「何処にいらっしゃっても、必ず見つけ出します」





太陽のひと/いかさまの赤い糸





着物から糸が出ていた。
何処かほつれてしまっているのだろうか。
切ってしまおうと思いそれを摘み上げたら、通り抜けた。
「・・・」
見間違いかもしれない、と目を擦り同じ箇所を見るがやはり糸が着物からぴよっと出ている。
「・・・これは、一体・・・」
通り抜ける不思議な糸。
嗚呼そういえば、とは自身の体を振り返った。
昨日から月の物が来ている。
は巫女である通り、幼少より色んな物を「みて」いた。
しかしそれには波があって体のサイクルに併せて刻々変化しているらしかった。
特に最高潮になるのはその日で今真っ只中と言うわけである。
昔からその時に予知無を見たり占いが大当たりだったりする訳で。
だから、この掴めない糸もそういう類のものであろうと判断する。
「・・・何処に繋がっているのかしら」
さらりと着物を動かすと、糸は頼りなく畳の上にだらりと伸びた。
よくよく見れば畳の上にはその糸がつーっと一本線を描いているではないか。
細いので良く見なければ分からないが、しかし一度目に付いてしまうと良く目立つ。
と言うのもその糸、誰かを思い出す燃えるような赤い色をしているからだ。
跡を辿って廊下に出る。
不思議な事に糸は床と同じ距離を保ったまま垂れ下がっている。
どうやらが動くと長さが変化するらしい。
後ろを振り返ってみたが糸を引きずった痕跡は無く、常に糸はの前にあるのだった。
物の怪に繋がっていたら如何しようかと思う反面何処に繋がっているのか気になって仕方が無い。
危ないところへおびき出そうとしていたら諦めようと心に決め、は廊下を辿っていた。
しかしそれは途切れることなく、廊下を走る。
ただひたすらそれを追いかけていると糸が緩やかにカーブを描いて修練場へと入って行く。
「・・・え」
修練場?
でもそこから聞こえてくる声は。
たった一つなのだけれど。
「・・・幸村様」
時折漏れ聞こえる声はの恋人である幸村のものだけ。
覗き込むようにして声を掛けたら槍を振り上げた幸村と目が合った。
殿。如何された?」
「いえ、あの、如何した・・・と言う訳でもないのですけれど」
「?」
の視線が地面を這う。
何を見ているのだろうと、同じく幸村も道場の床を辿った。
・・・何を見ているのかさっぱり判らない。
殿?」
「・・・何でしょうか?」
「いや、こちらがそれを聞きたいのでござるが・・・」
すーっと滑るように地面を這って、そして。
「ああ、こんなところに」
と、脈絡も無く呟いたかと思うと、がそっと幸村の手を取った。
「ふぇっ・・・!?」
突然の行動に幸村は肩をぎくりと震わせる。
は愛おしそうにその手を凝視していたが、やがて。
「幸村様、わたくしとげーむを致しましょう」
「・・・げーむ・・・?げーむとは何でござるか?」
「遊びのことだそうです。前に伊達殿がいらっしゃった時に少し教わりました」
伊達の名が出て、僅かに幸村は眉を顰めた。
別段何かをされるような暇があったとは思わないが、一瞬でも二人きりになったと言う事実は面白くない。
「幸村様?遊びはお嫌ですか?それとも時間がありませんか」
何も答えない幸村を見上げながらは多少困ったような表情で首を傾げた。
慌てて幸村は首を横に振る。
「そ、そんなことはないでござる!して、どういった遊びを?」
「かくれんぼをしましょう。鬼はわたくし、幸村様は何処かへお上手に隠れてくださいな。でもそれだけじゃ面白くありませんから、勝敗も決めましょう」
「・・・勝敗?」
ぴくり、と幸村が食いついてくる。
本当に勝負事となったら熱い人だと思いながらは尚も続けた。
「15分以内にわたくしが幸村様を見つけたらわたくしの勝ち。幸村様は15分逃げ切れば勝ち、です。勿論勝負事ですから褒賞もあります」
「と言うと?」
「そうですね・・・わたくしが勝ったら・・・」
少し考える素振りではちょっとだけ幸村から視線を外す。
そしてややの後、自らの褒賞の内容に頬を薄っすらと染めて。
「わたくしが勝ったら、幸村様の接吻が欲しいです」
「うぇっ!?そそそそんな、は、はれんちである・・・!!」
「それならば幸村様がお勝ちになればよろしいのです。幸村様はどんな褒賞がよろしいですか?」
「っ、そ、某は・・・某は・・・」
そんな、別に、に特別望むことなど・・・いや、あるにはあるがそれはまだまだ早いような・・・。
ぐるんぐるん頭を回る色々な事象に幸村は黙り込む。
「幸村様、決まりませんか?」
「う、うぅむ・・・(・・・某が勝ったらつつつつ妻に・・・)」
「幸村様?」
「・・・(い、言えぬ・・・!それに遊びの場でこんなことを言っても本気にして貰えるかどうか・・・)」
「それではこうしましょう。幸村様が勝たれたらわたくしは幸村様の妻になります」
「・・・ええええっ!?」
言われちゃったよ。
「ええっ、て・・・お嫌ですか」
「そそそそそんなことは!!!断じて!!!!」
「では、わたくしが幸村様の妻となれるように全力で逃げてくださいまし。60を数えたら探しますからね」
そしてくるりと幸村に背を向け、「いーち、にーぃ・・・」と数を読みはじめる。
その声に触発されたように、幸村もその場を後にした。
15分。
そんな短い時間でこの広い城の中にいる幸村を見つけ出せると本気で思っているのだろうか。
もしかしてこれは体の良い婚約なのでは、と幸村は思う。
ならば!ならばあの時、自分で言えば良かった。
に言わせるのではなく、男らしく堂々と言えば良かった。

