そったく

2002年2月28日 S新聞「窓辺」より抜粋
 「啐啄(そったく)」。
この言葉に出合ったのは、もうだいぶ前のことである。
戦国武将武田信玄が岡崎城の家康にあてた手紙の表に、
この啐啄の二文字があった。家康は家臣を集め
「だれかこの意味を知る者はおらぬか」と尋ねたが、
だれ一人知る者はいなかった。
数日を過ぎ、たまたま通リかかった港南和尚に尋ねたところ、
 「これは鶏が卵を孵化させる時の一瞬を言う。
  啐は殼の中で雛がつつく音、啄は母鳥が殼をかみ破ること。
啐啄同時、逃したらまたと得難い時機」。
確かに母鳥が卵を抱え温め続けて、途中で嫌になり、
殼を破ってしまえば、もちろん雛にまで育っていない液体だ。
信玄が教えたのは、
物事には絶妙のタイミングとチャンスがあるということであった。
以来、家康はじっくり考え、常にチャンスを狙った。
そして天下人になったのである。
    (故西川 昭策 当時 旅館「日本閣」代表 清水市)