まんねんホーイ
 『月が落ちるようなこと』

三日月が、キリッと空にうかんだ、ある夕方。
まんねんが、
「ホーイ、月が落ちるようなこと、飛んでこい」
と、滝のそばを歩いとったら、大きな泣き声が聞えてきたんや。

「ああん・・・・・・どこにも、ないよ

子グマが、あおむけにひっくりかえって、手足をバタバタさせとる。
まんねんは、子グマに聞いてみた。
「いったい、どなんしたんや?」
「ああん、落し物をしたんだよ

「何を落としたんや?」
「月の輪だよ


なんとまあ、子グマの首には、三日月の形をした白い月の輪があらへん。
この辺にいるクマは、みんな、ツキノワグマやのに・・・・・・。
「母さんに、ひとりで、さがして来なさいって、おしり、ぺんぺんされたんよ

  


文:吉橋 通夫

絵:佐藤真紀子

まんねんは、空の三日月を見上げた。
「あれが、落ちてきたらええのにな」
「お月さまなら、あそこに落ちてるよ

子グマが指さした滝つぼの水面(みなも)には、白い三日月がうかんでいる。

「あれは、うつってるだけやで」
ところが、お月さまが雲にかくれても、まだ水の上にあるやないか!
「子グマ君。飛びこんで、たしかめておいで」
「ああん・・・・・・こわいよ

「君の母さんは、こわがり虫に勝ってほしいから、おしりぺんぺんしたんやで」

まんねんが、子グマうを滝つぼのほうへおしたら、まんねんにしがみついてきた。
「ああん、こわがり虫に勝てないよ

子グマでも、力は強い。
もみあっているうちに、まんねんのほうが、滝つぼへドボン!
「うわっ、た、たすけてえ」
わざと、おぼれるまねをしてたら、すぐ横に、大きな水音がしてな、子グマが、まんねんをせなかに乗せて、岸まで運んでくれたんや。
もうそのときには、首に月の輪が、しっかりついてた。

空には、もうひとつ、三日月がピカンと光ってたんやて。

          2003年2月6日 毎日新聞