強く潔く自分勝手でいけ好かない女。
畜生、そんな女から俺は離れられいないんだ。
月が玲瓏と乱れる夜に
嗚呼、つまらない。
今日も今日とてこんな日々。
ただただ上がってくる報告書に目を通すだけの。
そんなもの読んだところで、その場にいない自分はただただ機械的な事実を記憶として蓄積するだけだと言うのに。
人の上に立つということはこういうことなのだろうか。
全く、つまらないものだ。
ロケット団の幹部などと言う立場は。
目を通していた紙の束をどさりと放り、彼女――は立ち上がると近くに居た部下に手招きした。
「どういたしましたか」
「・・・こんなものを読んだところで実入りが少なすぎる。もっとマシな報告書をあげるように伝えておけ。私は部屋に戻る」
「はっ」
がたんを音を立てて席を立つ。
彼女の部下は畏まって紙の束を取り上げた。
それを尻目に部屋を出る。
嗚呼、全くつまらない。
いつか伝説のポケモンをこの手にしたいと思い、伝説のポケモンを追うようになったのは14歳のときだった。
独自の方法で方々を調べ、何とか伝説の鳥ポケモンのうち2匹を手中に収めることが出来た。
その後ロケット団から望む限りの金を出してやるから伝説のポケモンを捕まえるのに協力しろと打診が来た。
二つ返事でその誘いを受けた時は、まさかこんなにもつまらない日々を送ることになるとは思いもよらず。
元々トレーナーの才能があったは瞬く間に取り立てられ、今や幹部をまとめる上層部に籍を置く。
確かに望む限りの金は出る。
好きなだけポケモンの研究をさせても貰える。
しかし。
その検体が全く普通の、ありふれたポケモンばかりでは困るわけだ。
伝説のポケモンに繋がるような何かを持ったポケモンが欲しいのである。
だがロケット団に所属して早5年、それらしい成果は一向に上がっては来ない。
はそろそろこの組織も潮時かもしれないと考えていた。
金も大分溜まったし、この組織を抜けて自分の足で地道に探した方が良いのかもしれない。
このつまらない日々を耐え抜くのはそろそろ限界だと考えていた。
加えて、最近には一つの大きな収穫があったのである。
パシュ。
自室のオートメーションのドアがスライドしてを迎えた。
殺風景なその部屋の真ん中に大きな鳥籠が一つ据えてある。
そして、その中には。
「只今、レイロウ。また派手に暴れたようだな」
「テメェ・・・」
「私の名はだ。全く、物覚えの悪い奴だ・・・」
鳥籠の中や外に散らばった青い羽を見ては溜め息まじりである。
レイロウは、最近が独自に動いて見つけ出したピジョットだ。
普通のピジョットではない。
翼の色が普通のものとは違う、突然変異種である。
「今日こそはモンスターボールに入って貰うぞ」
「ケッ、誰がテメェなんかに捕まるか!」
「ま・・・強がっていられるのも今のうちだ」
僅かに口角をあげて笑みを作ると、はポケットから変わった色のモンスターボールを取り出した。
いつもの赤いものとは違い、何やら青いような紫のような変わった色。
「私の才能を・・・レイロウ、お前に見せ付けてやろう」
不思議な色のボールから出てきたのは、透き通る青い翼を持ったフリーザー。
飛行タイプに加えて氷タイプ。
飛行タイプのレイロウには極めて分の悪い相手といえる。
「紹介する。私の自慢のフリーザーで、名をセツゲツと言う。もう一匹いるが・・・その一匹は使わずとも十分だろうからまたその内にな」
冷酷な笑みを口許に湛えレイロウを見つめる。
既にセツゲツの翼から放たれている冷気で部屋の温度が低くなったように感じられる。
レイロウは舌打ちした。
一目見て分かる。
この歴然とした力の差を。
目の前の女が育てたこの相手は間違いなく強いことを。
いけ好かない女ではあるが才能は本物のようだ。
流石にモンスターボールにもいれずに自分をこの部屋まで連れ帰っただけのことはある。
「セツゲツ、鳥籠の鍵を開けてやれ」
「・・・」
無言で頷いたセツゲツは言われるままにレイロウの鳥籠を開け放った。
と、同時にレイロウは電光石火で隙を見せずに外へと飛び出す。
しかし、後ろから吹きすさぶセツゲツの冷気と彼の高速移動により瞬く間に距離を縮められた。
ばさりと両者の翼がはためく。
同時に繰り出した風起こし。
風と風がぶつかり部屋の中に竜巻が発生したかの如き様相を見せた。
吹き荒れる風には立っているのがやっと、目を開けているのも辛いほど。
しばらく風と風が押し合っていたが、冷気が乗っているだけセツゲツの方が有利だった。
押し負けたレイロウは吹き飛ばされて壁にぶつかる。
「ぐっ・・・」
きつく壁に背を打ちつけ、ずるりと落ちた。
「・・・」
セツゲツはそれを見て、の方を向いた。
指示を待っているのだ。
「セツゲツ、もう良い。・・・そら」
ぽい、とがモンスターボールを投げる。
「っ・・・」
