こんな自分が      教会長    

  つい最近の話であるが、今年金光八尾を卒業した大学生が、どうしても私に聞いてもらいたい話があると言ってやってきた。とても落ち込んでいるので、元気が欲しいという。
 彼の話は、彼女に5日前にフラれた…ようするに失恋して、何も手につかなくてどうすればよいのか、という、ありきたりな失恋話であった。今まで、多くの現役生や卒業生から、類似する話をよく聞いてきている私は、「またか…」と思いつつ、真剣な眼差しで話す彼に、何を言ってやるべきかと考え考え、話を聞いていた。
 私が生徒たち、特に男子生徒から聞く失恋話は「あんたのことが嫌いになったわけではないねんけど、他に好きな人ができたから…」と言う場合が多い。男にとって、一番痛いふられ方のようだ。

 1時間ばかり、彼の話につき合ったあげく、元気を取り戻して、帰って行った。アドバイスのうちに入らないと自分で思いつつ、「恋愛は自分を成長させる栄養剤」。「もし、その彼女と縁があれば必ず向こうからコンタクトを取ってくるから、こちらから連絡はしないように」。「彼女のことが好きやった自分を誇りにしいや。それだけ人のことが好きになれるってことがわかったやろ」などなど。
 それにしても、卒業した高校の先生に、自分の失恋相談をしに来るなど、私が逆の立場なら絶対していなかった。そんな彼らがかわいくて仕方ない。
 実は彼が来た前日、私にとっては、おそらく生涯忘れることのできない悔しい日…。そう、我が愛する阪神タイガースが、歴史的逆転優勝を読売に奪われた日であった。職場の先生方の大多数も阪神ファン。しかも私の虎党ぶりは、校内でも知らない人がいないくらい(これはかなり恥ずかしいが)有名で、あいさつに次いで出る話題は、阪神のことである。

 彼が来た日の朝、よほど私の顔がさえない様子だったのか、数人の先生が「近藤先生、体調悪いんか?」「大丈夫?」と真剣に心配して下さった。他人から見れば、本当に落ち込んでいるように見えたのだろう。次の瞬間、自分が可笑しく思えてならなかった。「何の利害もないプロ野球チームの勝敗で、ここまで気分が凹むなんて、本当に私は幸せなやっちゃなあ」と。19才の彼に、この話をしてあげられたのは言うまでもない。「恋愛で、浮かれたり沈んだりできる、今の君が生きているこの時代って、実はめっちゃ幸せなんやで」。




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