「・・・トットリぃ、オラ、ちょっくら出掛けてくるべ」

「何処行くっちゃ?」

「・・・サバトの森」




004/好き








タケウチ君から差し出された(××万円)の液体を目の前にミヤギは迷っていた。
サバトの森に来たのは夕方だったのに、既に外は暗くなり始めている。
それくらい迷っていた。
「これさ飲めばオラも女子になれるんだべ・・・だども・・・」
やばい色の、そしてやばそうな匂いを発する、やばそうな薬。
その入れ物には「女の子になれる薬☆」なんてラベルが貼られていて如何わしいことこの上ない。
ミヤギが何故こんな危ない薬を手にしようとしているのか?
実はミヤギはベストフレンドであるトットリに密かな想いを寄せていたのだ。
男であるはずのトットリを好きだなんて、自分の精神を疑いかけたこともある。
だけども考えることが嫌いなミヤギはすぐに悩むのを止めた。
そして安直にも「オラが女子さなればトットリもオラのごと好いでくれるべ!」という考えに至ったので。
そんな魔法薬はないかとタケウチ君の処へ尋ねて来たところなのである。
タケウチ君とテヅカ君は簡単にそれをミヤギの目の前に差し出してくれた(値段はともかく)
「・・・とりあえず迷っても仕方ねぇべな・・・貰うべ」
ぱんっと机の上にお金を置き、ミヤギはその場でその薬を飲み干した。
「っかー・・・っ、すげぇ味だ・・・!」
失神しそうな程の酷い味にミヤギは顔を顰める。
そしてぐらりと視線が揺らいだ。
「うげ・・・っ目が・・・回・・・・・・・」
貧血を起こしたような酷い眩暈にミヤギは思わず膝をついた。
こみ上げてくる吐き気を必死で堪えながら肩で荒く息をする。
暫くしてやっとそれが引いた頃。
ミヤギの肩をタケウチ君の小さなあんよが叩いた。
「・・・何だべ・・・っ!?」
振り返ったミヤギにタケウチ君は鏡を差し出す。
そこに映る自らの姿に息を飲んだ。
流れるしなやかな金の髪が初めてパプワ島に来たときと同じくらい長くなっていた。
そして柔らかくて白い肌に窮屈になった胸元。
「これが・・・オラか・・?」
声も細い女の声だ。
呆けたように鏡に見入るミヤギの頭の上にふわりと何かが振ってきた。
見上げればテヅカ君がミヤギの頭の上を飛びながら手には『サービス』と書かれた札を持っている。
良く見ればそれは女物の服だった。