中に吸い込まれたレイロウ。
往生際悪くじたばたと暴れては見るが出られない。
畜生、これまでか。
がくりと観念したレイロウは、果たしてに捕まった。
大人しくなったモンスターボールを拾い上げて、は小さく微笑む。
「セツゲツ、良くやった。戻れ」
セツゲツをモンスターボールの中に収め、改めてレイロウの入ったモンスターボールを開く。
「・・・言っとくけどな、テメェの指図は受けねぇぜ。特にロケット団絡みのことはな!」
不機嫌そうに言うレイロウには笑ってみせた。
「構わないさ。私にはセツゲツともう一匹のセキランとがいる。お前を捕まえた理由はただ一つ、お前が誰の手にも渡らないようにするためだからな。行きたければもう何処なりと行っても構わないぞ」
「・・・何だ、ソレ」
「お前に出会えて私は生きる道を増やしてもらったからな。伝説のポケモンだけじゃない。世界中の突然変異種も私が全て捕まえようと思う。野心は大きい方が良い。ただ、お前の自由を奪うつもりはない。私がゲットしてさえいればお前が誰かに捕まる事もないからな。その事実だけで良い」
とどのつまりは独占欲。
ある種コレクターに近い考えである。
少しコレクターと違うのは手元にいなくても良いという考え。
どうせ6匹以上は持ち歩けないし、全員に平等に愛情を注げもしない。
それならばせめて。
望んで捕まえられた者ではないのなら、自由だけはその手にと。
「私が好かないならば行けば良い。止めはしない」
さあ、と窓を指された。
澄んだ青い空が見える。
嗚呼、なんて。
何処までいけ好かないんだ、この女は。
「チッ・・・そんな風に言われると行けねぇだろ・・・!」
畜生、強くて潔くて、冷酷かと思えば情けをかけてみたりして。
何だこの女は。
「・・・困ったな。レイロウまでもそう言うのか」
「何・・・?」
「セツゲツもセキランも同じ反応だった。人間如きに捕まるは不服と言うから行けといったのに、そう言うと手のひらを返したように残ると言う。お前も同じ反応だ」
肩を竦めて訳が分からないという顔をする。
成る程、何となくその二匹の気持ちが分からなくもないレイロウ。
強くて潔くて自分勝手なこのいけ好かない女の言いなりになるのは嫌だという気持ち。
この女の言いなりになるくらいなら自由などいらない。
そしていつかこの鉄壁の女を陥落させてみたいと思う複雑な感情。
恐らくあの涼しくも端正な顔をしたセツゲツもそう感じたのだろう。
そして未だ見ぬもう一匹の仲間、セキランすらも。
強い目をしたに自分が映れば良いと、きっと。
「・・・まあ、良い。私の傍にいたいなら勝手にするがいいさ。ところでお前は空を飛べるのか」
「当たり前だろ!いちいち苛つくようなこと聞くな」
「そうか。丁度良い。セツゲツは冷たすぎて背に乗れないし、セキランは静電気が激しくてな。空を飛べる奴を捕まえてこようと思っていたところだ」
「・・・何のために」
「今夜組織を抜ける。全く、この5年は無駄だった。金だけは溜まったがその他は何の進歩もない。やはり自分で努力せねば野望には近付けんということか」
レイロウは面食らった。
これで自分も悪事を働く事になるのかと思った矢先、ロケット団を抜けるという。
「お前の背なら凍える事も痺れる事も無さそうだ」
「・・・本気か」
「当たり前だ。こんなつまらん日々にはうんざりしている。5年前の方が余程楽しかった」
そう言って過去の話をし出すは本当に楽しそうであった。
つられてレイロウも微かに表情を和らげる。
いけ好かない事はいけ好かないが、しかし以外にやっていけそうだと思った。
そしてその日の深夜。
或るビルの一室から一匹のポケモンが飛び立った。
ゆらりと月光が、玲瓏とその姿を映し出して揺れる。
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すみません・・・ピジョットの色違いって何色なんでしょう。
知らないんですよね・・・あたし。だから適当に青色にしちゃった・・・。幸せの青い鳥さんです(センス皆無!)
っていうか未だかつて野生の色違いに出会ったことがないんですけど。
あのギャラドスは例外ね。でもそのギャラドスもゲットできないと勝手に思い込んで殺しちゃったんですが(死)
新しい仲間の外伝として書いてみました。
偉そう且つちょっと男の子っぽい喋り方をしているヒロインですがこれはある意図を持って書いたものなんです。
実はこの後この3匹のある種逆ハーレムな内容をちまっと書けたらと思ってシリーズの方に収録し、本当に続きを書ければ上記のある意図も達成されるのですが・・・。
ただ何時書くかも本当に書くのかも全然未定で・・・。
書けたらいいなと、そう思っております。
因みに偉そうな喋り方をしておりますが彼女は19歳〜20歳くらいの若い設定です(どうでもいい)