抱きしめても、いいですか。
壊れるほどに。
太陽のひと/手を繋ぐ帰り道
巫女など、戦がなければ然程役に立つ事が無い。
仕方なく易を占おうにも目標がない。
ただただ与えられた部屋で一日を過ごして終わるものだ。
何かしら行事らしい事がなければ必要ではないのである。
だが、この武田の城はそうでもない。
「殿、殿!!」
朝っぱらからどたどたと、足音勇ましく駆けてくる。
大分遠くから、しかしはっきりと聞こえ得る声なので直ぐに誰だか分かってしまい思わず笑いが零れた。
「殿!」
障子の前でぴたりと足音が止んだ。
と、同時に元気な声が名を呼んで。
先程から聞こえてはいたが少し嬉しい。
「何でしょう、幸村様」
既に誰が来るのか承知していたので、実は障子の前で待ち構えていたのだけれど直ぐに障子を開けずに返事をした。
「暫らく戦の予定がありません故お暇ではござらんか?」
「そう、ですね。あまりすることはありません」
「では、その・・・何と言うか・・・そ、そそそ某と・・・」
「何でしょう」
障子を隔てているのに幸村の表情が分かるようだ。
しかし敢えて素知らぬ振りで。
次の言葉をじっと待つ。
「そ、某と・・・!その、さ、散歩にでも・・・」
「・・・はい、喜んで」
そこで漸く薄く障子を開けた。
その先に立っていた幸村は頬を赤く染め、しかし満面の笑みで迎えてくれたのだった。
がこの武田軍に拾われて大分経つ。
穏やかだけの日々では全くなかったけれど現在進行形で幸せだ。
特に、幸村に出会えたことは人生で一番素晴らしい出来事だったといっても過言ではない。
そんな事を考えながら横の幸村を見る。
僅かに指先が触れるか触れないかの距離を保ち、隣を歩く幸村を。
「殿、寒くはありませぬか?」
「ええ。・・・あの、幸村様・・・」
「何でござろう?」
柔らかい視線を向けてくれる幸村に、視線を返し。
「・・・あの、お手・・・を」
「手?手がどうかしたのでござるか?」
失礼つかまつる、と前置きの後、が続きの言葉を発する前にさっと手を取られた。
正しくそれを乞おうとしていたのだが、的外れにも幸村が行動を起こしてしまい二の句が告げない。
「・・・手が、どうされたのだ?」
「いえ、あの、その・・・」
言葉が続かず、しかも幸村に手を握られていると言う事で体温が上昇する。
白い小さな手がほんのりと桃色に染まった。
しかし顔はそれに負けないくらい赤くなっているのが分かる。
見られるのが恥ずかしくて熱くなった頬を隠すかのごとく俯いた。
「お、お手を・・・繋いでも宜しいですかと・・・お聞きしようと、思ったのです、けど・・・」
「えっ」
途端、幸村の頬もさっと赤く染まった。
「あぅ、そ、それは・・・あの・・・」
早とちりで取ってしまった手を離すことも握る事も出来ない。
すると、が赤くなった顔を上げてぎこちなく笑顔を浮かべて。
「・・・いえ、じゃあ・・・このまま、お手を取っていただいたままでも構いませんでしょうか・・・?」
「そそそ某は殿さえ・・・よ、よ宜しければ・・・!」
「では・・・このまま、お願いします」
にっこりと、しかし僅かに照れたようにが微笑む。
どきりと跳ね上がる心臓を押さえつつ、幸村はの手を握った。
柔らかなそれを潰したりはしないように慎重に。
「幸村様のお手は・・・温かいですね」
「・・・殿も、温かいでござるよ」
触れ合う温もりが消えないように、奪われないように。
しっかりと手を握って歩く。
そうして、暫らく歩いただろうか。
「・・・ふぅ・・・」
小さくが息を吐いた。
「お疲れでござるか?」
「・・・ほんの少しだけ、です」
そんな距離を歩いたわけでもないつもりだったが、幸村とでは体力が違いすぎる。
