城下を歩いていたら、子供に声を掛けられた幸村。
「ゆきむらさまにもあげるー」
そう言って手渡された数本の花。
太陽のひと/それは千切られた花と同じ事
じゃらじゃらと色鮮やかな水晶が盆の上を転がる。
易を何度占えど、結果は芳しくないものばかり。
占いなどと言うものは所詮迷った時に指針を決する物に他ならないが、こうも悪いと不安である。
「・・・ふぅ」
やはりこんなことするんじゃなかった。
多少後悔の色を滲ませながら、皮袋に水晶を仕舞う。
盆も部屋の隅に片付けると、直後背後に人の気配。
「・・・佐助様?」
冷静に振り返ると、佐助がいた。
「ちゃん、最近は驚かなくなったねぇ」
「流石に慣れました。何か御用ですか?」
「・・・いや、今易を占っていたんだろう?芳しく無さそうだったからさ」
「お分かりになるのですか?」
出た目を読み解くのは自分の仕事。
そうそう看破されるわけにはいかないのだけれど。
「いやいや。ちゃんの表情が暗いからね。・・・思わしくないのかい」
「・・・ええ、残念ながら」
少し視線を下に落とし、溜め息まで吐いてみせる。
「そう、か・・・。じゃあ新しく日取り考えないとなあ」
「・・・ひ、日取り?そんな、芳しくないのに日取りなど決められません」
慌てて首を横に振った。
すると佐助はキョトンとした顔で。
「え?良くないから日取りを決めるんだろ?凶兆の日に出陣なんて兵の士気にも関わってくるしさ」
「えっ、あっ、出陣って・・・あの、戦のお話ですか?」
「・・・最初からその話をしてたつもりだったんだけど」
「あっあっ、済みません・・・!戦のことでしたら、3日前に決めた決行日で何も問題ありませんから!!」
あわあわと顔を赤くして慌てる姿に佐助の表情が変わる。
にやにやと意地悪そうな笑みでもってに近づいた。
「ははーん・・・ちゃん、まーた旦那のこと考えてたんだね?」
「ち、違います!」
「しかも旦那とのことを占ったら何度やっても良い結果が出なかったって訳だ」
「・・・っ!」
大きな黒い目を見開いて絶句する。
と、同時にじわぁと頬が熱くなった。
これではいくら口で否定しようと肯定しているも同じである。
「さ、佐助様は読心術も心得ていらっしゃるのですか・・・」
「まさか。こんだけ分かりやすい反応されちゃァねぇ」
それにしても旦那は気付かないだろうケド、と心の中で呟いた。
「易なんて気にしないでさ、旦那と出掛けてくればいいじゃない。並んで散歩でも、城下へ見物でも」
「そそそそんな・・・っ、し、心臓が壊れてしまいます!」
幸村と二人きりだ何て。
きっと10分生きていられるかどうか。
それでなくても幸村の傍に居ると心臓がおかしくなったかのように高鳴るというのに、そこに二人きりという緊張状態に置かれてしまったらどうなってしまうのだろう。
考えるだに恐ろしい。
「そんなんじゃ夫婦になった時どうすんの」
「ふ、夫婦だなんて・・・!そんな、幸村様とは身分も全く違いますし、わたくしではとても・・・」
自分で言いつつ悲しくなる事実。
易の目の悪さもきっとこういうことなのだろう。
幸村はきっと似合いの素晴らしい妻を娶り、この武田家を盛り立てて行く人物の一人になるのだ。
きっとこれはそういう象徴なのだ。
そんなことをぐずぐず言い始めた。
やれやれ、全く手のかかる事だ・・・と佐助は聞こえない様に呟いた。
ところ変わって。
城の中庭にしゃがみ込み、草をむしる赤い男がいた。
話題の中心、真田幸村その人である。
よくよく見ればその手に握られているのは草ではなく花ばかり。
一心不乱に花を摘んでは花弁を千切っていた。
「・・・、・・・、・・・、・・・・・・・・」
ぶつぶつ何やら呟いている様子で、夢中になっている。
「・・・某は、これを如何受け止めたら良いのか・・・」
何度か同じ動作を繰り返し、放心したように花弁の中へ座り込む。
暫らくそうしていただろうか、ぼんやりと座り込んでいる幸村の耳に佐助との声が入ってきた。
途端、ざわつく幸村の心。
途切れがちの会話に、知らず聞き耳を立てるかの如く集中してしまう。
時々自分の事を言っているようだが・・・?
