気づかせていただくということ   近藤佐枝子      

「潜水服は蝶の夢を見る」という映画をみた。この映画は、実話をもとにした作品で、生きるということが淡々と描かれている。
 ある有名ファッション誌の編集長が、42歳で“ロックトイン・シンドローム”になってしまう。その症状は、左目のみ動かせるという全身麻痺で、耳は聞こえ、脳には異常がない状態だった。病室で意識を取り戻し、それに気づいた彼は死を願う。それは、当然の心理だと思う。全く体が思うように動かせない。でも健康だった時の自分のことはしっかり覚えているし、それを捨てることはできない。しかし、そんないらだちや、苦しみを抱えていても、それを表現したり、実行したりする術が彼にはないのである。動くのは左目だけなのだから。そんな中、言語療法士が、唯一動く左目を使ったコミュニケーション法を見つける。答えが「はい」だったら1回まばたき、「いいえ」だったら、2回まばたきをするというもの。そしてついには、アルファベットを読み上げ、彼がまばたきをした文字を書きとめ、言葉にしていくという方法も見つける。ここでやっと彼は死を望むということを人に伝えることができたのである。
 その後、彼は友人の「残された人間性に必死にしがみつけば、生きていける」という言葉に「僕は自分を憐れむのを止めた」という心地になり、生きることを決意する。そして、自分には“記憶と想像力”が残されているということに気づき、自伝を残すことを決意し行動に移すのである。その後アルファベットを読み上げ、記録してくれた人とともに、20万回のまばたきで自伝が完成する。彼は完成した10日後に亡くなってしまうのだが、きっと周囲に大きな物を残したに違いないと思う。
 しかし、最後まで彼は彼のままだった。心の中で毒を吐き、女性好きなところは相変わらずで。ただ何かが違うとすれば、それは“気づいた”ということだと思う。自分には“記憶と想像力”が残っていると、そしてそれで何ができるかということを、人と接することで気づいたということが、彼の生きるという願いを強くしていったのである。
 私たちも気づいていかなければならない。きっと神様は、私たちに色々なメッセージを送ってくれているのだと思う。人や、物や、起こりくる事や、夢や、メディアなど私たちのまわりにある、ありとあらゆる物を使って…。だから、そのメッセージをしっかり受けられるように、そのメッセージをしっかり自分の物にできるように、日々の信心の稽古にはげみたい。そして、そのメッセージに気づかせて頂くタイミングを願う事も、忘れてはいけないと思う。
 




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