恋をしたい。
愛を知りたい。
いっそぐにゃぐにゃと何もかもが蕩けて見えるほどの。
甘い、熱い、夢のような・・・。
恋をしたい、愛を知りたい
緩やかに流れる赤い雲が一筋。
肌寒くなり始めた乾いた空気。
嗚呼、もうすぐ秋が過ぎる。
夜は長く、影を落として。
真夏の日差しは、結局何も届けてはくれなかった。
「過ごしやすい季節になってきたわね」
夕方の涼しい風を受け止めて、そう声を掛けて来たのは姉だった。
「・・・お姉ちゃん、帰ってきてたの?」
「うふ、ただいま」
姉は綺麗に笑って見せた。
三ヶ月前に結婚した姉が、何故家にいるのだろう。
考え付くことは、やはり。
「・・・もう旦那さんと喧嘩したの?」
「そんなわけないでしょ。仲良くやってるわよ」
「じゃあ何で?」
新婚の姉が実家に帰ってくるなんて、それ以外に考えられない。
仲良くやっているというなら尚更だった。
「にちょっとお願いがあってね」
ちょっとだけ笑った顔を困った顔に変え、姉はに一つのモンスターボールを見せた。
何の変哲も無い、ただのモンスターボールである。
「モンスターボール?」
「そうなのよ。あの人が預かってきちゃってね・・・。でも・・・、ほら、分かるでしょ」
「・・・何が?」
「あん、もう!分かってよ。新婚生活にこういうの邪魔で困るのよ。だからさ、が預かってくれない?」
「あたしが?」
姉の言い分は分からなくも無いが、急に言われてもも困る。
自由気ままに生きて勝手に結婚をした姉とは違い、は家業であるポケモンの医療施設を継ぐつもりだった。
そのために来年は難関の医学校へ進学するつもりで準備している。
勉強も忙しく、合間には父親を手伝って医療の現場にも顔を出しているは、同年代の子よりも格段に忙しい生活を送っていた。
その上でポケモンの相手など出来ようか。
「あたしも無理だよ・・・。あたしが今必死なのお姉ちゃんも知ってるでしょ」
「そこを何とか!ね、お願い!!」
「・・・」
生来押しに弱いは、ここで断る事など出来ないのだろうなと漠然と感じた。
しかし、抵抗も試みた。
「・・・やっぱりダメ。だってあたしは勉強もあるし、お父さんの手伝いもしてるもの」
「あん、そんな意地悪言わないで!助けると思ってさ・・・ねっ!?」
整った眉が緩やかにカーブを描いて、懇願するように垂れる。
願うように目の前で合わされた手の爪は綺麗なピンク色だ。
閉じられた目の上には薄っすらと紫のアイシャドゥ。
助けを請う唇は爪と同じく艶やかなピンクで。
は姉はやはり綺麗だと思った。
そしてそんな姉に頼まれたら、きっと男性は二つ返事で何もかもを投げ出してしまうのだろうな・・・とも。
「・・・分かった・・・」
諦めの境地では渋々了承する。
その声にぱっと顔を輝かせた姉は、更に綺麗に見えた。
小さい頃は、どうしたらそうなれるのだろうと常に思っていたが、今ではそれも空しいだけで。
この姉が傍にいる限り、自分というものが輝く事は決して無いと、は常に思っていた。
(もうちょっと、あたしのこと考えてくれてもいいのに)
姉の癖に姉らしくない姉。
子供のようで自由奔放。
綺麗で、いつも中心で。
(・・・)
嗚呼、この気分は何だろう。
不安と緊張感と、劣等感の入り混じったような焦燥感。
この気分に名前をつけるなら、なんと言えばいいのだろう。
「じゃあ、よろしくね。あの人にはちゃんと言っておくから!あ、エサ代とかはこれで払っていいからね」
表情を凍りつかせるに姉はカードを握らせた。
はクレジットカードなど持った事は無かったが、特に何も言わないでおいた。
「じゃあ、あたし帰るね。・・・あ、そうそう、その子グラエナだから!仲良くしてあげてねぇ!」
帰り際の姉の言葉にはぎくりと反応した。
グラエナ?