(うぅ・・・スカートなんか穿いたの生まれて初めてだべ・・・。おちつがね・・・)
すーすーする足下が落ち着かなくて何度もスカートの裾を押さえてみたり。
この姿で帰った時のトットリの反応を予想して笑いをこぼしたり。
うきうき明るい気分でミヤギは自分達が生活している洞窟へ入っていった。
「ただいまだべ」
勝手知ったる自分らの住処。
ミヤギは臆することも無く当然のように堂々と入っていった。
だけど、勿論。
トットリには見知らぬ女が勝手に入ってきたとしか思えぬわけで。
「・・・?誰だっちゃ・・・?」
突然の訪問者にトットリはきょとんと目を見開いた。
「オラだべ。わがんねか?トットリ」
大分予想通りの反応に気を良くしたミヤギがくねっとしなを作ってみせる。
一瞬トットリが眉を顰めたが、すぐにまさかっと言うような顔つきになった。
「み・・・ミヤギ君・・・!?」
「あたりだべ!!」
トットリの回答にますます気を良くしたミヤギがいきなりトットリに抱きついた。
思わず体に響くだろう衝撃を予想してトットリは身構えたが、ミヤギは思いの他軽く。
驚くほどふわりとトットリの中に飛び込んできた。
なびく髪が女特有の不思議な香りを匂わせ、どきりと心臓が跳ね上がる。
「そ・・・そのカッコはどないしたんだや!?」
「訳ありで女になっだんだべ。オラ美人だろ?」
にっこりと笑いながら見上げてくる親友は確かに物凄く美人になっている。
いや、元々ミヤギは顔は綺麗だったし然程驚くことではないのかもしれないが。
だけどこんなに小さく細く軽くなった親友は、そういう綺麗さとはまた別の、そう女の子として綺麗になっていて。
トットリは僅かに頬が熱くなるのを感じて、目を逸らした。
「ま・・・まぁそうだっちゃね」
「どした?トットリ。なして目ェそらすんだ?」
可愛らしく首を傾げながら見上げる親友にトットリは無言で答えた。
後ろめたくて言えるわけがない。
少し大きめに開いたキャミソールの胸元が気になって直視出来ないだなんて。
不思議そうに見上げてくるミヤギを引き剥がしながらトットリは慌てて話題を変えることにした。
「と、ところでミヤギ君。そろそろ夕飯にせんか?」
「そういや腹減ったべな。そうすっべ」
同意すると、ミヤギは机の前に座った。
初めは胡坐をかこうとした後ふと気付いたように足をそろえて座りなおす。
それをトットリはぼんやり見ていたが、しとやかに座っている様は人形のようだ。
「なに突っ立ってるべ?」
「え、あ・・・いや、なんでもないっちゃ」
元男の親友に、見とれてたなんていえるものか。
ちょんとミヤギは首を傾げる。
「・・・あっ!分かったべ!!!今晩はオラが当番だ。わりぃわりぃ」
いや・・・そういうことじゃないんだけど。
だけどトットリはもう余計なことはいわないことにした。
それに料理を作るミヤギの後姿を見ていると、綺麗な女の子が自分の為に食事を作ってくれてる風景もいいものだ・・・なんて。
その出来栄えがどんなものだったにしろ。




南国の夜は、早い。
どうせ暗くなってしまえばやることもないのだ。
と、そこでトットリは重大な事実に気付く。
「えーっと・・・ミヤギ君」
「なんだべ?」
「いつ・・・元に戻るんだっちゃ?」
ひきつった笑みでそろそろ就寝準備に取り掛かっている親友に聞いた。
「いつって・・・オラしらね」
「しらんって・・・そのまま寝るつもりだらぁか!?」
「当たり前だべ」
しれっと答えるミヤギにトットリは頭を抱えた。
いつもは気にもしていなかったが、トットリもミヤギも一緒に寝る。
だけどこの状態は・・・。
「お、女の子と一緒には寝れないっちゃよ!!!」
真っ赤になって叫んだら、ミヤギがにやっと笑った。
「なんだ、おめ、そげなごと気にしてんだべか?大丈夫だべ!こっちこいや」
「・・・」
おいでおいでをするミヤギを見てトットリは溜め息を吐いた。
そりゃ元男のミヤギを襲うとかそんなおかしいことするわけない。
ミヤギもきっとそう思っているのだろうと。
(だども、男の僕に接しちょーミヤギ君はええだらぁけど女のミヤギ君に接しちょー僕は・・・)
完全に信用してくれなんていえない。
だってこんなに可愛い子が。
女っ気ゼロのこの島に、いやむしろ自分の隣にいるんだなんて。
「心配せんでもオラはぜってぇにおめに襲われたりしねぇからよ!」
「・・・なしてそげに自信たっぷりにいえるんだっちゃわいや」
「そらぁ、おめェ・・・」
まだ少し離れて座り込んでるトットリの腕を掴んで引っ張り込んだ。
流石に重いと思ったが、不意を突いたので思ったよりも容易く。
そして思ったよりもいい感じに、トットリはミヤギの方へ倒れこんだ。
「な、なにしよるん?ミヤギ君・・・?」
「こうすんだべ」
体勢を崩したトットリの背の上にミヤギがひらりと馬乗りになった。
勿論その体重は軽く非力なものではあったけれど。
「トットリ、心配せんでもおめはぜってぇオラを襲えね。なしてかっつーとオラが今からおめを襲うからだべ!!」
「はァ!?」
「観念するべ、トットリ」
言いつつミヤギはトットリの背にぎゅうっと抱きついた。
押し付けられる柔らかな感触にぎくりと体を震わせる。
そんなトットリに構わずミヤギは後ろから細い腕を回して耳元に唇を寄せた。
吐息が耳につきそうなくらい、近くに。
「・・・なぁ・・・オラおめのこと・・・。気持ちわりがもしんねぇけんどもよォ・・・おめのこと・・・好きなんだべ」
トットリを抱く腕に力がこもる。
耳元の女の声は震えている。
・・・顔を見ていないのでともすれば他人の声だ。
「おめも・・・オラのこと好ぎだって言ってくんろ」
熱い声で囁いて、ミヤギはトットリの耳を軽く舐めた。
「うわっ・・・ちょぉ・・・待っ・・・」
遠慮がちな舌がくすぐるようにトットリの耳を伝う。
吐息がそっと耳を掠め、ミヤギの腕はますます抱く力を強くする。
「好きだべ・・・トットリ」
体をぴったりと押し付けて首元に顔を埋めた。
そんな状態で囁かれた告白を無視するなんて。
トットリには、出来なくて。