「ならば少し休むと致しましょう」
とは言ってみるものの。
周りを見回しても休めそうな良い場所がない。
城の周りだから当たり前と言えば当たり前であるが。
の綺麗な着物を汚させるわけにもいかず、幸村は少し考えて。
「こちらへ」
と、大きな石がせり出したところへ行くとその上に座り込んで。
「・・・失礼致す」
「え、きゃっ・・・!」
ひょい、とを抱き上げて膝の上に乗せた。
「ゆゆゆ幸村様・・・!?」
今度はがどもる番だ。
いつもよりかなり近い幸村の顔に一気に頬が熱くなる。
「も、申し訳ござらん・・・!しかしこれ以外にどうしても殿の着物を汚さずに休む方法を考え付かぬ故・・・!」
だから、自分が地面に座ってその膝にを抱き上げて。
いつもならば「破廉恥でござる!」と一蹴されそうな、そんな方法で。
見れば幸村の顔も装束と同じくらいに赤いではないか。
思わず笑いが零れてしまう。
「な、何が可笑しいでござるか」
「いえ、可笑しいのではありません。嬉しいのです」
拗ねたような視線を投げてくる幸村に、微笑み返して言った。
「幸村様を好きになって、良かったです」
「ななななっ・・・」
慌てる幸村を尻目にはそっと幸村の胸に頬を預けてみる。
多少恥ずかしくもあったが、湧き上がる羞恥は押さえ込んだ。
「っ・・・殿・・・っ!」
「何でしょう」
破廉恥と言われるかな?と思いきや、中々言葉が返ってこない。
しかし先刻のようにじっと待つ。
「殿っ・・・そ、某・・・」
「はい」
「某・・・殿を・・・だだだだ抱きしめさせて頂いても、よよよ宜しいだろうか・・・!?」
幸村の言葉とは思えない言葉が降ってきて、は目を大きく見開き幸村を見上げる。
「だ、駄目でござるか・・・?」
「い、いえ・・・驚いただけです。・・・お好きに、なさってくださいませ」
そっと目を伏せ、もう一度幸村の胸に頬を預ける。
するとやや躊躇の後に幸村の逞しい腕がを抱きすくめた。
ぎゅう、と強く、息が詰まりそうな程の抱擁。
「殿・・・、某も・・・殿を好きになって良かったでござる」
温かくて、優しくて、何もかもを許してくれるような存在に出会えた事を。
互いが互いに、感謝していた。
「幸村様・・・」
おずおずとも幸村に腕を伸ばす。
ぎくりと一瞬体が強張ったが、しかし拒絶される事はなかった。
暫らくそうしていたが、やがて幸村が体を離す。
離れ行く体温を手放すのを惜しく感じつつ、もそっと手を引く。
「・・・そろそろ、帰るでござる」
「そう、ですね」
この短いデートが終われば幸村は修練に行ってしまったり、信玄の命で出かけたりと忙しい。
それでもまだ平和なうちはこうして毎日だって逢瀬出来るのだからと。
心の中で呟いて、手を取り歩く。
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すっ、すみません・・・っ!!
とうとうやってしまいました・・・。幸村。
だって!だってだって・・・大好きなんです、我慢できなかったんですぅぅぅっ!!叱ってくだされ!!!
ブログでも公言したとおり、もの凄くじれったく進みます。
ええ、ええ、焦らして焦らして焦らしまくって・・・!そして濃いエロを・・・って絶対無理そう。
まずこの設定で銀時みたいに変態な事を幸村にさせれない。ていうか幸村はノーマルなプレイしか出来ないと思う。童貞だし←決め付け。
幸村別人かもしれませんがその辺は推し量ってくださいませ・・・(滝汗
因みに連載ではなく一話完結ばかりにする予定です。
短期連作とかはするかもしれませんが、出来るだけ何処から読んでも大丈夫、というものを目指して行くつもりです。