グラエナって・・・。
「・・・」
ほら、案の定じゃない。
はモンスターボールから出したグラエナを見てげんなりとした。
この凶悪そうな顔。
明らかに言う事をきかなさそうだ。
勉強の邪魔をされたらどうしよう。
いっそのことご飯の時以外モンスターボールに入れておくことも考えたが、現在の研究で長時間ポケモンをボールの中に入れておくのはあまり良くないことが分かっている。
元々の野生の状態に近ければ近いほどいいのである。
特に医学に精通しているとしては、そんな閉じ込めるかのような処置を許容出来はしなかった。
「お前があのババァの妹か」
「ば、ババァって・・・」
「あいつ化粧濃くてマジ臭ェの。顔近付けられて死ぬかと思ったぜ」
言いながらに鼻先を近づけ軽く匂いを嗅ぐ仕草をした。
「でもお前はいいな。化粧臭くもないし、香水臭くもねぇや」
言ってにやっと笑った。
「ま、お前ンとこなら大人しくしててやってもいいか」
「・・・」
どうやら彼は、姉の前で暴れでもしたのだろう。
だから姉がわざわざ帰省してまでこれを押し付けて行ったのだ。
でも、大人しくしてくれることを決めてくれたのは良かった。
大事なこの時期・・・面倒を起こされるのは嫌だ。
ほっと胸を撫で下ろしているを尻目にグラエナはベッドの上にばふっと倒れこむ。
「なーお前名前は」
「え、あ・・・名前・・・。名前はよ」
「そっかー。俺はー・・・俺はまだ名前なくてよ。まあ適当にって呼べ」
「・・・?」
適当にと言っておきながら、指定してくるこの高慢さ。
別に構わないけれど。
「分かった」
小さく頷いて、はこれからどうしたものだろうと思う。
父親に事情を話したら、今日は新しい環境に慣れさせなければならないから付いててやれと言われたけれど。
放っておいて勉強を始めてしまってもいいだろうか。
自分の部屋だと言うのに所在無さげには視線を泳がせた。
そんな空気を目ざとく察知したのだろうか。
は体を起こしてぽんぽんと自分の横の空間を叩きながら。
「な、隣座れよ。お前のこと教えてくれてもいいだろ?」
「・・・あ、うん」
まあ、名前以外の自己紹介を兼ねてそういうものも必要だろう。
自身、自分のやりたい事を邪魔されないためにもそういうことの説明は必要だと思っていた。
そっと・・・遠慮がちに控えめに。
おずおずとはの隣に座る。
「何から、教えればいいかな」
「ま、まずはアレだな」
「アレ?」
「この辺のサイズとかよ」
言ってが手を伸ばしてくる。
え・・・とも、あ・・・とも思ったがが口を開ける前にその手がの胸を強く掴んでいた。
「お、結構あるじゃん」
「っっっ・・・っ!何するの!!!」
ばっと腕を振り払い、は飛びのくようにの隣から離れる。
服の上ではあるが、両腕で胸を隠すようにして押さえ込んだ。
「まあまあ。俺頭悪ィから言葉で聞くよりも直接体に聞いた方が良く分かるんだよな」
「なっ、そっ、そ、そんなの屁理屈!」
「何でもいーだろ。こっち来いよ」
「嫌!」
腕を引き寄せられては必死に足を踏ん張って抵抗する。
しかしモンスターと人間、ましてやは女であって。
力の差は歴然としていた。
ベッドの上に押し倒されて、必死で逃げようとする。
「離して!!」
「へへ、嫌よ嫌よも好きのうちだろ?それに・・・」
はにたりといやらしい笑みで、シーツの上に鼻先を近付けた。
くんくんと犬のように小さく鼻を鳴らしている。
「発情した匂いが染み付いてるぜ。お前毎日オナニーしてるだろ」
「!?」
思いも寄らない言葉の攻撃にの体がぎくりと震え、そして固まる。
声も出せないを面白そうに見つめ、好色な指先が唇に触れることすら許してしまった。
「興味、あるんだろ?男の体とかよ、セックスとか」
「・・・」
否定も肯定も出来ない。
