
新八の剣幕に思わずも息を呑んだ。
後ろにはこの連れ込み宿の店員のような姿も見える。
困りますよーだとかなんとかお決まりの台詞を並べているようだ。
「新ちゃん、何でここに・・・」
「何でって・・・」
キョロキョロと辺りを見回しても山崎がいない。
さんと山崎さんが手を組んで歩いてたから・・・」
しかし山崎がいない。
見間違いではないはずなのに。
「新ちゃん、ちょっと落ち着いて話聞いてくれる?あ、店員さん、もう大丈夫なんで。お騒がせしましたー」
にこやかに店員を追い返す
まあ店員もこういう事態には多少慣れているのだろう。
あんまり派手に揉めたら警察呼びますからねとかなんとか言ってドアを閉める。
警察なら目の前にいるわけだが。
「はい、新ちゃん座って」
「・・・はい」
ぽふぽふとベッドの端を叩かれて新八はそこに座った。
「あのね、あたしと退君は今仕事中なのよ」
「!」
「このお店に情報提供者がいるの。その人に会うためにね、怪しまれないように二人で来たの」
ああだから山崎がいないのか、と理解すると同時に新八は気恥ずかしくなった。
なんだ浮気なんて疑ったりしてさ。
にかなり申し訳ない気分だ。
「あたしが浮気したと思った?」
「・・・少し、だけ」
「で、こんなとこまで来てくれたのね。うふふ、良かった」
「え・・・」
「新ちゃんが諦めたりしなくて。嫉妬してくれて。取り返そうとしてくれて。あたし、嬉しいよ」
にこっと微笑んではそっと新八の唇に唇を重ねた。
柔らかい感触を受け入れる。
ちゅ、と小さな音。
「ね、折角だしここ使っちゃおうか?」
「ええっ、で、でも仕事・・・」
「大丈夫大丈夫。退くーん、聞いてたら先帰っててー!」
本当に扉の外に山崎がいるのかどうかも定かでないのに一方的に言うだけ言って、は新八の体を抱きしめた。
「あたしずっと待ってたのよ。ね、愛してくれるでしょ?」
にこっと笑われると、もう如何にでもなれと、新八はをベッドに押し付けていた。
ふわりとの香りが揺れる。
女性というものはどうしてこんなにいい香りがするんだろう。
くらりと仄めかされて新八は目を細める。
さん・・・」
「女をあんまり待たせちゃダメよ。・・・早く」
首にの腕が回る。
きつく抱き合って、柔らかく唇を奪った。
「・・・ン」
唾液を含ませた舌をそっと絡ませあう。
クチュクチュと小さな水音が静かな部屋に響いた。
着物の合せ目を広げて、の豊満な胸を優しく揉みしだく。
「あ・・・新ちゃん・・・」
下着の隙間に手を差し込んで直に愛撫すると、首に回された腕にぐっと力が篭った。
柔らかな膨らみを弄る掌にはぷくりと膨らみ始めた乳首の感触も加わる。
きゅ、と摘み上げるとは切なげな溜め息を漏らした。
「・・・ハァ、ん・・・あ、あぁ・・・ン」
くにくにと指でこね回すと、は眉を寄せて身じろぎする。
膝を擦り合わせながら時折背をしならせて・・・。
催促されているようだ。
ごくりと、新八の喉が鳴る。
着物の帯を解くのもそこそこに、そっと肌蹴た太股を撫でていく。
優しいけれど好色な手つき。
思わず腰が震える。
「新ちゃん・・・っ、あ・・や、早く・・・」
の声に急かされるように、新八はの下着の上から、そっと溝をなぞった。
触れただけで分かる。
如何に期待しているか。
「・・・さん、凄く濡れてますね」
「だって焦らすんだもの・・・」
新八は少しだけ笑むと、の下着をするりと脱がせた。
甘く誘うような女の匂いが鼻腔をくすぐる。
「・・・入れますよ」
誘われるようにの体の間に自らの体を捩じ込んで、そっと耳元で囁いた。
「早く・・・っ」
欲しそうに揺らめく腰に自分の腰を押し付ける。
ぬぶぬぶと苦も無く埋まってしまう新八自身。
「あぁぁっ・・・!」
欲しかった感触を与えられての体は弓なりにしなった。
挿入の瞬間の快感は言葉に言い表せない。
ゾクゾクと震えるほどの快感には甘い喘ぎを漏らした。
「あっ・・・あぁ、新ちゃん・・・凄く、イイわ・・・」
にゅるにゅると擦れあって交じり合う事を深く実感する。
「はぁっはぁっ・・・あはぁぁ・・・、イイ・・・っ」
緩やかにかき回す新八には催促するように腰を浮かせた。
「新ちゃぁん・・・ああ、もっと・・・激しくして、壊れるくらい・・・突いて・・・ェ」
「ええ、分かりました・・・っ」
に請われ新八もスピードを上げる。
――ぐじゅっぐじゅっ、ぬぷ、ぬちゅっ
ベッドが悲鳴を上げている。
いや、これはの喘ぎ声かな?
もう新八にも分からない。
ただ絡み合う粘膜の快感と、熱くて滑るの感触。
何もかもがない混ぜになってどろどろ融けて。
「新ちゃんっ、ダメっ、イ・・・っちゃう、イく・・・っ!!」
ぶるっとが震えてびくんびくんと痙攣する。
「っあぁっ・・・あ・・・は、ァ・・・」
新八もほぼ同時に射精していた。
一週間振りかな、なんて考えながら、の中で。
はぁっはぁっ、と荒い呼吸でを見下ろす。
穏やかな笑み。
ああやっぱり愛している。
そっとにキスをした。
「・・・!」
瞬間気付いた。
そういえば・・・牛乳。
っていうかやばい今何時だ。
「どうしたの?新ちゃん?」
「え、いや・・・」
「ねぇ、すごく良かった。次はお風呂でもっとじっくり楽しまない?」
折角広いお風呂があるし、ね?
なんていう愛しい彼女。
「・・・」
断れないじゃないか。
しかしこのまま万事屋に帰らないと後で何て言われるか分かったものではなく。
新八はだらだらと冷や汗を流しつつ、に返事も出来なかったのである。






=====================
新八あんまりにも裏夢無いので自家発電。
多分需要が無いからだと思うの。
新八結構好きなんだけど、やっぱ彼は童貞であって欲しいとかそういう感じなのかな?