「何もかも投げ捨ててしまえたらいいのに」





そして蝶は空へと舞う/4







今日も少しだけ表情が暗い。
せめて自分が女であることを堂々と言えたら良かったのに。
「うわぁ・・・凄いね」
「・・・」
下駄箱にラブレターなんて古風なことが現実に行われるとは思ってもいなかった。
朝と放課後の下駄箱には少なくとも2、3通の、多ければ10通程度の手紙が入るようになっていたのである。
勿論に付き合えるはずも無いのでお断りできる分は丁重にお断りしている。
「俺なんかそんなの貰ったこと無いよ」
「うう、なんかいたたまれないのですが」
敬愛する10代目のツナを差し置いてこんなことになっている自分もそうであるが、女に好かれる自分をツナに見られるのも嫌だった。
ますます女らしいという言葉からは遠ざかっている気がして。
「皆、僕の為にこれを精一杯書いてくれてるのに・・・応えられなくて申し訳ないんです」
それがどんなに勇気の要る事か、今のには良く分かる。
だけどどれ一つとして応えられない。
「うん・・・でもさ」
「・・・?」
君がそうやって多少なりとも心を砕いてるならさ、応えてあげられなくともその子達の気持ちは汲んでることになるんじゃないかなぁ」
気休めかもしれないけど。
そういって笑うツナが、には物凄く眩しくて苦しい。
ツナが何か言うたびに好きになる。
それを自覚するたびに苦しくなる。
手の届かない存在だと思ってか、自分の境遇を思ってか。

それはもう苦しくて苦しくて。
窒息しそうなほどに、胸が痛い。

その日は何故か学校にビアンキが現れた所為で(どうやら10年ランボを追っかけている間に来てしまったらしい)獄寺がダウン→保健室行き。
山本も何やら野球部の方に用事があるとか何とかで昼休みに何処かへ行ってしまって。
図らずも昼にツナと二人きりになってしまった。
「何か今日は静かですね」
「獄寺君と山本がいないからねぇ」
あの二人がいると何かと賑やかだ。
というか獄寺が賑やかなのだ。
二人で小さく会話しながら昼食を摂りつつ今朝方貰った手紙を見る。
「今見るの?」
「はい・・・ものによっては今日の放課後待ってますと書かれてるものもあるんです」
「た、大変だね・・・」
かさりと紙が擦れる音を響かせは手紙に目を通し始めた。
ツナはそれを横でじっと見ている。
の伏せがちな目が文字を辿るのを。
「・・・」
「・・・」
「・・・!」
すると。
ぱたり。
ぱたり、ぱたり。
君・・・!?」
「え・・・?何ですか」
「・・・泣いてるけど・・・」
「え・・・?」
涙の溢れた目元に手をやってはぎくりとした。
「あ・・・ほんとだ。読む方に熱中しすぎて気付きませんでした」
「あ、はは・・・そ、そう・・・(やっぱちょっと変わった子だ)」
鞄からハンカチを取り出して目元を拭う。
そのハンカチにはちゃんと薄く糊をしてアイロンをかけてあるように見えて。
ああ、男の子の格好をしていてもそういうところはちゃんとしているんだなあとツナは密かに感心した。
そう言えば今広げていた弁当も自分で作ったようであった。
一度クラスの女子がふざけて「それ自分で作ってるの〜?」等と聞いていたことがあったけれど。
その時は「そんな訳ないだろ、親だよ親」と笑っていたのを思い出す。
だけどに親が居ないことをツナは良く良く知っているから、それを笑って聞くことが出来なかった。
「・・・何て書いてあったの?」
「・・・あんまり詳しくは言えませんけど・・・僕のことが好きです、と。余り言葉を交わしたことも無いけど、僕の笑顔が好きです・・・と」
は俯きながら小さな声で答えた。
これを書いてくれた子はもしかしたら今の自分がツナの一挙一動に揺さぶられるのと同様に、自分の一挙一動に何かを感じとってくれたのかもしれない。
そう思うと哀しくて苦しい。
「でも・・・僕はこの子を騙し続けるしか・・・ないんです」
「・・・」
「何もかも投げ捨ててしまえたらいいのに」
男として生きる事も。
マフィアとして生きる事も。
何もかもリセットして、ツナの前に現れられたら。
するとの言葉を聞いたツナの顔色が変わった。
「・・・それって、もしかして俺の所為?」
「え?」
「だって、ファミリーだとかなんとかに巻き込まれたのって俺の所為だよね?」
「えぇっ!?ち、違います!!」
慌てては首を横に振るが、今度はツナの表情がだんだんと曇っていく。
「10代目のファミリーになる事を決めたのは飽くまでも自分です!!10代目が気にすることではありません・・・!」
なんて事を言ってしまったんだろう。
勢いとはいえツナの前で口に出していいことじゃなかったのに。
「すみません、僕何て失礼な事を・・・!」
「いいんだ。もうホント、全部俺の所為だし」
あはは、と乾いた笑いを浮かべるツナには恐縮して慌てて口を開く。
この状況を何とかせねばとそれはもう無我夢中で。
「でもでもっ、10代目・・・!それでも僕は!」
「・・・え?」
「それでも僕は、今ここで10代目と離れる方が嫌なんです・・・!!」
「え・・・」
「自ら望んでここにいます!僕は10代目の傍にいたいんです!」
無我夢中すぎて自分でも何を言っているのか判らない。
だから。
「10代目のことが好きだから・・・!!!」
「えぇ・・・っ!?」
思わず本当のことを言ってしまった。
あっと思って後から口を塞いでも仕方が無い。
見る間にの頬が赤く染まっていく。
「・・・お、俺のこと、が・・・?」
「・・・」
嗚呼、なんという事を。
今日は口で墓穴を掘ってばかりのような気がする。
「一生言うつもり・・・無かったのに・・・」
真っ赤な顔を両手で押さえ、視線を合わせようとしない
それを見てツナは思う。
(何もかも投げ捨てなくても・・・全然普通の女の子じゃないか)
喋り方や服装を差し引かなくとも、今ツナの隣にいるのはツナの事を好きだと言ってくれる女の子。
「・・・君」
「・・・は、はい・・・っ」
びくりと弾かれたように返事をする。
「俺も・・・君がさ、その・・・俺の仲間で良かったよ」
「え・・・っ」
「だから何もかも投げ捨てたくなっても・・・俺の傍にいてくれると・・・嬉しいな」
「・・・10代目・・・」
のが移ったように赤い顔でツナもに視線を合わそうとはせずに言った。



「ずっとお傍にいます!」
「はは・・・ありがと」











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展開早くてすんまっせん。
一応二人ともの精一杯の告白っちゅうことで。
この後放課後くらいにツナはこの告白が心配になって「え、俺達付き合ってるよね?」みたいなことを聞いてるといい。