ただにやつくの表情を呆然と見つめるだけで。
無言を肯定ととったのか、はゆっくりと顔を近付けてきた。
緩やかに触れ合う唇。
その柔らかな感触に、は足が震えるような間隔を覚えた。
慣れない酒を飲んだときのような熱い焦燥感を伴って。
「、ん・・・」
僅かに漏れたキスの合間の溜め息に背中を押されるように、の舌が唇を割る。
温かくてぬめる感触と、知らない味に戸惑いながらもは大人しかった。
「は・・・ァ」
角度を変えられるたびに声が漏れる。
触れ合った唇は思いのほか優しく脳の奥が蕩けるような気分にさせる。
何も考えられない。
考えたくない。
キスの味とこの唇の感触だけを感じたい。
知らずはの首に腕を回し、強請るように強く力を込めていた。
「・・・は、」
そっと、唇が離れ冷たい酸素を深く吸い込む。
嗚呼、あの感触が名残惜しい。
そんな事を考えてしまうなんて自分は如何にかなってしまったんだろうか。
彼は人間ですらないのに。
「あ・・・っ」
不意にが無言でのブラウスのボタンを外しはじめた。
「や、ヤダ・・・!」
思わず服を押さえるが、は難なくその手を服から外し、ベッドの上に押し付ける。
「大人しくしろって。可愛がってやっからよ」
そしてまた、キス。
嗚呼。
口内を貪られながらは体の力が抜けていくのを感じた。
ぐにゃりと体がベッドに沈む。
この感触は思考する為の何かを奪ってしまうようだ。
その間にはの服を器用に脱がせてしまった。
「あ、あ・・・だめ・・・」
外気を素肌に感じたが身を捩らせる。
「何がダメだよ」
「ああっ、やぁん・・・」
の手が少し強く、の裸の胸を掴んだ。
強弱をつけて揉みしだかれ、の体が戦く。
「や、あ、やん、・・・あぁ・・・」
男に触られるという僅かな恐怖に強張った体だったが、つんと尖った乳首に触れられた瞬間、それが少しだけ和らいだ。
「ああ、はぁ・・・はぁ・・・あ、あぁぁ・・・」
明らかな性感を含んだ声が部屋に響く。
「感じるか?」
「そ・・・そんなの、・・・しら、な・・・はぁはぁ・・・あぁ・・・」
指先が時に強く、時に弱く。
膨らんだそれを捏ね、摘み、転がす。
恥ずかしそうに頬を染め妖艶に体をくねらせるを、は満足そうに見下ろした。
「はぁ、あ、んっんっ・・・はァん・・・」
髪を乱しては初めて与えられる快感を必死に受け止める。
これが恋か。
これが愛か。
嗚呼何も考えられない。
ただただ何も判らなくなるくらい気持ちがいい。
「おかしく・・・なっちゃうぅぅ・・・っ」
「ハハ、こんなの序の口だぜ?」
言いながらはのスカートの中に手を入れてきた。
誰一人として触れた事のない場所をいきなり触られての体がびくんと硬直する。
しかしそれは恐怖によってではない。
毎晩一人で慰めていた、その場所を強く刺激されたからだ。
硬直したの体が弛緩する様子をは面白そうに見つめていた。
「はぁっはぁっはぁっ・・・」
荒い息で視線を泳がせるの耳元で、そっと囁く。
「イっただろ?」
吐息が耳をくすぐり、の体にまた熱が篭る。
嗚呼どうしてしまったのだろう。
余韻に疼く体は、まだ熱い何かを秘めている。
「や、み・・・見ないで」
「バァカ。それを見るから面白ェんだろうが」
意地悪く笑ったは、ちゅっと触れるだけのキスをして、体をおこすとベルトを引き抜いた。
「触ってみろよ」
の手を掴みはその中心へと持って行く。
勿論はそんなところを触るのなんか初めてだ。
赤く染まっていたの頬がもっと赤くなる。
「な、何するの!」
「お前見て興奮したってことを教えてやってンだよ」
ズボン越しにドクンドクンと小さく脈打っているのが伝わる。
そして時折ぴくんと跳ねる。
思わずカタチを確かめるように掌でなぞってしまった。
想像していたよりも大きい気がする。
これが、中に・・・?