「にじゅうくー、さぁーんじゅ・・・」

まだお館様に許しを得た仲でもないけれど。
将来の約束くらい。
嗚呼早くこの15分が過ぎれば良い。
そして自分を見つけられないを探しに行けたら良い。
その時に、言おう。

「よんじゅごー、よんじゅろーく・・・」

これから先もずっと共にいて欲しいと。
そこまで考えて幸村は自分の頬が熱くなるのを感じた。
嗚呼いけない、こんなことでは。
しっかりしなくては。
そして兎にも角にも見つからないところへ。

「ろーくじゅ」

さて、数え終わったは目の前に走る赤い糸に視線を移した。
続いている、続いている。
幸村の通った軌跡を描いて真っ直ぐに。
は意気揚々とそれを辿る。
嗚呼だけど、これを辿らないでわざと見つけなかった方が良いかしら。
いや、まさかこんな遊びで言ったことなど幸村はきっと本気にしてはいないだろう。
そのまさかな事態になっていることも気付かずはすたすた廊下を歩く。
赤い糸はゆっくりと廊下から縁側へ。
そして縁側でカーブを描いたかと思うと、中庭へ。
「・・・幸村様、見つけました」
一本の大きな木に向かっては声を上げた。
恐らくかくれんぼを始めて5分と経っていなかっただろう。
しかし赤い糸が幸村の場所をここだと教えている。
「幸村様ー、そこにいるのは判っていますよ。降りてきて下さいませ」
「・・・な、何故・・・某がここにいると・・・」
悔しそうに葉っぱの間から下を見下ろしてくる幸村。
色んな算段が御破算になったことも知らず、はにこりと微笑んで。
「後で教えて差し上げます」
とだけ言った。
「さ、降りて来てください。わたくしの勝ちですから」
「く・・・っ」
見上げるほどの高さの枝から、幸村は飛び降りる。
そしての前にすたんと着地。
「・・・佐助に聞いたでござるか?」
「違います。・・・ですがそれを教えて差し上げる前に・・・わたくしに褒賞を」
「・・・っ!」
勿論、何が褒賞だったか覚えていないわけが無い。
接吻。
それも幸村からの。
がちんと固まった幸村には苦笑を返す。
「幸村様、武士に二言はありませんでしょう?」
「む、無論!ししししかし・・・せせせせ・・・っ」
「観念なさいませ。さ、誰かが来る前に、お早く」
「!!!」
すっと目を閉じたを見て幸村も観念せざるを得ない。
がしっと強くの肩を掴むと、恐る恐る顔を近付けた。
僅か、一秒にも満たないほどの。
掠めるかのような、でも柔らかな口付けが。
「・・・こ、これで・・・満足でござるか・・・?」
「・・・はい」
ぱっと離れてしまい体温を惜しむ暇も無かったけれど・・・。
熱くなる頬を隠そうともせずには幸村に嬉しそうに微笑んだ。
「それで・・・」
「何でしょう」
「何故、某の居場所がこんなにも早くわかったのでござるか?」
「・・ああ」
幸村は不思議で仕方なかった。
まるで見ていたかのような早さである。
の歩く速さから考えても真っ直ぐ一直線にこの木まで辿り着いたような。
「実は・・・」
と、が幸村の手を取る。
そして同時に自分の小さな手も広げて見せた。
「幸村様にはご覧になって頂けないのですが・・・こことここに赤い糸があるのです」
「・・・糸?」
が指差すのは丁度右手の小指。
しかし糸があるようには全く見えない。
「わたくしも恐らく数日で見えなくなると思うのですが、丁度幸村様とわたくしの小指を繋ぐ赤い糸があるのです」
「何と面妖な・・・」
「それを辿って幸村様を見つけました」
成る程、それじゃあ負けるのも無理はない。
・・・が。
「・・・ずるいでござる!それでは殿は必ず勝てる勝負を挑んだのではないか!」
「はい、そうです。幸村様の接吻が欲しくて、ズルをしました」
「っ・・・」
う。
何だか怒るに怒れない切り返しをされてしまった。
いやしかしここで負けてはならぬと幸村は一瞬言葉に詰まりながらも、続けた。
「そっ、それでは!某の褒賞も頂きたい!!」
「え・・・っ?」
それって。
殿・・・!そそそ某と・・・某と、ずっと一緒にいてくだされ・・・!!!」
がしっと手を掴み真剣な眼差しで。
かぁっと頬が熱くなる。
「わ、わたくしで・・・よろしければ・・・」
思わず返した返事。
7分の驚きと3分の喜びで殆ど無意識に返していた。
遊びのつもりが婚約騒ぎ。
幸村の良く通る声で言われた言葉は結構色んなところに筒抜けで、後日信玄の耳にもばっちり入ることとなる。
勿論結婚の許し等々あるが、それはさておき。
信玄が焦れったすぎるこの二人の関係を佐助に詳しく問いただしたのは言うまでも無い。






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初ちゅーだといいな。
ご都合主義ばんざーい(殴
うーん幸村と乙女イベント色々やりたいんですけどその乙女イベントが見つかりません。
例えば原チャ二人乗りとかさ、そんなんできないでしょ?
かくれんぼなんて子供の遊びですよね。嗚呼何か良き乙女イベントないかなぁ。
うちが書く幸村夢は全部知尻切れトンボみたいでスイマセン・・・。
エロじゃないのってホント難しい。
だって同じ7〜10KB埋めるのに物凄いネタ消費するんだもん。
エロだったら5KBくらい段階説明とか書いて、残りの5KBはエロで埋まるもん。
なんか・・・世の中の普通のネタ書いてる人を普通に尊敬します。
純情難しい!