それはきっと虚勢にも似た。






君に届くのならば、今一歩







「温かいな」
翼の下で身じろぐ体に緊張する。
そんな気持ちを知ってか知らずかは少し興奮気味で。
「外で寝るのが初めてではないが、誰かと寝るのは初めてだ」
と、の羽毛に顔を埋めて満足そうである。
「おい・・・お前用意周到なくせに何で野宿なんだよ」
「仕方あるまい。近隣の町では見つかってしまう恐れがあるし・・・明るくなったらお前にもう少し飛んでもらわなくてはいけない。どちらにせよ休むのが賢明だろう」
「そんなの金掴ませて何とかしろよ。風邪引いたらどうすンだ」
ちっと舌打ちをしつつも、この秋の夜の冷えにが凍えないよう翼で覆う。
の手持ちは後二匹いるがその二匹ともに問題があるため、この役目はが適任だった。
「・・・これから、どうする」
「一つ、当てがある」
言ってを見上げるように顔を上げた。
「実はロケット団に所属していた時に伝説の銀色のポケモンを発見したらしいことを聞いたんだ。別の部署が追っているらしいが、私もそれを追おうと思っている」
「・・・ルギアか」
「そうだ。資料も拝借してきた。詳しい事は判らないが一緒に行動をしている女がいるらしい。既に捕まえられているのではないかと心配でな」
しかし誰が所有していようと必ず自分のものにしてみせる。
それが彼女の夢であり野望であった。
他人に怨まれても構わない、それを後悔せずに受け入れるだけの覚悟もしている。
だから、今そのポケモンが誰のものになっていようとある意味では関係ないとさえ思っていた。
「・・・お前、他人から奪うつもりなのかよ」
の視線が鋭くなった。
ポケモンと言えど人間と意思の疎通が出来る。
勿論虐げられたり、弱いあまりに人間から逃げられないポケモンだって勿論いるけれど。
ルギアの様な伝説クラスのポケモンならば我慢して気に入らない人間と行動を共にする事なんてしなくて良い。
つまり、そのルギアは望んでその女と一緒にいるのだと容易に想像が出来るわけである。
そしてがそれくらいのことが判らない程頭の悪い女ではない事を知っていた。
「ルギアはその女を選んだんだぜ?・・・お前、それでもそのルギアを捕まえるつもりなのかよ」
「・・・それが正しいと思えばそうするさ」
「じゃあお前は、今この段階でそれが正しい事になる可能性があるって思ってンのか」
「100%その女に捕まえられたかどうかは判らんだろう?」
確かに、その可能性は無くも無い。
しかし。
「確かに捕まってねぇかもしれねえ。でもよ、ルギアが望んでその女といるってことは変わらねえだろうが!」
「捕まっていないなら私に捕まっても構わんだろう?別に引き離すつもりなど無い。お前だって私に不満があるなら何処へなりと行けば良かろうに」
さらりと言ってのけるは今にも怒鳴りかけた。
しかしそれをぐっと押さえる。
売り言葉に買い言葉で事を済ませるほど子供ではない。
「・・・お前のその考え方、間違ってるぜ」
苦々しく言うがは首を傾げるばかり。
何が間違っているのかとでも言いたげな目でを見上げていた。
それを見ての表情が険しくなる。
本当に何が悪いのか全くわかっていない様子の
彼女は賢いようで世間知らずなのだと気付かされたは、この考えを改めさせなければと深く思った。
それがこのに捕まったことによって課せられた自分の使命なのだと。



「人の多い町ばかりを転々としているようだな」
明くる朝、資料を見ながらは呟いた。
人を隠すなら人の中。
確かに賢い選択であろう。
人が多ければ多いほど他人の記憶に残りにくい。
他人の記憶に残る事が逃げるものにとっては一番危険な事なのだから。
「とりあえず最後に確認された町まで移動するぞ」
「・・・おぅ」
まあどちらにせよも追われる身であることは間違いない。
この辺りは早く去った方が得策だということくらいはにも判る。
そしてを背に乗せ、大きな太い枝を蹴った。
少し距離のある移動であった。
「・・・おい、
「何だ」