何を話しているのだろうと更に集中しようとした時だ。
「あれ、旦那。何やってんの、こんなとこで」
佐助が、気付いた。
はっとして花を後ろ手で持つ。
「何隠してんの」
「な、何でもない!」
佐助にだけならまだしも、に花を摘んでいたところを見られるなど御免被りたかった。
「異様に花弁だけが散っておりますね」
幸村の周りだけ花弁がたくさん落ちている事に目ざとく気付いた。
「ここでお昼寝でもなさっていたのですか?」
「い、いやそうではござらんが・・・」
城下の子供達にちょっとした手慰みを教えて貰ったのでござる、と小さく呟く。
その言葉と、先程との話題のこともあり、嗚呼成る程と佐助は一人得心した。
散った花弁がそれを裏付ける。
「・・・成る程ねぇ。旦那ってば、女の子みたいなことしちゃって」
「なっ・・・!佐助・・・っ!!」
多少頬を染めて佐助の言葉に食って掛かる幸村を尻目に。
佐助はを振り返って、笑う。
「ちゃん、旦那ってばちゃんと同じことやってたみたいだよ」
「え・・・っ」
「えぇっ・・・!?」
佐助の言葉に二人が固まった。
勿論は自身が先程何をしていたのか知っている。
幸村とこれから如何にするかの易を占っていたわけだ。
そして幸村自身も、自分が何をしていたのかは分かっている。
花を千切ってはの心を占っていたわけだ。
しかし、お互いがお互いのことを想い、それを実行していた事は知らない。
気付けば佐助は既に姿を消しており、残された二人は気まずくも声を発する事が出来ないでいた。
幸村が。
が。
誰かを想い、それを実行していただなんて。
互いにその相手を知りたいと思うけれど、そんなこと言えやしない二人は。
ただ困り果てたように立ち尽くすだけで。
しかしやがて、その沈黙に耐え切れなくなったのであろう幸村。
「・・・、殿」
「っ、は、はい。何でしょうか」
幸村がおずおずと後ろ手に持っていた花を、に差し出した。
「・・・城下の子供達に貰ったでござる。その、某は花の扱いなど分からぬ故、枯れぬ内に貰ってくださらんか」
「!・・・あ、ありがとうございます・・・」
7枚の花弁が揺れている。
誘われるように手を伸ばしたら、手が触れ合ってぎくりとした。
しかし花を受け取る前に手を引っ込めるわけにもいかないので、熱くなる頬を隠すように俯きながら受け取る。
「部屋に、生けさせて頂きますね」
「そうしてくだされ」
にっこりと、しかし恥ずかしそうな笑みを向けるは。
「時々は、わたくしの部屋にこの花の様子を見にいらしてくださいませ。・・・失礼します」
それは精一杯の誘いの言葉。
唐突に踵を返して、逃げるようにその場を去る。
本当はもっと話したいけれど、幸村と二人きりだ何て。
心臓が早鐘を打ちすぎておかしくなってしまいそう。
それ以上に、このまま一緒にいたら占いの相手を聞いてしまいそうな自分が怖かった。
そこで知らぬ女の名が出てきたら、と思うと居ても立ってもいられない。
小走りで去り行くの背を見つめながら、幸村はを制止する事も出来ずに突っ立っているのみであった。
「・・・部屋に・・・花の様子を・・・?某が、殿の・・・部屋に・・・」
呆然と立ち尽くしながら、ぼやけた頭が言葉の意味を理解するのはもう少し後のことである。
そして、二日後に意を決した幸村がの部屋を訪ねるのは、また別の話。
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佐助ドリームになってしまった・・・。そして矛盾だらけですが気付いても気にしないでください(最低)
純情は難しい。
エロのがよっぽど簡単だと痛感させられております。
でも筆を進めやすいのはエロ無しです。
エロは面倒くさい。
今回は片思い設定です。いやある意味両思い。表記するなら『幸村→←ヒロイン』ってとこでしょうか。
前作よりも時間軸は過去になっております。
時間軸飛び捲くりますが、飽きないうちに思いついたとこから書いてるもんで御容赦ください。