「む、無理!!!」
「は?」
「こんなの入んないよ!」
こんなものを押し込まれるのか。
「入る入る」
「嘘!」
怯えるを押さえつけスカートの中に手を突っ込んだは、下着を引き摺り下ろす。
「エロい染みが出来てンなぁ。これなら直ぐだぜ」
「いやぁんっ」
じたばたとするの足の間に入り込み、ズボンのファスナーを下ろした。
は足の間に何か硬い塊が押し当てられたのを感じて身を竦ませる。
思い切り強張る足を抱えたは苦笑して、
「そんな緊張すんなって」
なんて言いながら、ゆっくりと唇を押しあてた。
くちゅ、と優しく舌が絡まる。
「・・・んっ」
じんわりと脳が蕩けてしまう。
緊張や恐怖が優しく緩む。
キスは幸福な気持ちの塊だろうか。
この柔らかさに何もかもが熱く解ける。
「んうぅっ・・・!」
こそんな力の抜けたの体に鈍い痛みと熱い感触。
嗚呼、まさかそんな。
「あっ、い、痛い、やだ・・・っあ、ああ・・・っ」
「大丈夫大丈夫。全部入ったぜ」
言いながら深く押し込まれると、痛いような苦しいような。
だけど深い快感らしいものも溢れてくる。
不思議な感覚だ。
そしてそれはずるりと引き出されまた押し込まれる。
「はぁぁ・・・っあ、ああぁ・・・」
押し込まれる瞬間がたまらない。
これが粘膜を擦る快感なんだろうか。
痛いのに気持ちが良くて、腰が震える。
ぐちゅぐちゅぐちゅ・・・。
卑猥な音を規則的に響かせながらのものが出入りする。
「はぁ、すげ・・・流石処女・・・」
堪らなそうにため息交じりでは呟く。
気持ち良さそうな声色にもなんだか興奮してしまって。
「あっあっ・・・」
「はぁっ、マジイイ・・・」
ぎしぎしとベッドが悲鳴をあげている。
それに負けずも喘ぎ声を抑えられない。
嗚呼この行為はキスよりももっと熱い気がする。
深く痺れる脳髄がそんな予感をに伝えていた。
「は、ダメだ・・・出すぜ・・・」
「んっ、いい、いいよ・・・出して・・・っ」
中に思い切りぶちまけて欲しい。
もうそんなことしか考えられない。
どうしてしまったのだろう。
興奮の渦に巻き込まれて獣にでもなってしまったようだった。
「・・・く、ぅ、・・・は、はぁっ、はぁっ・・・」
「あああぁ・・・」
思い切り深く突き上げられたかと思うと熱い何かがの中に迸るのを感じた。
優しい腕が自分の体を抱いているのが分かる。
恋をしたくて、愛を知りたかった自分の体を。
意地悪く笑う唇が何度もの唇を奪う。
柔らかさに眩暈すら覚える。
「しばらく一緒に暮らすんだからよ、仲良くしようぜ」
は少しだけ考えて無言で頷いた。
まだ何が芽生えたわけでもなく、ただ入り口に立っただけ。
右も左も分からない。
目の前のグラエナがどういう存在になるのかさえ判らないけど。
ただ、僅かに満たされた好奇心がを満足させていた。
緩やかに目を瞑る。
恋をしたい。
愛を知りたい。
いっそ世界がそれ一色になってしまうほどの濃密な。
そしてその入り口が、今の目の前に。
=======================
久々でございました。
読んで頂いてありがとうございます。