「・・・お前、本当にゲットされてなかったら捕まえるつもりなのか?」
「しつこいぞ、昨日から。それが私の夢であり野望だと言っているだろう」
怨まれても疎まれても、誰かを蹴り落としたって。
「全ての覚悟は出来ている」
「・・・」
はもう何も答えなかった。
ただただ、そんなを憐れに思うだけで。
その後何度か休憩を挟んでその町に着いた。
そこでの野望への執着心を見せ付けられることになる。
「・・・まだ・・・この町にいそうだな」
資料の期日は一週間ほど前。
かなり滞在期間が長いように感じる。
「・・・一週間だぜ?それマジで言ってんのか」
「フリーザーとサンダーを捕まえた私を見くびるなよ。ルギアには追っ手がついている分あの二匹よりも簡単さ」
見ろ、とは視線で周りを促してみせる。
「注意力の高いポケモンのお前なら判るだろう?そぐわない人間が沢山いる」
「・・・確かに・・・」
良く良く見渡せば怪しい人間が散らばっている。
恐らくはロケット団と、それとは別にルギアを追う組織。
「連中も探してるんだろう。移動していれば念のための見張りだけ置いて追えば良い。恐らくまだここにいる。しかしそろそろ潮時と考えているはずだ」
「・・・」
「そして追われていれば必然的に路銀を補充する当てが減る。安い宿が集まる辺りを調べるぞ」
言いながらフリーザーのセツゲツとサンダーのセキランも外に出した。
「お前たちは人型を取って私ではいけないようなところを探してくれ」
「・・・判った」
「新入りに任せるのはちょーっと心配だけど仕方ねえな。何かあったら呼べよ」
セキランの馬鹿にしたような言い方は勘に触るものの、は反論しない。
に鍛えられている二匹の実力は本物である事を身を持って知っているためだ。
確かにセキランに比べれば自身が大分劣る事は判っている。
相性の問題もあるが、セキランよりも弱いというセツゲツにさえ勝てなかったのだから。
二匹は常人ならざる跳躍で壁を蹴りふわっと屋根の上に躍り上がって消えた。
「私たちも行くぞ」
「・・・何処へ」
「人間に出来る事は限られているからな・・・。お前たちほど眼が良い訳でもないし。まずは・・・追っ手を探す」
一週間もこの町で潜伏者を探している追っ手の人間。
人数が多いだけにそろそろ聞き込みも終え場所を絞っているはずだとは言う。
すると、不自然に追っ手らしき者が集まっている場所を見つけた。
町の中でたった一人の女を見つけることはかなり難しいが、徒党を組んでいる人間を探すのはそう難しくも無い。
探せばあっさりと見つかった。
「この辺りに潜伏しているようだな。しかしここまで追っ手が集まってるという事は・・・今夜辺り逃げられそうだ」
「・・・」
「出来れば今・・・見つけておきたいものだが・・・」
きょろきょろと辺りを見回すがそれで見つかれば世話は無い。
変に嗅ぎ回って目立つのも得策ではないので、後はセツゲツとセキランが帰ってくるのを待つ事にした。
「なあ。・・・何度も聞くけど・・・お前本当に覚悟出来てるのかよ」
「くどい。何をそんなに気にしているんだ」
「・・・お前さァ・・・本当に誰かの恨み買ったことねえだろ。殺したいほど憎いって思われたことも思ったこともねえんだろ」
「・・・ふ、む。確かに考えてみれば無いように思うな」
そんなに長く生きたわけでもない。
思い返せば孤独に伝説のポケモンを追いロケット団に所属して・・・。
そこまで人と関わった事など無いような気がする。
「じゃあ、その感情も知らねえわけだ」
「恐らく」
「・・・そうか。それなら一回潰れてみればいい。そうしたら見えなかった物も見えるようになるんじゃねえ?」
「潰れる?私が挫折するとでも言いたいのか」
流石にカチンと来たらしいが多少声を荒げた。
「そういう事を言ってる訳じゃねえが・・・。まあ自分で考えろ。それに否定的な事を言ってるが、お前が望むならルギアゲットにだってちゃんと協力してやるさ」
仮にも俺のマスターだからな。