「はぁ・・・っ、はぁ・・・っ」






気付けば背中に乗っていたはずのミヤギが自分の下にいた。
夢中で唇を交わし、しっかりと味わって。
「んっ・・・ん、トットリ・・・ぃ」
ミヤギは嬉しかった。
夢にまで見た瞬間だ。
思わず自らキャミソールを捲り上げてトットリの手を膨らんだ胸の上に導く。
「なぁ・・・触ってくれや。オラおめの為にこんな風になったんだべ」
上擦った荒い呼吸のミヤギの言葉。
胸の上のトットリの手をゆるく撫で、にこりと笑う。
ああ、可愛いなと思いトットリはミヤギの上に、脱力したように覆いかぶさった。
「・・・はは・・・僕の、負けっちゃね」
「トットリ?何の話だべ」
「・・・・・・僕も好きだってことだっちゃわいや」
ミヤギの目が驚いたように見開かれ、トットリはそれに力なく笑顔で応えた。
一瞬固まっていたミヤギだったがその返事に飛び起きる。
「わっ・・・」
「今の言葉・・・マジだべか!?」
嬉しそうに満面の笑みでミヤギはトットリに抱きついた。
そしてそのままトットリを押し倒し、キャミソールを脱ぎ捨てて。
「み・・・ミヤギ君?なにしよる・・・・・・・・」
「さっきも言ったべ!オラがおめを襲うんだ!!」
さっきまでのしおらしれは何処へやら。
通じ合ったと思ったとたんにミヤギのペース。
そういえば友達になったときも友達になるまではしおらしかったっけ・・・とトットリは昔を思い出す。
「今晩は寝かせてやんねぇかんな!」
「・・・」
嬉々としてトットリの服をまくるミヤギに声も出ない。
女の子にこうされてる自分もどうなんだろう。
だけど、相手がミヤギなら悪くないか。
トットリは無理矢理自分を納得させて、嬉しそうなミヤギを見上げるのだった。









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あはは。長くなりそうだったからエロ消しちゃった。
ていうかミヤギはやっぱしおらしいの似合わないから、押し倒された時点でエロかけねーなぁと思っちゃって。
・・・トットリもミヤギも方言わかんねーです。別人です。
うちは関西圏(・・・って言ってもええんかわからんくらい微妙な位置)におりますのでアラシヤマが一番書きやすいんどす。
変な方言かいてると思いますが、そこんとこあんまり触れずに・・・お願いします・・・。
こいつへったくそやなぁとパソコンの前で鼻で笑ってやってください。
ところでミヤギもトットリも28です。お互いにもう大人だよな。ていうかミヤギを女の子とか表記しちゃってるし。しかも確信犯だし。
・・・鼻で笑ってやってください。