「心で見なくっちゃ…」    近藤佐枝子


「心で見なくっちゃ。

ものごとはよく見えないってことさ。

かんじんなことは目に

見えないんだよ。」

これは、以前の和らぎにも書いたことのある、「星の王子さま」に出てくる言葉のひとつです。知らない方のために説明しますと、自分の星に咲いたひとつのきれいな花。王子さまはうれしくて、花の世話をします。でも花は、ついたてが欲しいとか、毛虫が嫌だとかわがままばかり言うので、王子さまは花をおいて旅にでます。最終的に着いた地球で、キツネに上の言葉を言われるのです。その言葉で王子さまは、“すること”“言うこと”で判断してはいけないと気づき、自分は花のおかげで、いいにおいにつつまれ、明るい光の中にいたとわかるのです。 

これは、日頃から自分に言い聞かせている言葉のひとつです。そして、自分にとってとても大切な言葉のひとつです。 

 先日、母方の祖父が亡くなりました。恥ずかしながら、私にとって祖父の思い出は、あまりいいものではありません。叱られていた思い出しかないのです。農家だったので、叱られて、よく納屋に閉じ込められました。また、私の干支が丙午だったので、「お前は午だ。午だからうるさい」などとよく言われました。今思えば、田舎だし、昔の人だし、そういう事にこだわることも、無理もないと思えるのですが、子供のころはすごく傷ついていました。だから祖父に対して思い出せる顔は、怒った顔と、お酒を飲んでいる顔だけなのです。

 私は、短大で京都に来て以来、ずっとこちらの方に住んでいるので、祖父に会うのは、長男が生まれて、初ひ孫だからと会いに行って以来なので、十年以上振りでした。ですから、私の中の祖父は、怖い祖父しかいなくて、年をとった祖父の姿を知らない私は、祖父の死を、冷めた感じで受け取るのかなと思っていました。でも実際、棺の中にいる祖父を見て、自分の中での、祖父の存在の大きさに驚きました。座ってお酒を飲んでいる姿、怖い顔で怒っている姿、それがすごい安心感を与えてくれていたという事に、気づきました。

 祖父と同居していた大学生になる従姉妹が、祖父の介護を通じて看護士になりたいと思ったと語っていました。この志も従姉妹に祖父が与えてくれたものだと思うのです。

 祖父の私たちに与えてくれたものは、目に見えるものばかりではなくて、目に見えないものもたくさんあるんだということに、気づいて欲しい。そして、それの方がとても価値あるものだと気づいて欲しい。家族みんなが、思いやって生きていけるように願っています。

 祖父の死を通して私のこのお道にご縁を頂いた意味も実感できた気がします。




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