小さく笑いながら言うに、は釈然としないもののそれ以上の言及はしなかった。
それと言うのも、間の悪い事にセツゲツとセキランが戻ってきたからである。
、見つけたぜ」
「銀色の髪の男と女が一人。一見人間を装っているが我々を騙す事は出来ない」
「そうか、良くやった。・・・場所は」
が急かすように言うとセツゲツがちらりとセキランを見た。
「俺に言えってか」
「・・・」
「あー畜生。だんまりなんてズリィぞ」
「どうした。何か問題でもあるのか」
変な雰囲気の二匹には首を傾げる。
「いや・・・見っけたのは見っけたんだけども・・・。ちょっと取り込み中っつーか・・・」
「何?喧嘩でもしているのか?それは好都合だな」
「いや・・・そういうんでもない」
「・・・?」
歯切れの悪い二匹に業を煮やした
「とりあえず案内しろ。もし捕まっていないなら追っ手どもを出し抜くチャンスだ」
「いや、でも・・・」
「命令だ。案内するんだ」
「・・・」
やれやれと首を振るセキラン。
セツゲツも視線を逸らしたままである。
仕方なくセキランはを腕に座らせるような形で抱き上げた。
「行くぜ」
たん、と地面を蹴り先ほどと同じく跳躍する。
続いてセツゲツ、そしても同じく従った。
そして屋根を伝う事1,2分。
本当に目と鼻の先にて問題のルギアを見つけ出したわけである。
・・・が。
「・・・っ、な・・・」
「いや、だから言っただろーが。ちょっと取り込んでるって」
薄暗い路地と路地の隙間で隠れるように重なり合う影。
震える足で立つ女とそれに後ろから齧りついている問題のルギアと。
小さな女の嬌声が聞こえる。
それに答えるように卑猥な動きでルギアは女を後ろから貫いていた。
「ばばば馬鹿・・・っ!ど、どうしてはっきり言わなかったんだっ!!」
「いや、だってそういう反応するだろ?なんつって良いか判んねーもん」
真っ赤になって精一杯の小声でセキランに詰め寄る
でもこんな風に動揺することがあるのかとは驚きに目を見開いた。
こういうの慣れてねーじゃん。ルギアと女がセックスしてましたとか言ったら卒倒しちまうかと・・・」
「いいい言うなっ、というか結局言ってるじゃないか馬鹿っっ」
慌ててセキランの口を押さえる
の隣でセツゲツが肩を竦めた。
(・・・成る程色恋沙汰が苦手っつうわけか・・・。可愛いとこもあるもんだ)
緩みかける口許を手で隠しながら慌てるを眺める。
「し、仕方ない。一旦戻る。これでは捕まえるどころの話ではない・・・っ」
「そーだよなあ。あんな現場に踏み入る勇気なんか俺にも流石にねえわ」
「黙れ、セキランっ。もうお前等戻ってろ!!」
ボールにセツゲツとセキランをしまい込み、に「行くぞ」とぶっきらぼうに言って前に立った。
その後姿を見ながらは思う。
はただの子供だと。
そして恐らくセツゲツにもセキランにもそれを見抜かれている。
あの二匹にもきっと判っているのだろう。
セツゲツはともかくセキランのあのいなし方おそらくその表れ。
は覚悟を決めていると言うが、その時になればきっと。
「・・・潰れるな、多分」
ぼそりと呟きの後ろを歩いた。
願わくば彼女が潰れる前に必要なものに気付くようにと。
そしてその必要なものが愛情という感情であることに、は気付いてはいなかった。
まだそれに届く今一歩をは踏み出す事すら考えてはいなかったのである。
それを感じるからこそは思う。
彼女にもっと近づかねばならない。
が踏み出せないのなら、自分が踏み出してやれば良い。
何処までも不安定なに感じるそんな思いは、心配という皮を被ったもっと別の気持ちだとは気付き始めていた。













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結局ピジョットと良き関係にしたいんですが・・・どうなるんだろう。
長くなりそうなんで早めにルギアに出会わせてしまうというご都合主義でごめんなさい。
因みにヒロインの追っていたルギアは「世界が閉じる」のルギアです。