彼女の幸運は、異種族すら魅了する麗しさを持って生まれた事。
after ALL
鏡よ鏡。
私だけの鏡さん。
世界で一番綺麗なのは私と言って。
貴方にならば美しいと言われる事も苦痛じゃない。
「クロム、クロムーっ!!!」
「おい、口押さえろ」
「うわっ、こいつ噛み付きやがった」
そんな声が路地裏から聞こえて、クロムは慌てて路地裏に駆け込む。
見れば髪を乱しながら男達に乱暴されそうになっている主人がそこにいるではないか。
少し目を離すとコレだ。
「誰か来たぞ」
「クソ、ちゃんと見張ってろって言ったのによォ」
ガラの悪そうな男共がクロムに目を向けにじり寄って来る。
勿論こんな小物、クロムの敵ではない。
30秒後にはつみ上がった屍(と言っても本当に殺したわけではないけれど)を踏みにじりながらへたり込むに手を差し出した。
「あ、はは・・・ありがと」
「ありがとじゃねぇよ。勝手に連れ込まれてんじゃねぇ」
クロムの主人、は実の父親さえ狂わせてしまう程の美貌の持ち主。
二人で家を出てからも、が男に言い寄られない日はなかった。
「俺ァな、自分の女何度も何度も連れ込まれて平静でいられるほど出来ちゃねぇんだよ」
「・・・ご、ごめん、ね・・・?」
「とっくにごめんじゃ済まなくなってンだよ!・・・、お前にも努力してもらうぜ」
「ど、努力って・・・」
整形でもさせられるのだろうか。
それとも男を撃退できるように鍛えられてしまうのだろうか。
家に居るときはの父親が異常な程にを溺愛していることは余りにも有名で、言い寄ってくる男は少なかった。
けれど外に出れば違う。
やはり男の一人や二人撃退できなければやっていけないだろうか。
しかし、クロムが要求したのはもっと別の事だった。
一旦、二人は宿泊施設に引き上げて。
「ほら、これ着ろ」
「これ・・・って」
クロムが何処からか用意してきたのは男物の服であった。
クロムのものと似ているが、サイズは小さめ。
「男物の、服?」
「男のカッコすりゃ男に連れ込まれる回数も減るだろ。着てみろよ」
本当にこんなことで誤魔化せるのだろうか。
「ん・・・じゃあ、まあ・・・折角用意してくれたから・・・」
疑問も残るがクロムにこれ以上気苦労をかけるのもどうかと思っているので、素直に従った。
バスルームに移動してもそもそと着替える。
鏡で全身映して見るが、やはりちょっと男っぽい格好をした女にしか見えない。
「・・・やっぱ無理あるって・・・」
言いながらガラっとドアを開け、クロムの前に現れる。
鏡に映したとおり、クロムの目にもは男っぽい格好をした女に見えた。
「まあ、外見だけじゃ無理があるのは判ってンだよ。こっからだ、お前が努力するのは」
「何を努力するって言うの」
「外じゃ男として振舞え。俺と二人っきりの時以外は女の言葉で喋るのは禁止だ」
「えぇっ!?」
なんだそれは。
「そうすりゃ女っぽい顔した男で通せると思うぜ」
しゃあしゃあと言ってのけるクロムには呆れ気味だ。
「そんな簡単に行くわけ無いでしょ!」
「やってみなけりゃ判ンねーだろうが。効果なけりゃ止めれば良いしな」
「う・・・」
まあ確かに一理あるわけだけれど。
すぐにボロが出るに決まってる。
男で通すなんてきっと無理だ。
には全く自信が無かった。
「慣れりゃ良いセンいくと思うぜ」
「・・・そうかなあ・・・」
「んじゃ、試しに外出てみようじゃねえか」
「えっ、ちょ、まだ心の準備が・・・!」
「いいから来い!女は度胸だろ!」
「ち、違うぅぅっっ」
そうして引っ張り出されたのがもう半年も前の事である。
「・・・で、今じゃコレが僕の地になっちゃったんだけど」
「いいんじゃねぇ?俺は別に気にしねぇし」
寧ろが男に絡まれることが無くなって万々歳だとでも言う風だ。
クロムの読みはぴったりと当たり、あの後いきなり男に絡まれる回数が減った。
複雑ながらも貞操の危険がなくなったことは非常に喜ばしいわけで。
「それに俺ァ、ベッドの中じゃ女に戻る事も知ってっからなー」
「っ、ばか・・・!」
顔を赤らめてはクロムの顔に枕を投げつけた。
父の呪縛から解放してくれたクロムを深く信頼したとをこれ以上ない程大切に思っていたクロムと。
この一人と一匹が愛し合うようになるのに然程時間はいらなかった。
初めはクロムに触れられるのを多少恐れたであったが、やがて自然に求め合い今に至る。
心の底から愛してると言えるこの感情を持てた事がは幸せだと思っていた。
父との日々にそんなものは微塵も見つからず、あのまま死んだように生きて死ぬのだと思っていたので。
「クロム・・・僕を見出してくれて・・・ありがと」
「・・・何だよ、急に」
「僕・・・あのまま絶望のうちに死んでもいいと思ってた。本当の僕は誰にも見つけてもらえずに死ぬんだと思ってた。・・・それで良いと思ってた」
「・・・」
「でもクロムに会えて、愛される事の喜び知って・・・良かった」
生きたいと切望できるほどに世界が色づいた。
クロムと共に生きる世界の、どんなに素晴らしい事か。
「じゃあもっと愛を深めようじゃねぇの?」
「えっ・・・」
突然腰を掻き抱かれベッドに引き倒された。
「ちょっ・・・!」
そしてその上に素早く跨るクロム。
ぎしりとベッドが大きく軋む。
その音にぎくりとは体を震わせた。
「クロム!まだ昼だろ!」
「昼だろーと夜だろーといいじゃねえか」
そうやってにやっと笑う意地悪な顔は出会ったときと変わっていない。
(ほんと、生まれてくるタイプ間違えたわよね)
そうして溜め息を吐こうとしたが、それすら彼の強引なキスによって阻まれてしまったのであった。
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本当は男装ヒロインが書きたかったんだけど・・・。
まあまたエロはそのうちに(・・・っていつだよ)